【5/1発売】悪役貴族の最強中立国家〜主人公の踏み台にならないために完全武装で領地に引き篭もることにしました〜
あきらあかつき@10/1『悪役貴族の最強
第1話 前世の記憶
社畜の俺、
腕時計を見やると時刻は23時52分。
このタイミングで交番を通り過ぎたということは……いつもよりもペースを上げないとマズいよな……。
いつもはこのタイミングでコンビニの前を通り過ぎて、駅のホームで1分ぐらい待って電車に乗り込む。
今のままだと全力で走って駅の階段を駆け上がっているぐらいで電車がホームに入ってくる感じかな……。
なんて頭の中で計算をしながら夜のオフィス街を駆けていく。
あー予定が狂った……。
今日はオフィスの鍵を管理人室に返すのを忘れてしまったのだ。
そのことにビルから出た直後に気がついて、慌てて鍵を返しに行った。
その分、いつもよりもペースが遅くなってしまったのだ。
まあ、ダッシュすればギリ間に合うとは思うけど、信号のタイミングによってはヤバいかも……。
もうやだよ……ただでさえ今月は2回も終電を逃してビジホに泊まることになったのだ。
別に残業が多いからって給料が多いわけでもないし、ここで1万円近いお金を消費すると月末に大変ひもじい思いをすることになる……。
だから、なんとしても終電を逃したくないっ!!
あー俺だけ毎月40万円口座に振り込まれる法律できねえかなぁ~。
俺が総理大臣になったら真っ先にそれを法制化しよう。
そうだ。そうしよう。
なんて全く意味のないクソみたいなことを考えていた俺は全力疾走する。
そして、そのクソくだらないことを考えるために脳を使っていたせいで、俺は周りに注意を払うということに全く脳を使っていなかった。
その結果、信号が青だという理由だけで周りも見ずに、横断歩道へと飛び出した……のだが。
急に、俺の視界の右側が薄暗くなった。
直後……。
ぐちゃり……。
その音を生前の俺は直接聞いたかどうかはわからないが、きっとそんな最悪な音が交差点に響き渡ったに違いない。
ということで俺はトラックにひかれて死にました。
30年も生きてきたくせに性の喜びを知ることもなく、あっさりと死にました。
俺が30年間の人生でやってきたこと、仕事、ゲーム、暇つぶしで本を読んで無駄な知識を手に入れること。
まあその知識が何かの役に立つこともなく死んじゃったけどねっ!!
以上。
※ ※ ※
そんな特筆するべきことのなにもないつまらない前世の記憶を俺、ローグ・フォン・アルデアが取り戻したのが10分前の出来事だった。
メイドのリーアに風呂場で背中を流してもらい(彼女はメイド服着用)、浴槽に浸かろうとした俺は足を滑らせて頭を強打した。
その瞬間、
びっくりするほどスカスカな前世の記憶を、5分ほどでまるでデータを復元したように全て取り戻す。
そして、気がつくと俺のアイデンティティは伯爵家の御曹司ローグ・フォン・アルデア(10歳)からローグに転生した水田将大(30歳+10歳)へと変貌を遂げていた。
「ローグさま……本当に大丈夫ですか? 痛いところとかないですか?」
ということで総勢5名の使用人によって全裸のまま寝室へと運ばれた俺は、全裸に掛け布団という無様な格好でベッドで横になっていた。
そんな俺の手をぎゅっと握りながらメイドのリーアが申し訳なさそうに俺を見つめている。
「ローグさま、私が付いていながら、このような目に遭わせてしまい申し訳ありません……」
そう言って瑠璃色の瞳をうるうるさせながら俺に向けるリーア。
うむ、かわいい……。
なんというか彼女は、俺のいた日本では到底お目にかかれないような美少女だった。
赤い髪に瑠璃色の瞳、さらには目もぱっちりで鼻筋も通っている。
そのくせ少し小さいお口もキュートね。
もう彼女が俺の専属メイドになって数年が経つのだが、前世の記憶を取り戻した俺は今更ながら彼女の美貌に驚いた。
というか、今までの俺は当たり前のように彼女からの奉仕を享受していたのか……。
「と、とりあえず大丈夫です。痛みもありませんし、気分も悪くないので……」
足を滑らせたのは完全に俺のせいだ。
不必要に申し訳なさそうにする彼女が可愛そうで、俺は愛想笑いを浮かべて平気アピールをしておく。
が、
「ろ、ローグさまっ!? やっぱり頭を強く打たれたのではないですかっ!?」
