第46話 奥さん?
「早くしおりんに会いたーい!」
「お前、勉強しに来てること忘れるなよ?」
「いいじゃん!ちょっとくらい遊びたい!」
「今まで散々遊んでたろ……課題もやらずに……」
「しおりんとは遊んでないもん」
駅からうちまでの道すがら2人はずっとこんな感じだった。相変わらず騒々しいやつらだ。
でもこういうのに憧れもあった。大勢で勉強会とか、まさに学生らしくていいのではないか。
「ほら、着いたよ」
「ほう……ここが涼の家か」
「別に普通の家だろ?」
鍵を回して玄関を開けると、先に帰っていたようで、奥からパタパタとスリッパを鳴らしながら、栞が出てくる。
「おかえり、涼。それといらっしゃい、2人とも」
「ただいま、栞」
「「えっと……奥さん?」」
定番のボケ入れるのやめろ!
「まだ結婚してないって……」
「ねぇ、涼?まだってことはいずれはしてくれるの?」
いたずらっ子の顔で栞が言う。からかわれてばかりは癪なので真面目に返してやることにする。栞が俺を嫌いにならない限り、手放すつもりなんてないのだから。
「そのつもりだよ。なんなら今プロポーズでもしようか?」
こんな返しをされると思ってなかったのか、栞は真っ赤な顔であわあわし始めて。
「そ、それは嬉しいけど……まだ早いっていうか……」
「そうだね。じゃあその時が来たら、ね?」
「はい……」
俺の彼女はやっぱり可愛い。このまま抱き締めようかと思ったところで。
「「俺(私)達いるの忘れてない?」」
「「あ……」」
俺と栞はやっぱり相変わらずなのだった。
「さて。バカップルが見れたところで本題だな。涼も黒羽さんも今日はこのバカのこと頼むわ。ついでに俺のことも少し助けてくれると嬉しい……」
「あー、バカって言ったー!」
「うるさい、バカ!期末でも赤点回避ギリギリだったじゃねーか!」
「だって勉強嫌いだもん!」
遥も苦労してるんだろうな……俺は栞のおかげで成績上がったけど。まぁ、きっとこういうところがほっとけないんだろうな。
「それじゃ彩香?今日は覚悟してね?」
「し、しおりん……?顔、怖いんだけど……?」
「手伝ってあげるのに、そんな言い方していいのかな?」
「ひっ……!よ、よろしくお願いします!」
俺との時はすごく優しくて丁寧なんだけど、今日はなんというか、鬼教官みたいだ。目が完全に据わっている。俺との時間を邪魔されたと思っているのか、少しだけ不機嫌だ。
今のところ俺は栞を怒らせたことがないのでわからなかったけど……怒らせたら怖そうだ。まぁ俺には今のところ激甘なんだけど。
「とりあえず90分集中しましょうか。その後お昼食べてから続きってことで。ほら、2人とも早く準備する!」
「「は、はい!」」
2人は急いで鞄からノートとテキストを取り出してローテーブルに広げる。
「じゃあ、俺は飲み物でも用意するよ」
「ありがと。さすが涼、気が利くね」
俺にはにっこり笑ってくれる。遥と楓さんにも、もう少し優しくしたらと思うけど、自業自得なので黙っておく。
全員分の飲み物を用意し終わって、栞の隣に座ろうとしたところで。
「涼は私の後ろね?」
「後ろ?」
「だっこして?」
有無を言わさぬ迫力に、素直に従わざるを得なかった。とりあえず、この90分の間、俺は栞の座椅子代わりということだ。
「えへへ……」
栞はご満悦な様子。俺としては見られてると恥ずかしいのだが。
「な、なぁ、俺達、それを見ながらやるの……?」
「何か問題でも?」
「いいえ!ありません!頑張ります!」
「よろしい。一応私達が見てるけど、まずは自分で考えてやること。それで少し考えてもわからなければすぐに質問すること。あんまり無駄に考えても時間かかるだけだから。いい?」
「了解です!」
そこからは俺達は基本見守るスタイル。間違いに気付いたり、質問があったら対応していく。
「うー……難しい……眠くなってきちゃった……」
「彩香?寝たらどうなるか、わかるよね?」
「ひっ……!ごめんなさーい」
楓さんは本当に勉強が苦手らしく、ちょくちょく栞に怒られている。
「遥。そこ間違ってる。問題よく読んで。そしたらわかるはずだよ」
「おぉ、すまん。えーっと、あぁ、なるほど。サンキュー、涼」
「どういたしまして」
遥はそれなりに基本はおさえてる感じで、フォローを入れるだけで、割と自力で進められそうだ。
そんなこんなで90分が過ぎ、栞が休憩を言い渡すと2人ともテーブルに突っ伏してしまった。楓さんなんていつもの元気はどこかへ行ってしまって、ゾンビみたいになってる。
「あ"ー……疲れだー……こんなに集中したの初めてぇ……」
「彩香は普段からもう少しやったほうがいいわよ?ほとんど私が教えなきゃだめだったじゃない」
「でもおかげでめっちゃ進んだわ。涼も黒羽さんも教えるの上手いな」
「遥は基本は理解してたから、手がかからなくて楽だったよ」
基本的には栞が対応してたから、俺はほとんど口出ししてない。そもそも俺は栞の座椅子にされていたから、あまり動きようがなかったわけだし。
最初は恥ずかしかった座椅子スタイルだが、テーブルの下でこっそり指を絡めたり、バレないように視線を交わしたり、栞の脇腹をくすぐって睨まれたりと、意外と楽しんでしまった。
「そんなことよりお昼はどうする?2人とも用意してたりする?」
「んーん。途中で買いに行けばいっかって思ってたから用意してないよ」
「なら涼の分作るついでに、私が用意しようと思うんだけど、どう?」
「「……やっぱり奥さんだ!」」
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