第118話 4人で遊びに

 まずは昼食をということで俺達はファミレスに来ている。試験が終わったということで、俺達と同じことを考える人は他にもいるらしい。我が校の制服を着た人がちらほら見受けられる。


「ねぇねぇ、涼! 私パフェ食べたいな〜」


「栞……。まずはご飯食べない?」


 甘い物が大好きな栞は真っ先にメニューのデザートのページを開いて目を輝かせている。俺達はあまりこういうところに来ないから物珍しいのもわかるんだけどさ。


「わかってるよ。そうじゃなくてね、私一人じゃきっと食べ切れないから後で一緒に食べよ?」


「あぁ、そういうことね。いいよ。食後のデザートに頼もうか」


「えへへ。やったぁ!」


 俺の賛同を得られた栞はパァッと表情を明るくする。


「相変わらずしおりんにだだ甘だねぇ、高原君。こんな可愛い彼女におねだりされたら断れないのもわかるけどねー」


「俺、甘いかな?」


「甘いな」


「甘いよね。だから私もついつい我儘言っちゃうんだよねぇ」


 遥と栞本人にまで言われてしまった。まぁ、自覚がないわけじゃないけど。


 それからしっかりと食事をした後で栞の希望通りパフェを頼んだ。さらに全員分のドリンクバーまで頼んで、長居する気満々の状態に。


「はい、涼。あ〜ん」


「あ〜ん」


 まぁわかってはいたけどこうなるわけで。

 最近『あ〜ん』をされすぎていて、差し出されると反射的に身体が動いてしまうようになっている。


 コーヒーをブラックで啜る遥と楓さんの視線が痛い。


「相変わらずあま〜い空気だよねぇ。お砂糖入れなくて正解だったよ」


「俺達のこと見えてないんだろうな」


 栞はともかく俺はちゃんと見えてるからね?

