第8話 同級生のばあちゃんちは昭和のラブホ


小学校の同級生のヒロミちゃんのばあちゃんちは

夜は薄暗くてちょっと怖い 駅の裏口のすぐ近くにあった

ヒロミちゃんちは ご両親が共働きだったから

学校が終わると家ではなくばあちゃんちに帰ってたん


そのおうちはとっても変で とっても大きかった 

ひとの背丈ほどの石垣の上にあって 道の奥側に入口があり

家に向かう石段の道路側は高い生け垣で覆われていた

広い玄関に入ると真正面に二階に上がる階段があった


ヒロミちゃんのばあちゃんはいつでも 入ってすぐ右の 

神棚のある一階の部屋の掘りごたつに座って煙草を吸っていた

映画で湯婆婆を見た時 すぐにばあちゃんを思い出したよ


当時 学校のほとんどのお母さんたちは

「学校では遊んでいいけど放課後はヒロミちゃんと遊んじゃダメ」

と言ってたから ヒロミちゃんのばあちゃんは私が行くと

すごく喜んでお菓子を一杯出してくれた


もちろん 後に理解した事だけれど

そこは当時 turekomi旅館と呼ばれてた場所だった 

今のラブホとは違って ネオンやライトアップはおろか

看板さえ出していない 入り口も分かりにくく

石段を一段上がれば 生け垣に隠れて外から姿は全く見えない

玄関は道行く人の目線より高い 奥に向かって家はとても大きくて

一階は ばあちゃんや住み込みの仲居さんの居住空間

二階が客室 という事だ

玄関正面の階段を上がると 真っ直ぐ細い廊下が伸びていて

両側に襖が並び ホテルのように各部屋の入り口になってる

とはいえそれぞれの部屋同士は襖で仕切られただけの畳の部屋


なんで小学生がそんなに詳しいかって?


ヒロミちゃんのばあちゃんちは旅館だと思ってた 

当時は ふすま一枚で別の部屋って普通の旅館でもあったから

確かに こんなトコに旅行に来る人いるのかな? とは思ってたけど

 

当時 営業は夜だけだから 

昼間は仲居さん達が ふすまを全部開けて窓を開け放して

布団を干して 部屋の掃除をしているから

そこは 実に明るく開放的な空間になる訳で

ヒロミちゃんと走り回ったり

時代劇によくある場面をマネして 部屋から部屋へ

ふすまを開けたり閉めたりして遊んでたんよ

今思えば 実に稀有な経験をしたわ 

仲居さん達は迷惑だったろうけど 

オーナーの孫と友達だから何も言われなかったなあ


今 振り返ると 男女が二人であうのに 

ふすま一枚の仕切りで別の部屋ってすごいよね

風呂もトイレも どうしてたんだろうか

 

もちろん私の知ってるのは 山手線駅裏口のそこだけだから 

それが昭和前期の普通だよ とは言いきれないけど 

そういうところがあったのは本当に本当なんだよ

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