第54話 両家ご対面
「えー……本日はお日柄もよく……」
とは父さんの言葉である。
確かにカレンダーには大安と書かれているが、あいにくの大雨。台風が近付いているとかで、それはもう土砂降りだった。進路は直撃ではなさそうなので、そこまでの心配はないだろうが。
そういえば『お日柄もよく』って言葉的には天気は関係ないんだっけ?でも雨の日にお日柄もよくって違和感あるなぁ……
なんてことを考えて現実逃避しているのには訳がある。とりあえず今の状況を説明すると。
文乃さんから聡さんの仕事がお休みの日の連絡がくる
↓
父さんも休みだったので挨拶をしに行くことに
↓
大雨の中一家で黒羽家へ訪問
↓
黒羽家リビングにて両家の両親向かい合い、俺と栞は並んでその横に着席←今ここ
更にはその後、俺は黒羽家に泊まっていく予定になっている。先日母さん達がそんな話をしていたような気がするけど、まさかこんなに早く現実になるなんて。
……ちょっと詰め込みすぎなんじゃないの?同じ日にすることなくない?
聡さんとは初対面ではないものの、栞と付き合いだしてからは会えておらず、報告もできていなかったので、いきなりのこの状況に胃が痛む。聡さんもついていけてないようで困惑顔。父さんはそもそも人見知りなのでガチガチ。
そんな男性陣をよそに、楽しそうな顔の女性陣。
「あなた……ちょっと固くなりすぎよ。ほら、とりあえず自己紹介くらいしなさいよ」
「あ、あぁ……えっと、涼の父の
「だから固すぎるって言ってるのに……まぁいいわ。次は私ですね。水希です。よろしくお願いいたしますね」
「栞の母で文乃です。主人は……呆然としちゃってますので代わりに私が。聡といいます。」
「いやいやいや。ちょっと待って、文乃?栞と涼君が付き合い始めたのは聞いていたけど、なんなのこの状況は。普通付き合いだして一月足らずで両家の顔合わせなんてしないだろ!」
激しく聡さんに同意だ。小さくうんうんと頷いていると、隣に座った栞が俺の腕をちょいちょいとつつく。
「なんか婚約でもするみたいだね?」
栞が楽しそうで何よりだよ……
「まだ早すぎるだろ……」
「でも、こないだはプロポーズしようかって言ってくれたじゃない」
「プ、プロポーズ!涼君……もう栞とのことをそこまで……!」
あ、これダメなパターンな気がするぞ……
母さんと文乃さんはなんかノリノリだし、父さんは役に立たなそうだし。冷静そうな聡さんだけが頼りだったのに、聡さんが取り乱したら誰が収拾つけるのか。
「涼君、栞はね、私達の大事な大事な一人娘なんだ。ここまで大切に育てて……栞という名前もね、私達の人生という物語の嬉しい出来事の頁にはさむ栞になってほしい、そんな願いを込めてつけたんだ……」
聡さんは目に涙を浮かべながら語り出してしまった。ひょんなことから栞の名前の由来を知ることができたのは嬉しいけど、状況は益々おかしな方向へ進んでいる気がする。
「……だから、涼君!栞のことよろしくお願いします」
「え、あ、はい。こちらこそよろしくお願いします?」
真剣な顔で言われて、反射的に返事をしてしまった。でも、聡さんは満足げに頷いて。
「栞、いい人を見付けたな……しかし、これから寂しくなるなぁ……」
「え?なんで寂しくなるの?」
ほら、やっぱり話が噛み合わなくなってきた。栞もポカンとしてるし。
「だって栞は涼君に嫁いで……」
「……聡さん?栞の歳は?」
「15歳……?あっ!し、失礼……ちょっと気が動転して……」
「もう、お父さんしっかりしてよね。まだ結婚できる歳じゃないんだから。私、追い出されちゃうかと思ったよ」
本当にしっかりしてほしい。認めてくれるのは嬉しいけど、皆して気が早すぎる。俺としてはちゃんと自立できてから、と考えているのに。そのために最近は色々と頑張ろうって思ってるわけで。
「栞ちゃん?もううちの子になってもいいのよ?」
「おい、母さん!何言ってるんだよ!」
「あら、それならそれで嬉しいくせに」
「そりゃ、一緒にいられる時間が長い方が嬉しいけど……」
「涼ったら、私のこと好きすぎ」
「栞には言われたくないんだけど?」
「そうね。私、涼のこと大好きだもん」
両家揃い踏みの中でも、恥ずかしげもなくそう言ってぴったりと俺にくっついてくる。本当に栞には敵わない。
「よかったわねぇ、涼」
「栞もあんなに幸せそうな顔しちゃって。もう婚約ってことでいいんじゃない?」
「涼君……これからは君のことは息子だと思って接することにするよ。栞を、どうか幸せにしてあげてくれ!」
「涼、えっと……おめでとう。でいいのか……?」
もう好きにしてください……どのみち俺も栞以外なんて考えられないし。
この日、俺と栞の関係は両家公認、違うな……悪のりのもと『恋人』から『婚約者』へとランクアップした。いや、させられた、かな?
本当に皆、気が早すぎない?でもまぁ、栞が嬉しそうだからいいか。
……いいのか?
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