カフェ:本とコーヒー、紅茶に非モテ

 難しいことを言えるようになればモテると勘違いしていた時期があった。

 難しいことをわかったふりをしてみた。哲学書や文学理論の本を買って、持ち歩いてみた。睡眠導入剤にもなるアクセサリーである。もちろん、頑張って読もうともしたし、本に色々と印をつけたものだ、主によだれで。

 殴りたくなる似非インテリ見習いの誕生。読めもしない本を買う前にその小汚い靴下を買い替えろと殴りながらアドバイスしてあげたい。「君がッ靴下を買い替えるまで殴るのをやめないッ!」と言いながら連打したい。

 もちろんモテなかった。

 難しいことをわかったふりをするのが格好悪いということがわかるのは、ずいぶんと経ってからのことである。

 ちなみに難しいことをやさしく言い換えられるようになっても、結局モテないということに気がつくのはさらに先のことである。


 ならばカジュアルなことに蘊蓄うんちくを語れるようになればモテるのではないか。クスリの類は一切やっていないのに、そのような考えにいたった時期がある。

 やっぱり殴りたい。そのようなことを考えていた自分を可能であるならばタイムマシンにのって殴りにいきたい。歌いながら殴りにいきたい。

 お前に必要なのはコーヒーの淹れ方や種類について書かれた本ではなく、ファッション雑誌であると、両手で顔をはさんで目を見つめながら三時間位説教してやりたい。

 もちろん、タイムマシンはなく、世界線とやらも変わることもなく、結局私はモテないまま、モテるために必要と信じた知識を溜め込むのである。

 これが間違っているとわかるのは、さらに後、マリアージュフレールの紅茶を蘊蓄語りながら入れてくれる先輩(非モテ)を見たときである。

 人の振り見て我が振り直せ。よく言ったものである。

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