第十五話 ルミナス騎士団1

ドン!!!

馬車に何かが墜落した。

その馬車の向こうに、山のような巨躯が焚き火の明かりを受け、見え隠れする。


「グググガガァァアアア──」

向こう側の怪物が咆哮をあげ、焚き火の炎を震わせた。

テラは恐怖のあまりエルサの腰を後ろからぎゅっと掴む。


一台の馬車が宙を舞っている──。


人々は理解し難い事象を目前にし息を呑み、ただただ飛んでいく馬車を見つめている。ゆっくりと馬車は舞う。世界から音が消えてしまったように一瞬静かになった。

馬車に積載されていた大量の収穫物が飛び出して四散し、遅れて色とりどりの羅紗布が花びらのように宙を舞う。

馬車が地面に着地し轟音が鳴り響く。馬車は瓦礫の山に成り果て、四散した荷物が瓦礫の上に降り注ぐ。

湧き上がる土煙の中から巨大な顎が現れる──。


グランドウルフ──。

御伽話に出てくる怪物が目の前に現れた。

馬車の円陣の一角が崩れ、怪物とテラたちを遮るものはもう何もない……。


グランドウルフは、ゆっくりとこちらに近づくいてくる。右肢を不自由そうに引き擦りながら。

「グァァァア!!!」

グランドウルフが空に向かって吠えた。開かれた巨大な口は柘榴のように真っ赤に染まり、短剣のような鋭い歯が所狭しと並んでいる。

グランドウルフに警戒の色はなく、悠然と距離を詰めてくる。眼前に並べられた料理の中からどれを選ぼうかと逡巡しているようだ。


エルサがテラが掴んでいる手を優しくほどき、テラをかばうように一歩前に出て、両手を開きテラを庇う。


お母さん、嫌だ。離れないで……。

テラは母を引き留めようと思ったが、恐怖のあまり動くことができなかった。

グランドウルフは眼を細め、エルサの方へゆっくりと歩み出す。

やめて……。

声にならない魂の叫びが身を切り裂く。


そのとき、闇夜をつらい抜いて黄金色の光が目の前を一閃する。

「グルル……」

直後にグランドウルフから苦しそうな呻き声が聞こえた。グランドウルフのわき腹には黄金色の矢が刺さっていた。

純白の体毛を深紅の液体が染め、地面に流れ落ちる。


ダダダッ、ダダダッ、ダダダッと馬蹄音が遠くから響いてきたかと思うと、銀色の眩い閃光がグランドウルフへと突っ込んだ。

グランドウルフは間一髪で銀色の閃光をかわした。

激しい閃光にテラは眼を瞑る。

眼を開けると白銀の光は収束しており、光の中から馬上の白銀の騎士が現れた。兜、甲冑、佩刀も全て白銀色である。


「あれはなに……?」


白銀の騎士は馬から飛び降りるとスラリと剣を抜き払う。現れた刀身は眩いほど輝いている。焚き火の炎を反射しているのではなく、刀身が自らが光り輝いている。

白銀の騎士は怒涛の剣戟をグランドウルフに加える──。

一撃、一撃がグランドウルフの体に赤い筋を刻み込む。グランドウルフは一歩ずつ後退していく。

白銀の騎士は剣を空へと振り上げ、目にも止まらぬ速さで振り下ろす。剣が空を切る音がテラの耳まで届いた。

グランドウルフは首を僅かに右に傾けて斬撃を躱わし、その巨大な口蓋で白銀の騎士の頭に噛みつこうとする。

カラン──。

白銀の戦士は紙一重で躱わしたが、グランドウルフの牙が兜に引っかかって、兜は宙へと跳ね上げられた。

兜の中から豊かな金の長髪がふわりと広がる。


「セイッ!」

白銀の騎士掛け声と共に剣が一層強く輝く──。

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