【完結】元ぼっちのTS魔法少女ちゃん、ダンジョン配信中に本性がバレて何故かバズってしまう
水品 奏多
一章
第一話 ぼっち、女の子になる
「あ、おにぃ。丁度良かった。
これ出してきちゃってよ」
「お?」
いつもより早い朝。
寝ぼけ眼をこすりながら廊下を歩いていると、居間からひょっこりと顔を出した妹の春花がゴミ袋を押し付けてきた。
手の平に感じるズシリとした重さ。うわ、面倒くさいなあ。
「おいおい、親愛なる妹よ。
お前は兄が寝間着を着ているのが見えないのかね?」
「いいじゃん、ちょっと外に出るくらい。
どうせ今日もずっと一人で家に引きこもっているんでしょ?」
「今日
いいか、俺にも友達の一人や二人いるんだ。たまたま予定が合わなかっただけで……」
「うんうん、そうだねー。例え今が夏休み終盤で、いままで一回も遊びに誘われなくても、おにぃにとっては友達だもんね」
「うぐっ。やめてくれ、その言葉は俺に効く」
妹より放たれた致命的な口撃に、思わず胸を押さえる。
だ、大丈夫。ただ俺に遠慮してるだけだから、ヒーローは遅れてやってくるとかそんな感じの奴だから(震え声)。
「……はあ。ほんと何でこうなっちゃったんだか。
それじゃあよろしくねー」
ひらひらと手を振って居間へと戻っていく春花。
残されたのは妹にレスバで負けた哀れな俺。悲しきかな、これが我が家の家庭内ヒエラルキーである。
小さくため息をついて、玄関の扉を開ける。
みーんみーんみーん。
耳障りな蝉の音。むわっとした空気。天高く広がる青空。
ああ、夏だ。最近は暑すぎるよなあ、ほんと。
額に広がった滝のような汗を手の甲で拭いながら、玄関の扉を閉める。
「ーーようやく見つけたよ」
その時、辺りに可愛らしい声が響いた。
視線を落とせば、そこにいたのは一匹の黒猫。
ピンと尾を伸ばし、悠然と佇むそれ。周りを見渡してみても俺以外の人間は人っ子一人いやしない。
……あかん、俺もこの暑さでおかしくなってるらしい。
人知れず絶望する中、猫の口がゆっくりと開く。
「今から君には僕と契約して魔法少女になってもらう。
……ああ、そうそう。時間がないんだ、君に拒否権はないっ」
「え? ちょっーー」
相変わらずの幻聴と共ににゃんと飛び掛かってくる黒猫。
突然の襲撃に反応できなかった俺は、彼(?)の猫パンチを成すがままに受け止めてーー
みーんみーんみーん。
「はっ」
気が付くと、俺は家の前に立っていた。
右手には妹から頼まれたゴミ袋。周りにはさっきの黒猫含め何一つとして生物の姿はいない。
……やばいな、これは。早くクーラーの効いた家に帰ろう。
てきぱきとゴミ出しを終えて、逃げるように家へと駆けこむ。
洗面台で手を洗って、ついでに顔に水をぶっかけてごしごしとタオルで拭いて――
え?
「ふぁっ」
何かおかしなものが見えた気がして顔を上げれば、そこに映っていたのは俺似の美少女。
肩口に揃えられたサラサラの黒髪。その勝ち気な性格を示すように吊り上がった瞳。八重歯が覗く可愛らしい口。
顔だけは良いよね、と妹に褒められた俺をそのまま女の子にしたかのような少女が俺の代わりに立っていた。
こ、これはあれか? 流行りのTSってやつ……?
いやいやそんなまさか、とズボンの腰を広げて股を覗き込んで、ついで相棒の脱走をこの目でしかと見届けてーー
「お、お、女の子になってるっっっっ」
早朝の団地に人生最大の絶叫が響き渡った。
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