散文集
@megamouth
ドラゴンクエストⅡ
おもちゃ屋にドラクエ2を取りに行く。
学校が先に終わったぼくの仕事。
祖父の煙草の煙を通り抜けてかかとの潰れた靴に足を突っ込む。
裏の橋は灰色の空へ向かっていて、息を止めながらひと思いにドブ川を渡ったのに、その先も見えなくなるまで真っ直ぐな道。ポケットの中でお金を握りしめて、隣の学校の黄色い帽子に注意を向ける。年上でなければ怖くない。
おばあさんは予約の名前が記されたノートの前でメガネを上げたり下げたり。戦闘機のプラモデルの上に積もった埃を見ていると、眠くなる。名前は?聞かれてさっきと同じ名前を言う、大人はいつも子どもに名前を言わせたがるけど、ノートに名前がないのはどうにもならないみたい。炬燵と何かが焦げたみたいな匂いがとても懐かしくなる。
手ぶらで店を出る前に呼び止められた。ため息と一緒に茶色の紙袋を手渡される。中を見ると青色の箱。いいの?と声に出たかはわからない。おばあさんの顔はまだ困っていたけど、ここは寒いから早く帰りたい。
カセットの入った箱は手に余るぐらいで頼もしい重さがする。絵には魔王、主人公、頭にはゴーグル、分厚い剣の持ち手、頑丈そうな盾のリベット。実物を見たことはないけれど、格好がいいのはわかる。箱の中身はもっといいもの。兄がもうすぐ帰ってくるから開けずに台所のテーブルに置いておく。
低音の矩形波がファミコンの繋がったテレビを震わせる。ガスストーブの赤い光がぼんやりしている。帰宅した兄は、ご苦労、と気取って、言ったことに照れた様子だった。台所の椅子に座って、足をブラブラさせる。滲んだブラウン管の城に敷き詰められた赤いタイルの上を主人公が滑るように歩いている。ぼくは兄の背中ごしに見ている。止まった換気扇は音を立てない。熱に浮かされた頭で、黒と白しかない画面の時に流れていた音楽のことを考えている。
顔がとても熱くて、泣きはらしたみたいに目のあたりが腫れている。城の探索を終えたローレシアの王子は城の出口に向かっている。ゴーグルをつける。
冒険の始まりのその空も、今日みたいならいい。
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