第27.5話 バックヤードにて
「はぁ……若いっていいなぁ……」
先程のお客様をお見送りして、バックヤードに戻った私は、思わずそう独り言をこぼしていた。
「突然どうしたのよ?あなたまだ20代前半でしょ?」
奥で事務作業をしていた店長に聞かれてしまった。余韻に浸りすぎて気付かなかった。サボってるのがばれてしまう。この店長はなかなかに厳しいのだ。
「あっ、店長。お疲れ様です。」
「お疲れ様。で、何かあったの?」
聞いてくれるなら話しちゃおうかなぁ。誰かと共有したくてウズウズしてたところだし。
「それがですねー、さっき高校生カップルがお客様できたんですけど、それがもう可愛くって……」
「高校生のカップルなんてよく来店するでしょ?そんなに言う程だったの?」
いやいや、あんな初々しくて甘々な雰囲気醸してるのなんてめったにいないから!
「そうなんですよ!彼女さん、最初はちょっと地味な服装だったんですけど、彼氏さんに選んでもらってて、試着して出てきたのがまた可愛くて……」
「あなたがそんなに可愛いって言うなんてよっぽどだったのね?」
「思わずお持ち帰りしちゃいたいくらいでしたよ!ってそこはいいんです。それで彼氏さんは見とれちゃって真っ赤になって固まってるし、彼女さんは着なれてないのかもじもじしてて……それだけで甘酸っぺぇなちくしょう!って感じなんですけど。」
「ほほぅ……」
なんだかんだでこの人もそういう話好きなんだよねぇ。もう興味津々じゃん。
「それでですね、彼氏さんがなんとか頑張って『可愛いです』って言うわけですよ。そしたら彼女さん恥ずかしがりながらも即決でお買い上げいただいて。もう、ちょっと褒められたからってチョロすぎないです?そんなところもまた可愛くって……」
「確かにチョロいわね……」
「あれは絶対付き合って1ヶ月もたってないですよ!お互いのことしか見えてないって感じでしたもん。あー!私も彼氏ほしいー!ぐずぐずに甘やかしてくれる人いないかなー!」
格好良くて優しくてお金持ってる人がいいなぁ……
「見事に雰囲気にあてられちゃってるわねぇ……」
「私だけじゃないですよ?その2人を物陰から覗いてるカップルがいたんですけど、そっちもいちゃつきはじめて……あーもう!羨ましい!」
「あなたは理想が高すぎるのがいけないと思うわよ?ほら、これでコーヒーでも買ってきて、ちょっと落ち着きなさい」
店長は財布から2千円を取り出して私に手渡す。
「2人分ね。私のは深煎りのブラックがいいわ」
「店長が奢ってくれるなんて珍しい……」
「いらないならいいけど?」
「いりますいります!すぐ買ってきます!」
店長と同じのを選んだけどとっても苦かった。でも気持ちを切り替えるのには調度良くて……
さて、今日の残りの時間もがんばりますかねー!
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