第5話⑤

 夢? いや、過去の記憶。 思い出……。


 三十代半ばの、大人の男になった当時の男の子は、今ならあの初老の男に「もういいよ」と言ってあげられる気がした。今ならあの初老の男の行動や気持ちを理解できる気がした。


 男の左ポケットには、黒ずんだ煙水晶が入っている。男が男の子だった頃は、まだ透き通った無色透明の水晶だった。しかし今は、あの初老の男が持っている水晶と同じように黒ずんでいる。

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