 それに空気じゃ味覚までは甘くならないでしょうに。


「結婚式と体育祭の後からいっそうしおりんの『涼、大好き!』が溢れてるもんね」


「あんなことがあった後じゃ仕方ないとは思うけどな」


 あんまりあの辺りの話を蒸し返さないでほしい……。それで栞の感情が爆発すると俺の体力が……。


「彩香、次に涼のこと涼って呼んだらお仕置きだから」


「しおりん独占欲強すぎ! しおりんの心の声を代弁しただけなのに!」


「ダメなものはダメ! そんなことより涼、次は私に食べさせて?」


 怒りながらも俺にはしっかり甘える栞。可愛らしく口を開かれるとついつい応えちゃうんだけどさ。


「ほら」


 パフェを掬ったスプーンを差し出すけど栞は食べようとしない。


「あ〜ん、は?」


「あぁ、そういうこと。栞、あ〜ん」


「あ〜ん……。んー! 甘くて美味しい!」


 まったく、どこまで甘えん坊になるのやら。

 ご満悦な栞の顔を見るのは好きだから甘やかしちゃうんだけど、そうするとまた呆れられることになるわけで。


「む……。もうコーヒーなくなっちゃった。とってくるけど遙もいる?」


「あぁ、頼むわ。苦めでよろしく」


「残念ながらそういう調整はできないんだなぁ。私も気持ちは同じだけど」


 結局、俺達がパフェを食べ終わるまで遥と楓さんはひたすらコーヒーを飲んでいた。


「うぅ……。お腹チャプチャプ……。コーヒー飲みすぎた……」


「右に同じ……」


 2人共4杯ずつは飲んでたからね……。

 なんかごめん……。


「さて、お腹もいっぱいになったことだし、次行こっか?」


「次はどうするの?」


「んー、どうしよ。カラオケとか?」


 カラオケと聞いた栞の表情がパァッと明るくなったあとで難しい顔に変わる。


「栞はカラオケ嫌い?」


「ううん、そうじゃないんだけど……」


「なになに? しおりんもしかして音痴とか? それなら無理矢理にでも連れてくけど」


 楓さんが意地の悪いことを言うけど、珍しく栞は食ってかからない。


 ちなみに栞は歌も上手いほうだと思う。俺の部屋で音楽を流している時に口ずさんでいるのを聞く限りだけど。何より声がいい。


 ……栞のことを全肯定しちゃう俺が言っても説得力がないのはわかってるさ。


「涼、笑わない?」


「うん。笑わないよ」


「あのね、涼の歌は聞いてみたいの。あの歌、私のために歌ってほしいんだけど……」


「だけど?」


「他の人に聞かせたくない……」


「あぁ、なるほど。そういうことらしいから、ごめん。楓さん。カラオケはパスで」


 あまりに可愛らしいことを言うので笑いそうになってしまったが、ギリギリで堪えた。俺は栞との約束だけはしっかり守る男なのだ。


「やっぱりしおりんの独占欲が強い! しおりんの歌聞きたかったのにー!」


「しょうがねぇからゲーセンでも行こうぜ。ボーリングとかも考えたけど、涼の今の手じゃ投げれなさそうだしな」


 尚も駄々を捏ねる楓さんを遥が引きずってゲーセンに行くことに。


 初めて入るゲーセンはガチャガチャとうるさかったけど、しばらくいるうちに慣れてしまった。


 皆でメダルゲーに興じたり、レースゲームで盛り上がったりとそれなりに楽しめた。


 なんとなくでやってみたクレーンゲームではビギナーズラックが発動してぬいぐるみが取れたり。

 俺が持っていてもしょうがないので栞にあげたら、リョー君の兄弟ができたと喜んでいた。


「ねぇ、しおりん? リョー君って?」


「私の誕生日に涼がくれたクマさんよ」


「クマさんって……しおりんかわいっ!」


「べ、別にいいでしょ?!」


「ん? リョー君ってことは……もしかして抱っこして寝てたり?」


「……」


 図星を指された栞は真っ赤になって黙ってしまった。もっと恥ずかしいこと(例えば皆の前でキスするとか)をしてるのでこれくらいで照れなくてもいいと思うのだが。


 二人きりの帰り道で聞いてみたら『だって子供みたいじゃない』と言っていた。いまいち栞の照れポイントがわからなくなる出来事だった。


「帰る……。涼行こ?」


「えっ? ちょっと栞?」


「わー! ごめんごめん! 謝るから帰らないで!」


「次言ったら本当に帰るからね?」


「はい、調子に乗ってすいませんでした」


 なんでこの2人、これで上手くやれてるんだろうね? お互い本気で言い合いしてるわけじゃないと思うけど。


「まぁでもそろそろいい時間だぞ。やり残したことあるならやっとけよ」


「えっ、もうこんな時間なの?」


 そう言われて俺も時間を確認すると、もうすぐ18時になるかというところだった。ファミレスを出てゲーセンに来たのが14時くらいだったから、約4時間もいたことになる。思ったより楽しくてあっという間だった。


「ねっ、しおりん。最後にあれ撮ろうよ、今日の記念にさ」


 楓さんが指差すのはプリクラの筺体。この段階で嫌な予感しかしない。俺、未だに写真は苦手なんだよ。


「うーん……。いいけど……先に涼と撮っていいならね」


 やっぱり……。


「わかってるわかってる! 私は後でいいから!」


 楓さんに押し込まれる形で中に入る。栞が不慣れな様子で操作して。


「涼、ちゃんと笑ってね?」


「いや、俺やっぱり写真は……」


「じゃないとこうなんだから!」


 カメラの方を向いていた俺への不意打ち。

 いつかの思い出をなぞるように。


 ──ちゅっ。


 頬へとキスをされていた。

 バッチリタイミングよくシャッターが切られて。またしても栞にキスされている写真が増えてしまった。


「えへへ……。よーし! これで決定!」


 撮り直しもできるはずだけど、俺が止める間もなく栞が決めてしまった。


 こんなの見られたらまた色々言われるだろうに。

 と思ったけどニヤニヤされるだけで済んで、その後に楓さんと栞が撮ったものは俺達と同じ構図だった。


 キスしてたのは楓さんだったけど。

 ちょっとだけ嫉妬してしまったのは内緒だ。


 更に最後に遥と楓さんのペアで撮って終了。仲良く頬を寄せ合って写っていて、俺もこういうのが良かったと思ったり。


 まぁ、これから栞とこういうデートをする機会もできるだろうし、次回へ持ち越しだ。


 外に出ると既に真っ暗になっていた。この日はこれで解散ということになって二手に分かれて。


 帰り道、手を繋いで歩く栞はずっと上機嫌だった。

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