第55話 帰国とあらたな野望
というわけで俺たち一行は魔法石と魔法石の加工、さらには一部の兵器を手に入れて帰国することになった。
変態の世話をしてヤクザの世話になるという、出発前には到底想像もできなかった今回の外遊となったけど、ま、まあ、とりあえず目的以上の収穫があったのでよしとしよう……。
そして、
「ねえねえローグっ!! アルデア王国が見えてきたわよっ!!」
レビオン・ガザイ王国の港を出港して数週間、船はアルデア王国近海まで戻ってくることができた。
嬉しそうに俺の袖を引っ張るミレイネ。
やっと帰ってきた……これでしばらくは家でゴロゴロできる……。
そんな安心感から、思わず安堵のため息が漏れた。
「ねえ、あそこがローグのふるさとなの? じゃああの奥に見えるお城はローグの家かしら?」
「お、おう、そうだな……」
俺の隣に立つサキュバスリーユもまたやや興奮気味に尻尾を揺らしながら、わずかに見えるアルデアの城を指さす。
あ、言い忘れてました。
リーユがアルデア王国の国民になりました。
……不本意ではあるけど……。
というのも、レビオン・ガザイ王国を出航してしばらくしたところでレイナちゃんが船に隠れていた彼女をとっ捕まえたのだ。
どうやら食料庫の奥に忍び込んでじっと身を潜めていたらしい。
いや、なんで……って当然尋ねるよね。
そしたら彼女は。
『私、もうあんな変態国王の夢に付き合わされるのはこりごりなの……。だから逃げてきた』
ということらしい。
そんな彼女の言い分を聞いた俺は『なるほど……』と頷いてからレイナちゃんに彼女の処刑を命じた。
そんな俺にリーユは『ご、ごめんなさいっ!! ローグ、いや、ローグさま、命だけはお助けくださいましっ!!』と泣きついてきたので、とりあえず、これからはアルデア王国のために身を粉にして働くということを条件に亡命させてやることにした。
まあ、彼女の使い道はないわけじゃないからな……。
あ、ちなみにガザイ国王には彼女の一番弟子の幼年サキュバスが派遣されて、嫁入りまで一生懸命働いてくれるそうだ。
国王の性癖がこれ以上歪まなければいいけど……。
というわけで船内でも一波乱あったが、喉元過ぎればなんとやら……サキュバスは亡命を認められた後はいつもの調子で俺に気安く話しかけてくる。
ま、まあとにもかくにも俺たちの船は無事にウルネアにたどり着きそうだ。
あ、そうそう。
ちゃんと帰りも海竜に襲われましたよ~。
行きに口内の海水を石化されたつがいの海竜は、律儀にも俺たちの元にお礼にやってきてくれた。
そんな彼らに快気祝いの祝砲として、レビオン王国から融通して貰った新型の大砲で威嚇射撃を返してあげました。
さすがは1.5等玉の大砲。
しかも砲弾内部にも小さな魔法石が埋め込まれた誘導弾となっており、さらには着弾時にはこれまた魔法石によって砲弾が炸裂する仕様となっております。
打ち放たれた砲弾は怒りに瞳をメラメラと燃やす海竜夫妻のすぐ側を通過すると、彼らの背後で凄まじい轟音とともに砲弾が炸裂した。
直後海竜のメラメラの瞳が点になったよね……。
『え? そんなの聞いてないけど……私たちドン引いてますけど……』
みたいな顔でしばらく船を見つめていた海竜たちは、はっと我に返って頷き合うと一目散に船から逃げていった。
そんな彼らに『末永くお幸せに~』と心の中でエールを送ると同時に、レビオン王国の大砲の威力にドン引きしました。
レイナちゃんは「新型凄いです~」と目をキラキラさせていたけどね。
レビオン王国で試し打ちがしたいと提案したときに丁重にお断りされた理由がわかりました。
なんかとんでもない兵器を手に入れてしまった感はあるけど、まあ、国防にはこういうのも必要だし……。
ま、まあ何はともあれ無事帰ってくることができました……。
※ ※ ※
ということで無事ウルネアの埠頭に接岸した船から下りると、俺たちは到着を聞きつけたフリードと民衆たちの黄色い声援に出迎えられた。
「「「ローグさま~」」」
と、俺の顔のイラストが描かれた団扇を片手に声援を送るウルネア女子たちを眺めて、改めて自分のショタ人気に愕然としつつもフリードとクロネの「「お帰りなさいませ」」という声に我に返る。
「ローグさま、お勤めご苦労様です」
