第21話 知りたい

「暑い……」


あまりの暑さにそう独り言をこぼす。俺は今黒羽家の最寄り駅で栞を待っているところだ。先日約束した買い物に付き合うため。待ち合わせは10時なのに、落ち着かなくて30分も早く着いてしまった。

早く栞に会いたい。毎日のように会ってるくせにそんなことを思ってしまう。俺、栞のこと好きすぎないか……?重いって思われないかな?相変わらず栞が隣にいないと不安になってしまう。


今日の予定の経緯はこんな感じだ。



「そういえば、こないだの約束覚えてる?」

「買い物に行こうってやつ?」

「それそれ。付き合って初めての、えっと……デートだよね……?」


花火大会の時もデートといえばデートだったけど、まだ付き合ってなかったし、なにより邪魔が入ってしまった。あれはあれで結果としてはプラスに働いてくれたけど。


「そういうことになる、かな?」


家で一緒に過ごすことを『おうちデート』なんて呼ぶこともあるらしいけど、黙っておこう。


「どこ行こっか?」


近場でもそういう店はあるにはあるが規模は小さい。そうなると少し遠出をしなくてはならないけど、せっかくだし……


「ちょっと遠いけどショッピングモールとかがいいんじゃないか?いろんな店が入ってるだろうし。となると母さんに送ってもらって……いや、でも2人きりの方がいいのかな。確か駅からバスが出てたような……」


スマホで行き方なんかを調べようとすると


「涼ってすごくちゃんと考えてくれるよね」

「あ、ごめん。栞の意見も聞かずに突っ走ってた」

「んーん。いいの。こういうの不馴れなはずなのにがんばってくれて嬉しいよ?」

「なんかさらっとそういうこと言うようになったよな」


真っ直ぐ気持ちを伝えてくるようになって、俺の心臓は大忙しだ。止まりそうになったり鼓動が速くなったり……


「涼に対しては気持ちが溢れすぎてつい言ってしまうってとこもあるけど、思ってるだけじゃ伝わらないことも多いから。それに涼の前では素直になろうかなって」

「そ、そっか……」

「ということで今回は涼のエスコートにお任せしちゃいますね?」

「がんばります……でも責任重大だなぁ。ダメなところはちゃんと言ってくれよ?」

「大丈夫よ。涼と一緒にお出かけして、一緒の時間を楽しむのが大事なのよ。私のためにがんばってくれたことを否定なんてしないから。というか最初からこなれたことされたら不安になるよ」



という訳で一任されてしまっていた。


太陽が照りつける空を恨みがましく眺めていると


「え?涼!もう来てたの?」


栞が走ってこちらにやってきた。


「そう言う栞こそかなり早いけど?」


まだ20分前だし。30分前から待ってる俺の方が大概だけど。


「なんか早く会いたくてうずうずしちゃって。涼はいつからいたの?」


これだけで嬉しくなる。同じように考えててくれたことが。


「10分くらい前かな?俺も早く会いたくて出てきちゃった」

「なんか同じこと思ってくれてるっていいね」


栞は俺の心が読めるんじゃないかってくらい同じ事を思ってくれる。似た者同士ってことなんだろうな。

今日は2人とも早く来てしまったけど、炎天下の中、長時間待つのはよくないということで、今後の待ち合わせは早くても5分前にということになった。お互い5分前調度に到着する未来が見える気がするけど。


程なくしてやってきたバスに乗り込む。

夏休みとはいえ平日なので車内の人はまばらで、無事座ることができた。


「ところで今日のプランは?」

「んーと、今のところノープラン、かな」

「え……?」

「あ、いや、何も考えてないわけじゃないんだ。でも思い返してみたら、俺あんまり栞の好きなものとか知らないことに気付いてさ。だから今日は2人でいろんなものを見ながら栞のこと知れたらいいかなって思ってる」

「もう……最初からそう言ってくれたらいいのに。ノープランなんて言うからちょっと焦っちゃったじゃない」

「行動予定的には白紙だからさ……申し訳ないけど。でも栞のこと知りたいっていうのは本当だから。その、大事な彼女、のことを」


言っていて恥ずかしいけど、栞が素直になってくれるのに俺がそうしないのはフェアじゃない気がして。まわりに人が少ないのだけが救いだ。


「う……外でそんな嬉しいこと言って……私の歯止めがきかなくなっても知らないからね?」


栞が俺の手をとって指を絡ませてきた。所謂恋人繋ぎというやつ。


「今日は離してあげないから!」






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