第57話 寝顔の写真と【???】

 無言の栞に部屋へと連行された。


 俺、このまま襲われちゃうのか……?いやいや、両親がいる家でそこまでは……どうにか栞を止めないと……


 栞が部屋の電気をつける。そのままベッドに押し倒されると、その衝撃で何かが俺の頭に落ちてきた。


「いてっ!って……何これ?」


 手にとって見ると写真立てだった。そこにはなぜか俺の顔写真が入れられていた。しかも寝顔の。多分いつぞやの盗撮疑惑の時のものだ。背景がうちのリビングだし。栞と母さんにうやむやにされてしまったけど、やっぱりあの時撮られていたらしい。


「……栞?この写真は?」

「あー……しまい忘れてた……」

「やっぱりあの時撮ってたんだ?」

「えへへ、撮ってました…………ごめんなさい」


 今となっては写真の1枚くらい別に構わない。無防備な寝顔なのは恥ずかしいけど、むしろこうして大事そうにしてくれることに嬉しさすら感じる。

 でもちょうどいいものを見つけた。これはひとまずの時間稼ぎくらいにはなるだろう。


「なんでこんなの撮ったの?」

「だって……」

「だって?」

「私、あの時にはもう涼のこと好きだったんだもん!でもまだ付き合ってるわけでもないのに写真欲しいなんて言えなかったんだもん!」

「お、おう……そうなんだ……」


 やけくそ気味に言うものだから、勢いに圧されてしまう。でも、そうなんだ……あの時にはもう栞は俺と同じ気持ちだったってことか……なんか嬉しいな。


「それでなんでこんなところに飾ってるの?」

「……笑わない?」

「内容次第かな?」

「絶対笑うやつじゃない……まぁ、いっか。見られちゃったし。あのね、私ね、夜あんまり寝れなかったの」

「中学の時のことで?」

「うん。涼と仲良くなってから少しずつ改善してたんだけど、それでもやっぱりね。」


 表面的には大丈夫に見えていたけど、結構根が深かったようだ。察してあげられなかったことが悔やまれる。


「それでね、こないだ涼の家で一緒に寝たでしょ?その時すっごく熟睡できて、うちでも涼の顔見ながらならしっかり寝れるかなって思ってプリントして飾ったの」

「ごめんな。気付いてあげられなくて」

「ううん、気にしないで。私が乗り越えなきゃいけない問題だから。それに私には涼がいるって思うだけで少しずつ平気になってるから」

「そっか……じゃあ今日はしっかり寝ないとね」

「あれ?寝ちゃうの?」


 ちょっとしんみりした空気になってもそんなことを言うんだから、困ったものだ。


「ダメって言ったのは栞でしょ?それに文乃さんが聞き耳立ててたらどうするの?」


 そう言った瞬間、部屋の外からガタッと音がした。


 ほら、やっぱり……聡さんを強引に連れてったから怪しいと思ったんだ。


「お母さん、何してるのよ……」

「ね?だから今日は大人しく寝よ?」

「うー……じゃあ我慢するから私が寝るまで抱き締めてて?」

「それくらいならいくらでも。ほら、おやすみ」

「うん、おやすみなさい」


 抱き締めるついでに頭も撫でてあげると、栞は甘えた顔になって、しばらくすると穏やかに寝息をたて始めた。栞の寝顔を眺めているうちに俺にも眠気が襲ってきて、抵抗することなく眠りに落ちた。




 ***




【俺が眠りに落ちた頃、どこかで秘密のリモート会議が行われていた】



「…………報告は以上です」

『ねぇ、ちょっと情報少なすぎない?結構楽しみにしてたのに!』

「しょうがないじゃないですか。あんまり会う機会ないんですから」

『あなた達、友達になったんでしょ?ならなんかイベント起こしてきなさいよ!』

「といってももう夏休み終わるんですけど……?」

『まだ終わってない!まだ間に合うわ!なんか夏っぽい話をちょうだい!できなかったら単位……わかってるわね?』

「おい、職権濫用すんじゃねぇ!っとに生徒使いが荒いんだから……わかりましたよ!なんか考えます!」

『よろしい。健闘を祈るわ』


「はぁ……」


 通話が切れるとため息が漏れた。


 あの人、本当にどうかしてるぞ。単位……本気じゃないよな?……いや、やりかねんな。

 夏っぽいっていったいどうすりゃいいんだよ。夏祭りも花火大会も近場のものは全部終わってるし……


 あいつにも相談してみるか。遊びたがってたしな。ようやく課題も終わったみたいだし、ご褒美も兼ねるか。


 スマホで連絡先を呼び出して通話をかけると、ワンコールで出た。相変わらず早いんだよなぁ。


「よう、ちょっと相談なんだけどさ。ようやく課題終わっただろ?あいつ等と遊ぶ約束してたけど、行き先、なんか案ないか?」

『あそこ行きたい!8月入ってすぐに一緒に行ったとこ!今度は皆で行きたい!』

「あぁ、あそこか……まぁ悪くないな。よし、あいつら誘っとけ。行き先は内緒にな。あそこならすぐ近くで必要なものも買えるし」

『やったー!わかった、連絡しとくねー!』


「ふぅ、これでよし……あとはどうやって2人きりにさせるか、だな」


 2人きりにさせてしまえば勝手に色々やらかしてくれるだろ。単位がかかっているとはいえ、なんか楽しくなってきたな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る