第3話


彼女の様付けに恐れ多いと思ったヨツヨシは彼女に言う。


「よして下さい、俺の様な野良に様を付けるなど」


すると、由良は頬を膨らませて言い返す。


「善サマだってサマ付けしてるし、それよりも、今日の配信も良かったよ、興奮しちゃった」


すぐさま笑みを浮かべる由良。

ヨツヨシは周囲を見回す。

彼女は有名な神である。

そんな彼女と野良契約者であるヨツヨシが居れば変な噂が立つだろう。


彼女に会釈をして早急にその場から立ち去ろうとするが、由良はその背後に引っ付いて歩いて来る。


「ねえねえ善サマ、好い加減、私の専属契約者になってくれないの?」


神からのアプローチを受けるヨツヨシ。

専属契約者とは、神が直接、拝神者と契約する事で一定の条件の中ではあるが、奉納をせずとも神の恩恵を一身に受ける事が出来る。

毎回奉納をして禊を行うヨツヨシにとって、奉納と言う過程を通さず神の権能を使う事は魅力的ではあるのだろう。

だが、その話を受けた所で、ヨツヨシの思いは変わる事は無かった。


「俺はそういうのには興味無いです、と、前にも仰ったじゃないですか」


興味がない。

実際には、興味があった、と言うべきだろう。

先程の通り、ヨツヨシが神の権能を奉納無しで自由に使える事は、凶ツ神を討伐する上では使い勝手が良くなる。

だが、専属契約者と言うものは、その神のみを信仰し、神の為に尽力する者を指す。

つまりは他の神と契約する事が出来なくなるのだ。

複数の神に奉納を行っているヨツヨシは、他の神からの恩恵が無くなる事が嫌だった。


「善サマなら特別に、私の権能、全部使わせてあげる、一万円程の奉納じゃあ、分厚いナイフしか使えないでしょ?」


「俺はそれくらいで性に合ってます、…でも、もしも他の神に奉納をしても良いと言うのなら、専属契約者には是非ともなりたいですが…」


専属契約者でも、神との交渉次第で他の神に奉納する事も出来る。

だが、信心深い人間からすれば軽蔑する行為であり、信仰者たちもその行為を毛嫌う。

昔、専属契約者が他の神の権能を使用した事で炎上し、引退をせざるを得なくなってしまった事もあった。


ヨツヨシは既に、他者の意見に人生を左右される程までに弱い精神は持ち合わせていない為に、複数の神の権能を使用する事に頓着が無い。

だが、他の神に奉納をしたい、と言うヨツヨシの言葉に反応した由良は、ヨツヨシに対して睨んだ。


「それはダメ、私以外の神に奉納するなんて、不埒過ぎるから、私だけを信仰して?」


不埒。

奉納とは身を削いで作った金を渡す事。

それが直接自らの身を削いで作った金で無くとも、労力に対して生まれた対価は間違いなく本人の血肉である。

それを他の神に捧げると言う事は、性交渉よりも穢れに満ちた行いであると、神は認識している。


「じゃあ、この話は無かった事にして下さい、そもそも、俺の様な野良よりも、より優れた拝神者なんて多いでしょう、そちらの方に契約を持ち掛ければ宜しいのでは?」


ヨツヨシの言葉に由良は声を荒げた。


「善サマ以上に優れている人なんていないもん、神である私が言うんだから、それは確実、それに、私の権能の全部、使っても良いなんて、他の専属契約者にも言ってないんだから、善サマだけだよ、これを言うの」


彼女が自らの足で出向き、スカウトするなど絶対にない事である。

其処までに、ヨツヨシと言う男に惚れこんでいるのだろう。


「他の神様の奉納が可能でしたら前向きに検討します、それ以外は出来ません、由良様」


頑固になりながら、ヨツヨシはそういうのだった。

彼の戦闘方法は複数の神の奉納を行い、肉体強化と武器使用によって戦う。

専属契約者になれば、多彩な戦闘方法が削がれてしまい、彼なりの全力が出せないと言う理由で、専属契約者になる事は控えていた。


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