第111話 ◆嫉妬する涼は可愛い
「リョー君、リョー君♪」
高原家から私の家に移動する間、嬉しすぎてずっとリョー君を抱き締めていた。
程よいサイズでフワフワな抱き心地、愛らしい顔。数ある種類の中からこの子を涼が選んでくれたと思うともう可愛くて仕方ないんだよね。
今日はこの後、私の部屋で試験勉強をして、夕飯時に両親がささやかなお祝いをしてくれることになっている。当然、涼もそこに参加する予定。両親からだけでももちろん嬉しいんだけど、涼がそこに加わってくれたら嬉しさ倍増なんだもん。
涼からは後日、お祝いとして私のお願いを聞いてもらえるらしい。何してもらおうか悩んじゃうよねぇ。プレゼントだけで大満足しちゃってるんだもん。
「栞……?俺がいる前でその子の名前呼ぶのやめない……?」
「やめなーい♪」
だって嬉しいんだもん。嬉しすぎて語彙力が崩壊してる気がする。なにをどうしても嬉しいしか出てこないんだもの。なんか勝手に語尾に♪が付いちゃうし!
それにしても涼は恥ずかしがり屋さんだよねー?
って思ったけど……んんー?
顔はちょっぴり赤いけど、口が少しだけ尖ってる?
あれあれ??もしかしてこれはもしかして拗ねてるのかな?
もー!しょうがない人なんだから!
「えいっ♪」
両手で抱えてたリョー君を左手だけで抱っこして、涼の左腕に飛びついてみた。
「なっ、栞?」
「ごめんね?私がリョー君にばっかり構うから寂しかったんだよね?」
「ばっ……。そんなんじゃないって」
涼は否定するけど、この反応はもう正解って言ってるようなものだよね。そういえば手も繋いでなかったもんね?でも肩が触れるくらいの距離感で歩いてるのにね。
涼からのプレゼントで喜んでるのに、そのプレゼントに嫉妬するなんて……。
涼ったら可愛いんだから!
可愛くて愛しくて仕方ないんだからね?
だからこれは私がしたいことでもあるの。
「ふーん?ま、それならそれでいいよ。私がくっつきたいからくっつくだけだしね」
さらにギュッとして、私の体温を涼に伝える。
涼のおかげで私の心はこんなに温かいんだよ?
ねぇ、わかってる?
「ちょっと栞、歩きにくいんだけど……」
「そうだね〜?」
「少し離れ──」
「やーだよっ♪」
離したら誰かさんが拗ねちゃうもんね?
しばらくそのままで歩いてたんだけど、ずっとニコニコ顔で見つめてあげたせいかな?涼は限界に達したみたい。
「あー、もうっ。降参!」
「降参?」
「認めるよ。栞がその子ばっかり構うから寂しくて拗ねてたって……」
「ふふっ。涼……可愛いっ」
あっ、言っちゃった。あんまり可愛いって言うと嫌がるから控えてたんだけど、抑えきれなかった。
でもしょうがないと思うの。そんな照れくさそうな顔で素直なこと言われたら、ねぇ?
「せっかく正直に言ったのに……。むぅ……」
あわわ……これじゃ本当に拗ねさせちゃう!
「大丈夫よ。ちゃんと涼の格好良いところも知ってるから。でもね、そういう可愛いところもね、私大好きなんだよ?」
だってそんな姿見せてくれるの私にだけなんだもん。特別だって思っちゃうでしょ?
「そんなこと言われたら何も言えないじゃん。本当に栞にはかなわないよ……」
涼は諦めた様子で苦笑して、右手で頭を撫でてくれた。少し乱暴で髪がわちゃわちゃになるのが気になるけど、硬いギプスが当たらないように気を付けてくれてて、そういうところ本当に優しいって思う。
ずっとフワフワと幸せで、楽しい気分でいたんだけど、そんな時間はあっという間に過ぎてしまう。気付けば家の前だった。
ここからは真面目に試験勉強しなきゃいけない。もっと涼とイチャイチャしていたいのに!
でも学生の本分は学業だもんね。しょうがないから頑張りますよ?サクッと今日のノルマ終わらせてやるんだから!
「ただいまー」
玄関を上がるとリビングからお母さんが出てきて迎えてくれる。
「おかえりなさい、栞、涼君」
「文乃さん、今日もお邪魔します」
「あら、涼君。そこはもうただいまでもいいのよ?それにいつになったらお義母さんって呼んでくれるのかしら?」
まーたお母さんは余計なことを……。
「ただいま、です。えっと……呼び方はまだ、その……」
涼も真面目に取り合わなくていいのに……。
「それは残念。でも、栞と本当に結婚したら呼んでね?」
「それは……、その時が来たらってことで……」
「じゃあ楽しみにしてるわ。私、息子も欲しかったのよねー。栞は栞で可愛いんだけど」
「そうですね。栞はとっても可愛いです」
……ダメ。背中がムズムズしてきちゃった。
涼から直接言われるのは嬉しいだけなんだけど、変なの。
「ちょっと2人共?これから勉強しなきゃいけないんだから、それくらいにしてくれる?」
「あ、ごめん……」
「あらあら、この子ったら恥ずかしがっちゃって。本当に可愛いんだから」
くっ……。涼に言った時は余裕だったのに、自分が言われると……。
「もうっ!ほら、涼。私の部屋行くよっ」
「あ、うん。じゃあ文乃さんまた後で」
「はいはーい。頑張ってね、お2人さん」
顔が熱くて仕方ないのを我慢して、涼の手を引いて自分の部屋へと向かった。
「あ、そうそう。栞、良かったわね。そのクマさんとっても可愛いじゃない」
そんなお母さんの言葉を背中に受けて。
当然でしょ?涼が私のために選んでくれたんだから!
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