第3話 久しぶり




 放課後の中学校の図書館にて。

 本館から渡り廊下を進んだ先にある二階建ての別館は、丸ごと一棟図書館になっており、多種多様な紙の本が揃えられていた。


「「よう」」


 共に中学三年生の少年である南浩輔みなみこうすけ石田海斗いしだかいとは、小さな声で小さく手を上げながら挨拶を交わした。

 こうして向かい合って話すのは、本当に久しぶりであった。


 小学校三年生の時に初めて同じクラスになって仲良くなった。

 それから中学一年生まで同じクラスだったが、中学二年生時にクラスが別々になってから関係は変わって行った。

 最初の内はまだ同じ友達と一緒に遊んでいたが、徐々に新しいクラスの友達と遊ぶようになると、喧嘩をしたわけでもないのに、相手の姿を校内でも校外でも見てもすれ違っても積極的に話しに行かなくもなり、いつしか疎遠になってしまっていたのだ。




 図書館だからだろうか。

 それとも久々過ぎて距離感がわからなくなったのか。

 微かな声量のまま、浩輔は調べものかと海斗に話しかけた。

 ああ。海斗は答えた。


「地理の授業で郷土を調べろって三年生なのに」

「一年の時にしなかったっけ?」

「した。ような気がする」

「だよな」

「けどわざわざ図書館に来たのか?タブレットがあるだろ」

「時々来たくなるからなあ」

「クッククク。同じく」


 久々で緊張もしているのに話せるもんだなあ。

 二人共にそう思いながら、郷土のコーナーへと行く為に二階へ繋がる金属の螺旋階段へと向かう途中。返却されてまだ本棚に戻されていない本が集められた移動できるラックの横を通り過ぎようとした時に、ふと見つけたのだ。これまた二人同時に。


 白い本を。


 二人の脳裏に噂が掠めて。

 言葉を交わすことなく手を伸ばせば、不思議なことに一冊だけだった白い本が二冊に増えて。けれどどうしてか、二人は疑問に思うこともなく手に取ってそして、こともなげにその本を開き。

 気がつけば、図書館から二人の姿は消えていたのであった。











(2023.5.9)


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