【底なし沼】ネカフェ難民

15の時だった。


親に二度と戻らないと啖呵をきり家出した。


理由は簡単。


うちが貧乏で、幼い頃からまともにやりたい事も出来ず


事あるごとに金が無いと言われ、携帯すら買ってもらえなかった。




自分には若さがある。


まだ、なんでもできると思っていた。




とりあえず住む場所を探したが


まともに家なんて借りられる訳無かった。




仕方なくネットカフェに泊まると思いの外心地良く


ここをねぐらにして、日雇いで稼いで、お金が貯まったら、何か大きな事をやってやる!!幸い同じような人間を多く見かけたので、こんな生活をしているのは自分だけでは無いんだ!と気力も湧いた。






◇◇◇




あれから50年。


65になった自分には何も残っていなかった。




ネカフェで暮らしながら働いた金は殆どネカフェと食費に使い、たまにお金が貯まってもストレスでパッと使ってしまっていた。




抜け出したかった。


ネカフェ難民という沼から。


しかし、歳を取れば取るほど、気力は萎え、体力は衰え、抜け出すことは叶わなかった。






この50年でネカフェの外も変わっていった。


外には若者が増えたが、半分以上は外国語で喋る人たちだ。


今や自分も彼らに雇用されている。




給料もドルで支払われるようになって久しい。






50年前とはまるで違う風景


だが、心はさほど荒んでいなかった。


なぜなら、ネットカフェの中だけは50年前と全く変わらないからだ。


そう、今やここは私の家、そして私の故郷。

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