第29話 1年でどうにかしよう!
私たちは、そのまま最下層のホームセンターにまで向かった。
アロゥはさすがにそのまま残したが、エサが必要じゃないならひとまず心配はいらないだろう。
「さて、まずは最下層のワープポイントの設定をしておこうか。やっぱ、あの石碑がそのまんま転送碑だったみたいね。実は最初からあそこから地上に戻れたんじゃないの?」
普通に考えたら、最下層から地上に戻んなきゃならないわけで、5階層も上に戻らせる不親切設計にする意味がない。実際、今は転送碑として使えるらしいわけだしどうなのよ。
「そんなわけない! 私、何度も試したもん! マホだっていっしょに見たじゃん」
「ごめんごめん。さすがに試すわよねぇ」
もしかしたら、全部の階層を起動することで、最後のオマケとして起動する仕組みなのかもしれない。私がバグらせて全部開いたことで、こいつも使えるようになったとか?
「まあ、どっちにしろフィオナも使えるようにしといて」
「う、うん」
フィオナが転送碑に触れると、表面にポウッと転移可能な階層の数字が浮かび上がった。
どうやら問題なく101階層へのジャンプもできるようになったようだ。
「フィオナ、まず確認なんだけど、このダンジョンはフィオナの家の領地にあるから、フィオナの家で管理運営をしていきたい。でも、全然うまくいってなくて、国に納める最低限の魔石も発掘できていないし、借金の返済もあって厳しい……ってことでいい?」
「えっと、簡単にいえばそうなるかな」
「それって、お金で探索者を雇うンじゃダメなのなの?」
私は探索者のことをよく知らない。
さしあたり、ホームセンターの物品を使ってある程度のお金を得て、そのお金で探索者パーティーを雇って、適当に攻略しといてもらうというのは、1つの手ではある。
いずれにせよ、ダンジョン内部の情報も欲しいわけだし。
「人気のダンジョンで潜っている人は、わざわざ新しいとこには来てくれないんだ。ほら、ここじゃあ娯楽もないしさ。ものすごくたくさんお金を払えば別だろうけど、それじゃ結局赤字だし」
「寺院もなくて蘇生もできないわけだしねぇ。そっか」
旨みナシのダンジョンは、金にモノを言わせた作戦すら取りづらいというわけね。
一度、不人気スパイラルに入り込んでしまうと、探索者はいなくなるし、周辺の産業も伸びないわけで、ズルズルと悪いほうへ悪いほうへとはまり込んでしまうというわけだ。
スタートダッシュに失敗した企業の末路という感じだ。
とはいえ、結局は「未知」であることが、不人気を助長しているわけで。
魔物が強いのも、人が集まり人気になることで、攻略法が見出されればなんとかなるはず。
「フィオナ。現状、どこが一番改善しなきゃならない問題かわかる?」
「一番? そりゃやっぱり探索者がいないってことじゃないの?」
「それは目的だね。探索者が増えれば魔石は手に入るわけだし。問題は、そこに至っていない理由なんだけど」
「あ~、メルクォディア大迷宮は難しすぎるってこと?」
「正解。そこが一番だね」
命が懸かってる上に、難しくて稼げない。その上、なんとか寺院もないから蘇生もできない。
そりゃ、誰だってそんなとこに潜りたくはない。ここが世界で唯一無二の迷宮ならともかく、他にもそれなりにダンジョンはある上に、どこだって探索者を募集してるのだ。
「つまりね、ダンジョンを上手く運営してくってのは、経営みたいなものなんだよ」
「経営? それじゃまるで探索者がお客さんみたいじゃない」
「探索者は客よ? ダンジョン攻略に夢中になってもらって、ズルズルと奥へ奥へと入り込んでいってもらわなきゃダメなわけ。現時点では入り口あたりをみて『ダメだこりゃ』って見切りを付けられてる状況なわけでしょ? まずそこから改善していかなきゃね」
まあ、客というとさすがに語弊があるかもだけど、似たようなものだ。
彼らがたくさん稼いでお金を落としてくれれば、領地も潤うわけだから、まさに金を生む鶏である。
おそらくだが、迷宮管理局はそのことがよくわかっているのだろう。だから、簡単にはノウハウを教えないし、委託という手段をとり、自分たちで儲けを半独占状態にしているのだ。
「そういえば、ここの悪い噂が流れてるって言ってったっけ?」
「うん……。ここにいた探索者たちが他のダンジョンに行って吹聴してるとかって。私が前にいっしょにやってた子たちもね、ここは大変だから他に移動したいって言ってたくらい」
「そういえば、フィオナはパーティー組んでたのか。その子たちとは?」
「私が転移の罠に引っかかったってこと買い取り所で報告はしてくれたみたいだけど、それっきり。どっか他でやってるんじゃないかな」
「ふ~ん。仲良くなかったの?」
「どうかな。私、必死だったし……けっこう無茶なこと言ってたから」
フィオナは貴族だから、気も遣ったんだろうしなぁ。まあ、仕方が無いだろうな。そこは。
