第34話 ◆やっちゃった?
「それで涼がですね……」
「ちょ、ちょっと黒羽さん!ストップ!止まって!」
「え?なんでしょう?」
先生が待ったをかけた。
まだまだ話し足りない。涼の格好良いところも、可愛いところも、優しいところも全然伝えられてないよ?せっかく気持ち良く話してたのに。これからがいいところなのに。
「えっとね?黒羽さんが高原君のこと大好きなのは皆に十分伝わったと思うの。ほらまわり見て?」
「は、はい?」
え?あれで十分なの?私的にはここから佳境を迎えるつもりだったけど?
まぁ、見ろと言うならとまわりに視線を向ける。
最初に目が行ってしまうのが涼なのは言うまでもないよね。真っ赤になって机に突っ伏してる。照れてる顔はやっぱり可愛い。私の一番大切な人。私を暗闇の底から引き上げてくれた人。こんなにも勇気をくれる人。大好きでたまらない人。こんな私を好きでいてくれる人。あぁ、ダメ。言葉だけじゃ半分も表現しきれない。なんで言葉ってこんなにもどかしいのかな?
「黒羽さん黒羽さん?高原君しか見てないでしょ?他の人の状態も見てほしいんだけど……」
もう……また邪魔された……涼だけ見てたいのに……
渋々他の人達にも目を向ける。
天を仰いでる女子、悔しそうな顔で涙を流す男子、真っ赤になって顔を覆ってる女子、呆然としてる男子、etc
あれ?もしかしてやっちゃった?
でも最初は「おー!」とか「きゃー!」とかちゃんと反応してくれてたよね?
さっき涼が他の子に言い寄られてたのが面白くなくって。『大丈夫』なんて言ったけど、やっぱり涼にそういうことを言うのは私だけが良くて。見せつけたらやめてくれるかなっていう打算もあったりしたけど、途中からなんかスイッチ入って止まらなくなっちゃってた。涼にも『栞はたまに暴走するから』って言われたところだったのに。
「わかってもらえたかしら?」
「すいませんでした……」
もう殊勝に謝罪するしかない。せっかく第一歩を踏み出したところだったのに、これじゃ逆効果なんじゃない?
あ!ちょっと待って!他の人はとりあえずいいとして、涼に愛想尽かされてないかな……?さっきは『可愛い』って思っただけでスルーしちゃったけど、照れ屋な涼のことだから……怒ってないよね……?
「あの……涼、ごめんなさい……」
これでフラれちゃったらどうしよう……
まだまだ私の心は弱いままだ。すぐ不安が顔を出してしまう。
「もう……なんて顔してるの。そんなことで俺が怒るわけないでしょ。めちゃくちゃいたたまれないけどね。栞がそれだけ想ってくれてるのは、その……嬉しいからさ」
もう、この人はどれだけ私を夢中にさせたら気が済むんだろ?私が不安になりかけたら、すぐ嬉しい気持ちで満たしてくれる。
「おぉ!高原君も言うねぇ。じゃあ、黒羽さんが落ち着いたところで……」
終わりかな?帰ったらどうしようかな。でも今日はすっごく疲れたから、涼の家に寄り道して甘えちゃおうかな?彼女だもん、それくらいいいよね?ね?
「続いて高原君いってみよー!」
え?私の話を止めたのにまだ続けるの?皆瀕死じゃない?
でも涼は私のことどんなふうに話してくれるのかな?それはそれで気になる!ワクワク!
「れんれん、死体撃ちなんてひどーい!」
もう!せっかくのチャンスを邪魔しないでよ、彩香!
って、あれ?私、彩香のこと結構受け入れちゃってる?あんなに他人に興味なかった私が?
……これも涼のおかげなのかなぁ?涼といると、どんどん自分が作り替えられていく気がする。
「でも、それも面白そう!やっちゃえ高原くーん!」
でかしたわ、彩香!落として上げるなんてやるじゃない!
でも彩香?あなたは何をしているの?
彩香は柊木君の膝の上に座って後ろから抱き締められてる。なぜか柊木君は真顔だけど。
私もあれ、してもらいたい!涼に抱き締めてもらったのなんて2回しか……あれ?花火の時もしてくれたから3回?とにかくそれくらいしかしてもらったことないのに!
「だー!わかったよ!やってやるよ!後悔してもしらんからな!」
突っ伏してた涼が勢い良く立ち上がった。やけっぱちになったみたい。これは本音が聞けそうね!まぁ、いつもなんだかんだでちゃんと言ってくれるんだけどね?
「いいか!俺の栞はすっごく可愛いんだ!」
『俺の』って言ってくれるとキュンとしちゃう。私は涼のもの!涼は私のもの!へへ……
けど私可愛いかな?可愛いって思われたいけど、こないだまであんなだったからちょっと自信ないし。
「目は優しそうでパッチリしてて吸い込まれそうだし、肌はスベスベだし、髪はさらさらで撫でると気持ち良くて、ぷっくりした唇も最高に可愛い!」
ずっとちゃんとケアしててよかった。お母さんがうるさいからやってただけだけど、感謝しなくちゃ。
でも見た目だけなの?
「それにしっかり者だし、賢いし、料理だって上手いんだ!」
ちゃんと他のところも褒めてくれて一安心ね。料理は自分ではまだまだって思ってるけど。二学期が始まったら水希さんにお願いして、涼のお弁当作らせてもらっちゃおうかな?胃袋をつかむのは基本って言うしね。
「でも一番大事なのは、そこじゃない!こんな俺と一緒にいてくれて、引っ張ってくれて、一緒に頑張りたいって思わせてくれる。そんなところが大好きなんだ!」
そんなの……いつも引っ張ってもらってるのは私の方なのに……でもそう言ってくれるってことはお互い様なのかな?そこが一番嬉しいなぁ……
「いやー!いいわねぇ……これぞ青春って感じで。ありがとね、黒羽さん、高原君。今日は私も久しぶりに旦那と……って生徒の前で何言ってるのかしら、私…………さて、場も暖まってきたことだし……」
暖まってるかな?女子達は涼のやけっぱち告白で復活してキャーキャー言ってたけど、男子は撃沈してないかな?
先生次は何する気なの?
「他の皆!今なら気になってる人に想いを伝えられるんじゃない?ということで告白祭いってみよー!」
今更だけど、あなた……本当に教師ですか?ノリが女子高生のそれよりすごいんですけど……
でも……いいぞもっとやれー!私達だけ恥ずかしい思いをするのはずるいぞー!
「はーい!私は遥が好きでーす!」
「楓さん、あなたのは皆知ってるわよ。というか何堂々とイチャついてるのよ」
「だーって、あんなの見せられたらねぇ?」
「まぁいいわ。他の人はー?」
こうして始まった告白祭。ちらほら手が挙がり始めて先生が順番に指名していって……
ここで3組のカップルが誕生したとかしなかったとか。撃沈した人もいたけどね?
解散となった時にはもうどこのクラスも人影はなかった。それはそうだよね。昼前に終わる予定だったのに、うちのクラスが解散したのは13時をまわっていたんだから。
ちなみに今日の目的だった課題の回収は先生(と私と涼?)の暴走によりすっかり忘れ去られ、先生は各教科の担当教師からこっぴどく叱られたという。
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