フェイク・ウィッチ

蜂蜜酢

あった筈の幸せ

 記憶の彼方、思い出すのはあの日のこと。


 夕暮れ、赤に照らされた街道で、私は大切な人と話している。

 前を歩く彼女は言った、「毎日が楽しい」と。

 私はそれに、「どういう所が?」と聞き返す。

 すると彼女は、


「貴女がいるところ」


 と笑顔で言ってきた。

 なんとなく予想出来ていた私は、そっけなく「そう」と返す。

 そんな答えにも彼女は笑顔のままで、寧ろ嬉しそうに鼻歌を歌い始める始末。

 私はため息を一つつくと、歩くスピードを上げて彼女の隣に並ぶ。

 彼女は鼻歌を中断すると、


「幸せが逃げちゃうよ」


 なんて、ニヤニヤしながら言ってくる。

 私は少し考えて、言う。


「……貴女は私から離れないでしょ」


 その言葉に彼女は驚いたような顔をすると、すぐに顔をほころばせた。


 幸福で満たされた、遠い遠い明るい記憶。

 全てを失う前の、私の人生の最盛期だ。


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