#63 映画のポスターの話

映画のポスターって 今は何人の人がかかわるのでしょう

題字は書家  キャッチフレーズはコピーライター

主役の写真はカメラマン 背景は画家やイラストレーター

全体の構成は また別の人?

それ全部一人でやってたのが昭和 映画全盛期の広告デザイナーです

     カメラマンはいました でも今のような大家はいない

     撮影には広告デザイナーが立ち会って 

     欲しいイメージの写真を指示するのです

     とはいえ現像するまで出来上がりは分かりません 


しかも よほど特別な作品以外は 

毎週新作が二本立てで封切られる時代に

デジタルもコンピューターもない 手作業&人海戦術です

山のようなスチール写真の束から 一枚を選び欲しいサイズに拡大

は出来ないので サイズを指定して焼き伸ばしです

どれもこれも使えないとなれば 絵で行こうとなる事もあります

写真が決まれば必要な部分を切り抜くのは 手作業 はさみです

      この辺は 漫画家さんでいうアシスタントのような方が

      する仕事ですが


背景が写真でも 絵(イラスト・墨絵・油絵・ペン画ETC)でも

ただ重ねるだけでは違和感があるので 写真を重ねた部分は絵具で

馴染むように描いていきます  もちろん手作業です 

そこに トレーシングペーパーをかぶせて 別紙に書いたタイトルや

キャッチフレーズ 出演者名 会社名 などを どの位置にどの位の

サイズ感で置くか等の指定をトレーシングペーパーに書き込んで

(色の指定は印刷カラー番号表をちぎったもの貼って指定)

まず印刷会社に渡します


それを元に印刷の一刷が上がると 手直し・変更のやり取りが何度も

あって 数刷目に ようやく決定稿(仮)となります

作品の種類にもよりますが 作家や監督 時には出演者にまで

それを見せて了承を得なければ 印刷会社にGOを告げられない事も

多いのです

特に お盆やお正月の特別な映画は その映画会社所属のオールスター

が出演する為 名前の順番が大問題となりやすいのです


誰が最初(右端)で誰が止め(左端)か一行ずつ空けて一人ずつ書くのか

数人まとめるのか ずらっと並べず 間に線を引いて特別感を出す とか

(特別出演)と書く代わりに 止めは譲ってもらうとか

これは ほぼ専業でやるような人がいたようです

      ちなみに 昔の大女優に山田五十鈴という人がいて

      この人は気さくで「名前なんて どこだっていいですよ」

      と言ってくれるというだけで 現場に大人気でした 

      という事は… 相当うるさい人多かったみたいです


いつの事だったか 仕事の話はほとんどしない父が面白そうに笑って

話してくれたことがあります

ある年の オールスター総出演の東映時代劇正月映画のポスターに

御大おんたい二人の上半身を左右に配置した時の事です


Aさんの取巻きから「うちの先生の顔がBより小さい」とクレームが来ました

「確かにそう見えるんですがどうしましょう」とアシスタントが言うので

「〝計ってみてくれ 同じサイズだから〟とものさし持って言って来い」

と言ったんだそうです 

実は A御大は馬面 B御大は丸顔なので 厳密に言うと確かにBの顔が大きい

けど こういったクレームは 本人ではなく取巻きが忠誠心の証として

言ってくることが多いので 文句言わせないように縦サイズを同じにしたのさ

と言って 珍しくそれは面白そうに笑ってました

       はい 父の仕事は戦後映画界の広告デザイナーでした

       家で作業する事も あったので門前の小僧してました

       折の 想い出です

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