とにかく探索者は取り合いだ。
最終的な結果……がどのダンジョンでも同じであるなら、より楽に安全に稼げるところに人が集まるのは道理。
メルクォディアも最初は大金を使って投資したみたいだし、良かったんだろうけど、今となっては、閑古鳥。
「とにかく、すぐに大人気ダンジョンにするのは無理だろうけど、どっちにしろなんとかなるでしょ」
「でも、マホ。そんなに時間ない……かも。返済だってそこまで待って貰えないし……。10年とかだとさすがに……」
「じゅう!? そんなかかるわけないでしょ」
「じゃあ、どれくらい? 5年くらい?」
う~む。フィオナはホームセンター様の威力がよくわかっていないんだな。
問題は探索者を呼び込めるかどうかだけで、しかも実はそれが探索者でなくてもいいだよね。うちで探索者として育てていけばいいんだから。
しかも、フィオナは領主の娘で、父親の領主様が協力してくれるのが確定しているわけで、そんなにチンタラやっちゃいられない。
借金返済は元より、王様への上納金だか貢納金だから知らないけど、それだって支払わなきゃだし。正直、ドラゴンの魔石を出すのはちょっともったいないような気もしてきたわけで。
「長く見積もって、1年かな」
「い、え? いちねん?」
「そう。1年でここを世界一のダンジョンにしよう。私とフィオナで」
フィオナは、両目をパチクリさせてあんまりわかってないみたいだけど、学校に行くって約束してんのに、そんな何年もやっちゃいらんないからね。
1年で完全に目処を立てて、16歳で学校に入学するんだよ! なんの学校なのかは未だにわかってないけどね!
◇◆◆◆◇
「さ~て、まずはダンジョンのことを知らなきゃどうにもなんないから、普通に探索しよっか。フィオナは6層まで至ってたんだっけ? それってどれくらいのレベル?」
「余所のダンジョンのことあんまり知らないけど、中堅より少し上くらいだと思う」
「なるほど、とするとこっちで20層くらいまでは把握しといたほうがいいかな」
「把握って?」
「いや、こっちはこのダンジョンに人を呼び込んで儲けようとしてるわけだよ。なら、ここのことは誰よりも知ってなきゃダメなんじゃない?」
フィオナはここを運営せず、ただ探索者として潜っていた。パチンコ屋の店員がひたすらパチンコ打ってるような感じだろうか。そりゃ儲かりませんわよ。
「そういえば、地図とかは?」
「地図? 前のパーティーでは後衛の子が書いてたかな」
「書いてた? ギルドで配ったりは?」
「してないけど」
「1層とか2層のものも?」
「ダンジョンは自分で潜って構造を明らかにしていくものだよ? あとは、ちゃんと記憶したりとかして」
「OH……」
不親切にもほどがある。下層の地図がないなら仕方が無いが、上層すら地図もなしに潜らせるなんて。
「フィオナ。じゃあ、最初は詳細地図の作成からだよ。あとは攻略情報。魔物や罠の種類。魔物の倒し方、注意点。あとは、パーティーとしての立ち回りとか……まあ、いろいろ必要だね」
「え、ええ……? そんなこと必要……? 探索者は自力でダンジョンに潜って魔物を倒して経験を積んで強くなっていくものなんだよ?」
「そんなスパルタ式じゃあ人は集まらないんだよ、フィオナ。みんな本質的には楽に稼ぎたいんだから」
もちろん、金だけじゃなくて経験値的なものでも同じだ。
楽して強くなりたい。もっと儲けたい。人生をより良いものにしたい……。
誰だってそう。探索者をやるように人なら尚更だ。
「でもマホ、地図作るのはいいけど、私とマホだけで探索して地図作るの? けっこう大変だと思うけど……」
「そこなんだよなぁ。最下層の魔物とか倒してるわけだし、実はかなり強くなってて上層の魔物なら楽勝ってならない?」
「ど……どうだろ……。5層くらいまでなら問題ないだろうけど……う~ん」
フィオナ的にも難しそうということらしい。
確かに、ガチ冒険して地図を作るのはそれなりに時間掛かりそうなんだよなぁ。やっぱ人を雇うか?
「ワンワン! 我々がオトモするから大丈夫だワン!」
「おっと、確かに君らが居てくれたら頼もしいけど、転送碑がねぇ。これなんだけど、使える? 使えたとしても、上の階層に行けないことには――」
私がそんなことを言っている間に、ポチが転送碑に肉球をタシッと置くと、私の時と同じようにパパパパッと明滅して、全点灯するではないか。
ポチだけでなく、タマもカイザーまで同じ結果。
どうやら、地球産の生き物が使うと転送碑はバグるらしい。
「これでいっしょに行けそうなんですか? ご主人?」
「いけるいける! じゃあ、みんなでまず1階層の地図作りといこう!」
――――――――
明日より一日一回、昼の12時の更新となります。
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