第3話③

 初老の男の視線は水晶を包んだ炎を見つめたまま、隣にいる男の子に向かって、


「これでいいんだ。これで。もう十分だと思わないかい?どちらも味わった。同じ味を噛みしめすぎて、口の中が気持ち悪いんだ。もういいだろう?頼むから『もういいよ』と言ってくれ。頼むから……」


 初老の男はボロボロと大粒の涙を流しはじめ、震える声で、


「いつからこんなことになっちまったんだ……畜生……わからない……わからない……」


 男の子はその初老の男に対し、どうにかして助けてあげたいと子どもながらに思ったが、「もういいよ」とは言えなかった。なぜならば、初老の男が言っていることを男の子は寸分足りとも理解できないためだった。

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