そう言って深々と頭を下げるフリードに、なぜかガザイのヤクザ屋さんを思い出しつつもアルデア王国に帰ってきたことを実感する。
「フリードの方こそ、留守の間ご苦労だったな」
「いえ、これが私の勤めですので」
「フリードもしばらくはゆっくり休め。俺も俺でしばらくは城で羽を伸ばすから」
そう言って馬車に乗り込もうとした俺だったが。
「残念ながらそうはいきません」
と、フリードに呼び止められる。
「え? 疲れたからしばらくゴロゴロしたいんだけど……」
「お気持ちはわかりますが、例のウルネア観光地化計画について会議の準備ができております」
「それ……今日やらなければならない感じっすか?」
「ならない感じです」
「そうっすか……」
どうやら俺に休みはなさそうだ。
ということでフリードに馬車に連行された俺は、そのまま城に戻って会議に参加することになった。
はぁ……休みたい……。
城に戻った俺は、フリードに渡された何枚もの資料を眺めやる。
そして、資料を眺める俺の背後ではリーユがパタパタと羽を羽ばたかせながら俺の資料を覗き込んでくる。
「へぇ……随分と大規模な計画なのね」
「そうだな……あと、どうして当たり前のようにお前もいるんだよ……」
「え? だ、だって私、行く場所ないし……」
「じゃあガザイ王国に帰れよ……」
と、そんなやりとりをフリードが不思議そうに眺める。
「ローグさま、その方は?」
「あ、こいつのことは気にしなくても良いから……」
「もしかして愛妾ですか?」
「ちげえよっ!! 断じて違うっ!! ってか10歳の俺に愛妾がいてたまるかっ!!」
どうやらフリードちゃんに勘違いをされているようだ。
ということでペラペラと資料を流し読みした俺は、テーブルに資料を置く。
詳しいことはフリードに聞こう。
「とりあえず観光地の方向性について確認をしておこう」
「はい。主に世界各国の富裕層をターゲットとしたワンランク上の優雅な生活というのが今回のコンセプトでございます」
「よろしい。その通りでございます。じゃあ裏の目的は?」
「世界の要人や資産家が常にウルネアに滞在することによって、クロイデン王国からの侵攻を予防することです」
「よろしい。そのコンセプトからズレないように計画を進めていこう」
というのがウルネア観光地化の主な目的だ。
ウルネアを観光地化することよって外貨が容易に獲得できる。
外貨を獲得することができれば預かり証をバンバン発行できるし、兵備をさらに整えることが可能だ。
が、それ以上にウルネアに世界の資産家や要人を集めておくことによって、人質として利用することができる。
ウルネアに滞在する各国の要人が被害を受けるとなると、クロイデン王国もそう簡単にはアルデア王国に侵攻するわけにはいかなくなるからな。
というわけで俺はウルネアを観光地化することによってアルデア王国を守ることにした。
「で、石の耐久性については?」
「資料の35ページをご覧ください」
ということで35ページを開く。
すると、そこには石の強度実験の結果がイラスト付きで記されていた。
「アルデア王国の建築家を招き、何度も強度についての実験を行いました。その結果、地面に穴を掘りそこにローグさまの石化魔法を使い頑丈な土台? のような物を作ればローグさまのおっしゃる巨大な建物の建設も可能とのことです」
「おーそれは素晴らしいっ!!」
「ですが、建設に際してローグさまの石化魔法は必須にございます。かなりのご負担をかけることになりますが、どうかご容赦を」
「そ、そうっすか……」
俺、いずれ過労死するな……。
「あ、そうだ。実はフリードに見てもらいたい物がある」
ということで、俺は用意していた一枚のイラストをテーブルに置く。
それはショッピングモールのイラストだった。
実は旅行中にネオグラードの絵描きに頼んでイメージをイラスト化してもらっていた。
「こ、これは新しい牢獄のイラストでしょうか? これならば看守から囚人たちを一望できますな」
「いえ、違います。新しい商業施設のイラストです……」
ということで観光地化の話を進めていく。
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