第57話 マーワイバーン
というわけでウルネア観光地化計画は着々と進んでおります。
それから半年が経ち、俺の年齢も一つ進み、ゲーム開始時へと一年近づいた。
11歳の春。
俺はとある日の夜。俺はとある式典に参加するためにウルネアの街にやってきたのだが……。
な、なにもない……。
ここのところすっかり引きこもりライフを満喫していた俺は久々に降り立ったウルネアの市街地の変貌ぶりに我が目を疑った。
これまでは当たり前に存在していた商店や住宅、その他役所などの建物が綺麗さっぱりなくなって更地へと変貌していた。
いや、こうなるのは知っていたのだけど、いざこの目で何もない平地を目の当たりにするとなかなかショッキングではあるな……。
いや、ホント……。
ウルネアの街が更地になった理由。
それはもちろんウルネア観光地化計画を実行に移し始めたためだ。
ここにショッピングモールや巨大ビルなどを建設して、観光都市を作り上げるのが目的だ。
この広い世界のどこにもないような観光都市を作りたい。
が、そのためには大規模な区画整理が必要なのだ。
そのためにウルネアの住民たちには移動して貰うことになった。
住民の移動は簡単だったかって?
いや、死ぬほど大変だったよ。
とりあえず移動に応じてくれる領民には手厚い保証、具体的にはお金と新設マンションへの優先居住権を渡した。
商いをしている者にも売り上げの保証と、ショッピングモールへの出店の権利を渡した。
それにも応じてくれない人々には俺が直々にその人の元へと出向いて土下座した。
いや……まさか意固地な領民たちも国王が直々にやってきて土下座するとは思ってなかったみたいでひっくり返ってましたよ……。
が、社畜時代には何度か土下座をしたこともあるし、これだけで立ち退いてくれるなら土下座ぐらいいくらでもしますよ。
ということで無事ウルネアの住民たちを街の外れに一時避難させたところで、工事は始まった。
今はまだ地面を平らにしたばかりだけど、ここから基礎を作る段階になれば俺の出番である。
ここに掘っ立て小屋を建てて寝泊まりし、昼夜問わず基礎に石化魔法を施すために馬車馬のように働くことになる……。
辛い……。
が、それはまだ一ヶ月ほど先の話である。
ならば今宵、俺は何のために馬車に乗ってわざわざやってきたかというと……。
「ローグさま、到着しました。足下にお気をつけてお降りください」
と、エスカレーターの案内音声のような言葉で馬車から降りるようにフリードから促された俺は、何もない大地の中で唯一存在する人工池の近くに降り立った。
人工池の周りにはウルネア中から集まった領民たちが取り囲んでおり、その中に設置された来賓席へと俺は移動する。
「「「「きゃああああっ!! ローグさまああああっ!!」」」」
相変わらずショタ需要があるらしい俺は女子たちからの黄色い歓声に包まれたので、レスポンスとして手を上げるとさらに大きな歓声が辺りに響きわたった。
俺がこの人工池へとやってきた理由。
それは今宵、この人工池でとある除幕式が開催されるからだ。
現に池の端には高さ10メートルほどのドデカいタワーのような物が、これまた巨大な布によって覆われているのが見えた。
す、すごく……大きいです……。
そのドデカいタワーが一番よく見える玉座に腰を下ろすと、タワー近くに立つおねえさんが拡声器で民衆たちに呼びかける。
どうやらイベントが始まったようだ。
ということで、おねえさんが設計を担当した俺への感謝と、集まってくれた民衆たちに感謝を述べると早速除幕式が行われることになった。
そこで俺はフリードに案内されてタワーのすぐ側へと移動すると、おねえさんにハサミを手渡される。
俺の目の前にはリボンのような物がピンと張っており、これを切れば幕が下りる仕掛けになっているようだ。
「それではローグ陛下、よろしくお願いします」
と、おねえさんに言われ、俺はハサミでテープを切断した。
すると、リボンが切れたこと……とはまったく関係なく、タワーの背後で「「「えいさっ!!」」」というかけ声とともに野郎たちの手によってタワーにかかった布が下ろされた。