俺の期待とは裏腹にリーアは顔を真っ青にして俺の顔を覗き込んでくる。
いや、なんで……。
あと、顔がすごく近い……。
「だ、大丈夫です……」
「本当に大丈夫ですか?」
「いや、だから大丈夫だと言ってるでしょ……」
「で、ですがですが――」
と、頑なに俺の大丈夫アピールを信じてくれないリーア。
「ではなぜ、私ごときにそのような丁寧な口調でお話しなさるのですか?」
リーアの顔には『私、とんでもないことやっちゃったかもしれないっ!? 私、今とっても焦ってるよっ!!』と書かれていた。
あ、そうだ……俺ってもっと横柄などら息子だったわ……。
水田将大の記憶を取り戻してしまった今、俺のローグとしてのアイデンティティは完全に消え失せていた。
そのせいで自然と他人に敬語で話しかける癖が復活してしまっていた。
ということで、ローグ・フォン・アルデア風味を思い出してみる。
「とりあえず大丈夫だよ。痛みもないし、気分も悪くない。それにこれは俺の不注意が招いたことだからリーアが気に病む必要はないよ」
できる限りローグに寄せてタメ口を使ってみるが、それでも丁寧さは残った。
それでもリーアは少し安心してくれたようで、ほっと胸をなで下ろす。
横柄な態度を取って安心されるってホント良いご身分だな……。
いや、現に今の俺は良いご身分なんだけどさ……。
それはそうと……。
俺は水田将大というつまらない人生を送った男の記憶を取り戻したことによって、とんでもない事実を知ってしまった。
説明すると長くなるけど、一言に纏めるならば今の俺の人生は詰んでいるということだ。
何から話せばいいか難しいけれど、まず大切なことはこの世界がゲームの世界だということ。
前世の俺、水田将大には『ラクアの英雄伝説』というPF3のRPGソフトをプレイした記憶がある。
このゲームは魔王に支配されて自由を失った王国を救うために、ラクアという少年が攫われた王女を救うというテンプレのようなRPGだ。
俺は前世でこのゲームを死ぬほどやりこんだ。
そして、今、俺が伯爵の御曹司として生活しているこの王国はゲームと同じクロイデン王国という島国だ。
それだけならば、まだただの偶然で片付けられるかもしれないけど、俺には無視できないゲームの記憶が残っていた。
それはローグ・フォン・アルデアという悪役貴族だ。
この悪役貴族はかつて王国に仕えていた伯爵だったが、魔王軍が王国の侵略を始め他の貴族が勇敢に魔王軍と戦い散っていく中、いち早く魔王軍に寝返ったクソ野郎。
ローグは魔王軍から領地の統治の継続と引き換えに、魔王へ忠誠を誓い、魔王軍の魔族たちの駐屯を認めて、ゲーム内では第3ステージのボスとして君臨している。
こ、これは……偶然なのかな? 俺の名前、ローグ・フォン・アルデアって言います……。
受け入れたくはないけど、俺は『ラクアの英雄伝説』の世界に転生してしまった。
しかもローグ・フォン・アルデアは全15ステージのうち第3ステージという序盤のボスだ。
正直なところ、ちょっと経験値を貯めて、装備を揃えればあっさり勝てるザコキャラ。
王国に忠誠を誓えば侵略してきた魔王軍に殺され、王国を裏切れば主人公にあっさり殺される。
いや、詰んでるじゃん……。
今のところまだ魔王軍が王国を攻めてくるなんて話は聞いていないし、ゲームに登場するローグは大人だった。
破滅へのカウントダウンは短めに見積もっても10年近くはあることになる。
いや、10年しかない。
このまま伯爵家のどら息子として今の地位に甘んじていたら俺は死ぬ。
俺は瞳を閉じた。
まずは何をするべきか。
それは現状把握だ。
俺は自慢じゃないがどら息子だ。
自分の魔術の実力も知らなければ、自分の領地がどんな状態なのかも知らない。
「リーア」
「なんでしょうか?」
「フリードをここに呼んでくれないか?」
俺はリーアに頼んで執事をこの部屋に呼び寄せることにした。
――――
新連載始めました
よろしければこちらもお願いします
『崩壊寸前の帝国の指揮官を押しつけられた俺、完全に諦めモードだったけど勝利すれば美少女王女と結婚できると聞きつけ覚醒する』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます