第23話
オーエンナは突然の来訪にも関わらず、賓客として丁重に扱われていた。しかし彼女の立ち振る舞いは、側から見ている私でも気分を悪くしてしまうようなものばかりで。
口に合わないと食事に文句をつけたり、メイドの態度が気に入らないと変更を命じるのは当然、勝手にセオドア様の視察に付き合いたがったり、護衛を勝手に引き連れて市街地を出て回ったり、好き放題にやっていた。
そんなある日ーーついに、決定的な事件が起きた。
「遅いわね……みんなは時間はしっかり守ってくれるのだけど」
今日は午前中、子供たち全員を集めて朝のレッスンを行う予定だった。しかし集合場所に指定した食堂に誰もこない。私はメイドと一緒に首を傾げた。
「少し見てきますね」
「嫌な予感がするから、私も行くわ」
二人で頷き合って食堂を出てあちこち探し回っていると、突然声変わりしたての少年の怒声が響いた。年長のセリオだ。
急いで声がした方に向かう。現場は来客用の食堂だった。
そこでは一人のメイドを庇うように子供たちが集まり、目の前に立ちはだかるオーエンナに怒りの眼差しを向けていた。
その年配のメイドは頭から紅茶を浴びせかけられていた。私にいつもニコニコと、優しく接してくれるノワリヤだ。子供たちはノワリヤのハットを拭いてあげたり、手を握ったりしている。
オーエンナに、セリオが怒りを隠さない声音で尋ねる。
「ストレリツィ侯爵夫人。なぜお茶に砂糖が入ってなかっただけで、頭から浴びせる必要あるのですか」
「毎朝私が砂糖を入れたお茶を持って来させているのを覚えないから、躾けてあげただけよ」
怒るセリオに呆れた様子で、オーエンナは巨体を揺らして肩をすくめる。
「なんでこんな気が利かないばあさん、私付きのメイドにされてるのかしら? セオドア様に首にした方がいいわよって進言したいくらいだわ」
セリオは言葉にならない怒りが籠った瞳で、オーエンナに向かう。
オーエンナの後ろから、顔を青ざめさせたアンが母親の袖を引っ張る。
「お、お母さん。もうやめてよ、紅茶くらいで……」
「何を言ってるの? 侯爵夫人に失礼をしたメイドを注意するのは、セオドア様のためでもあるのよ」
「だからって、かけなくても……」
泣きそうなアンの表情に胸が痛む。
私は今にも殴り掛かりかねないセリオを背に、オーエンナの前に立ち塞がった。
「ストレリツィ侯爵夫人、一旦この場はどうかお納めください。セオドア様がお戻りになってから、改めてお詫びを申し上げます」
「先生、こんな奴に詫びなんか」
セリオが叫ぶ。それを私は振り返り、目で制する。
対したオーエンナは、鼻じろんだ目をしてセリオを見下した。
「ったく……躾のなっていない子ね。セオドア様の養子なのに。家庭教師が悪いのかしら? それとも、本当の親御さんの躾がよろしくなかったのかしら?」
その瞬間。
セリオだけでなくーーその場にいたすべての子供たちの顔が青ざめる。
まさに一触即発。
場の流れを変えたのは、意外な人物だった。
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