いや、俺がリボンを切った意味よ……。
と、思わなくもなかったが、とにもかくにも布は取り払われ、そこには高さ10メートル近くある石で出来た巨大な双頭のワイバーン像が姿を現した。
これはアルデア王国の国旗にも描かれているアルデア家の紋章のワイバーンだ。
それと同時にワイバーンの足下に設置された無数の照明石がワイバーンを照らす。
そのワイバーン像の登場に民衆たちは一瞬の沈黙の後に。
「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」
と、大きな歓声を上げた。
あ、ちなみにこのワイバーン像はリューキ・カワタの元に出向いて、強制的に全ての仕事を後回しにさせて、過労死寸前まで追い込んで作らせた物だ。
それを俺が石化させて完成した物である。
うむ王国の威厳を知らしめるにはもってこいの逸品だな。
が……だ。
が、このワイバーンちゃんはただの石像ではないのだ。
ということで俺はフリードに視線を向ける。
するとフリードはワイバーンちゃんの後ろに待機する技術者たちへと視線を向けた。
それから数秒ほど経ったところで突如、ワイバーンは口からドバッと勢いよく水を吐き出し始めた。
それを見た民衆の歓声が再び辺りに響き渡る。
マーワイバーン。
これがこのワイバーンちゃんの名前である。
そして、このマーワイバーンちゃんこそがウルネア王国繁栄の証なのだ。
街はまだ建設途中ではあるけど、いずれはここら一帯が大都市となって、このマーワイバーンちゃんはこの巨大都市のランドマークとなるはずだ。
設置された無数の照明石によって池全体が幻想的に輝くのを呆然と眺めながら、俺はウルネアの開発成功を静かに願った。
※ ※ ※
ということで除幕式は見事に成功し、民衆たちもその余韻に浸る中、俺はフリードの案内によって早々に馬車に乗り込んで人工池を後にすることになった。
よし、部屋に戻ってごろごろしよう。
なんて考えながら馬車に揺られていた俺だったが、馬車は城……ではなく別の方向へと向かって進んでいく。
「あ、あれ……フリードちゃん、おうちはそっちじゃないよ?」
「ローグさま、これよりリーユ殿との会談の予定にございます。朝の時点でそのことをお伝えしたと思いますが……」
「え? あ、そ、そういえばそうだったような気もする……」
そう言えば、朝食の際にそんなことを言われたような気がする。
昨晩はラクア堕落化計画の第二段階について色々と考えていてあまり寝ていないのだ。
そのせいで朝のことはあまり記憶になかった。
ということで俺を乗せた馬車は城……とは真逆にある街の外れへと移動していった。
それから10分ほど馬車に揺られたところで馬車は止まり、俺はフリードに付き添われながら馬車から降りると、建物が破壊され更地となった土地に無数のテントが並んでいるのが見えた。
ん? なんかの難民キャンプか?
テントの周りにはメイド服やナース服など妙に淫乱なコスチュームを身にまとった羽のついたおねえさん方が楽しそうに談笑をしているのが見えた。
その中に見知った顔が一つある。
「あっ!! ローグ~」
アルデアに密航してきたサキュバスリーユである。
彼女は俺の顔を見つけると何やら嬉しそうにパタパタと羽を羽ばたかせながらこちらへと飛んできた。
「おう、久しぶりだなリーユ。あと、俺はローグさまな」
「ねえねえローグ。ガザイ王国からお友達をたくさんつれて来たわよ」
聞いちゃいねえ。
リーユはそう言ってコスプレ姿のおねえさん方を指さした。
「どうやらそうみたいだな……」
「ここなら毎日お腹いっぱいご飯が食べられて、生気も抜き放題だよって宣伝したらいっぱい応援に駆けつけてくれたの」
「おうおう、色々と語弊がある気がするなぁ……」
「で、私に話ってなんなの?」
「え? あ、そうだった……」
ということで俺は彼女にウルネア観光地化計画、夜の街編について彼女に語ることにした。
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