第28話 でっかい! しゃべる!
そうこうしている内にダンジョンへと到着した。
入り口はけっこう大きく、地下へ続く階段の感じは、なんとなく地下鉄の入り口を連想させる。まあ、サイズはもっと大きいが。
1階の転送碑は、入ってすぐにある親切仕様で、前回のが一度きりのバグということもなく普通に私はどの階層にも飛べるようだった。
ホームセンターがある101層へ直通ジャンプが可能だが、フィオナはなぜか101階へは飛ぶ事ができない。101の文字が点灯していないのだ。
「あ、そういえば。思い出した」
「どしたの」
「管理局にダンジョンを委託にしちゃうと、登録探索者は全員どこまで転送碑を有効化したかを管理局に知られちゃうんだった」
「そうなの? どうやって? 書面で提出とかならごまかせそうだけど」
「どこのダンジョンも第一層の転送碑のとこに管理官がいて、どのパーティーが何階層へ移動したか記録を取ってるんだ。場合によっては救助隊を出したりすることもあるからって説明だったけど、あれって、探索者の管理のためだったんだろうね。当時は、あんま考えたことなかったけど」
フィオナは、ここの迷宮に潜る前に少しだけ近くのダンジョンで探索者をやっていたことがあるのだそうだ。近くといっても領外だからまあまあな距離のような気もするが、なんでも戦闘の才能がある人間は稀で、その研修だったとか。
「じゃあ、もしここを管理官が見張るようになっちゃったら、面倒臭いねぇ。私なんて全階層コンプリートだもんな……」
「さすがに、そんな探索者ほとんどいないだろうし、管理局がどういう行動に出るのか私もちょっとわかんない」
「他のダンジョンも下手したら同じ現象起こるかもだしねぇ。こりゃ気を付けなきゃだね」
まあ、今のとこ他のダンジョンへ視察に行く予定はない。だが、気には留めておいたほうが良さそうだ。
◇◆◆◆◇
フィオナと地下95階まで転移。
そこからホームセンターのある階層である地下101階まで降りていくのだ。
「さ~て、ポチたちは元気にやってるかな?」
「うん……っていうか、なんか聞こえない?」
ここは95階。他の誰かなんているはずもない……が、確かに何かが聞こえる。
猛烈な速度で何者かが階段を駆け上がるような音が――
「やっと帰ってきた! ご主人~~~~!」
「わー、撫でて撫でて。ゴロニャ~ン」
「ガァ」
すごい勢いで階段を駆け上がってきたのは、3匹の……デカい……魔物?
あっけに取られる私たちにぶつかるようにしてまとわりついてくる。
っていうか、ご主人様って言った?
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょい待ち。君らは誰だ? ほら、フィオナなんて、驚きすぎて固まっちゃったじゃん」
「えー、ご主人、私たちのことがわからないんですか?」
「ニャ~ン?」
「ガァ」
いや、わかるよ。わかってしまうというか。気配というか感じでわかる。
こいつら、ポチ(秋田犬)とタマ(ベンガル猫)とカイザー(フトアゴヒゲトカゲ)だ。
「いやいやいや、君たちなんでそんな姿に? ファンタジー世界といったって、ファンタジーが過ぎるよ?」
なにせ、今の彼らの姿は人間なんか丸呑みにしてしまうような巨大さであり、言ってみれば巨大魔獣とか言われちゃうようなサイズなのである。
ポチもタマも、ライオンはおろか、ホッキョクグマより大きいし、カイザーもちょっとしたドラゴンだ。
少なくとも、私たちがダンジョンから出るまでは、可愛らしいワンちゃん、ネコちゃん、トカゲちゃんだったのに。
なぜだ! いや、今の姿が可愛くないわけじゃないけど! ビックリするでしょうが!
「ご主人の石を食べたの」
「え?」
「お布団のとこに置いてあったやつ」
「ま、魔石のこと……?」
ドラゴン、水竜、ドッペルゲンガーから出た魔石。私の取り分として、フィオナがくれたやつは、布団の近くで眺めたりしてそのまま置いてはあったが、まさか食べるなんて思いもしない。
「なんでそんなもの食べようって?」
「わかったから。それを食べればもっと強く賢く大きく丈夫になれるって」
「そ、そう……なんだ」
わかったなら仕方ない。
仕方ない……のか? いや、まあ、この子たち自身がそれを望んだ結果ならOKでしょ。
「フィオナ、知ってた? 魔石にそんな効果があるって」
「…………」
ベロベロとポチに頬を舐められて、完全に固まったままのフィオナ。
しばらくダメそうだ。
「まあでも、魔石でこんなことになるなら、外にも似たのがいても不思議じゃないしねぇ。地球の動物から異世界動物へのジョブチェンジってことなのかなぁ……」
てことは、私も魔石を食べると超人になれるのか? いや、この場合魔人か?
絶対やめとこ……。
「それにしても、すごいね。ていうか、カイザーはケージに入ってたはずだし、石なんて与えてないけど」
「はーいはいはい! 私があげました。あ、アロゥにも」
元気に右手を上げてそんなことを言うポチ。かわいい。
ちなみにポチはメスだ。テキトーに名前を付けすぎたな。
「アロゥはどうなったの?」
「おっきくなっちゃったから、そこのプールに移したの」
「そこのプール?」
ポチが指というか、手で指し示したのは階段。
階段の先にプールなんかあったっけ?
「おっきい湖みたいになってるとこ」
「あ、あ~、水竜がいたとこね。水質とか大丈夫だったの?」
「全然平気だって。むしろ、水槽の水よりずっと綺麗で元気が出てくるって言ってたワン」
地下水みたいなもんだからか? いや、魔石を食べて魔物的なものに進化(?)したから、水質なんかでへこたれたりしないのかも。
「それに、あの水は魔力を秘めてる特別製なんだワン」
魔力を秘めたダンジョン水か。
水質検査キットで調べてみてもいいかもな。まあ、ホームセンターに売るほど水はあるし、わざわざあの水を何かに使う必要はないかもだけど。
「とにかく、これでずっとご主人とずっといっしょにいられるね! ワォン!」
「私もお共するニャ~ン」
「ガァ」
3匹が私にまとわりついてくる。
ちなみに、3……匹っていうのが適切か不明だが、とにかく3匹ともデカい。
なんだろうな、これ。魔石を食べて魔獣になったってことなのか?
おっきい犬の魔物ってなにがいたっけ? オルトロスとか?
じゃあタマは……大きい猫の魔物なんていたっけ? 知らないな。
カイザーはドラゴンというか、単純にデカいトカゲというか。
ガァとしかしゃべれないのは、元の知能の差だろうか?
ちなみにフィオナはまだ固まってしまったままだ。
おーい。そろそろ起動したまえ。
「えいっ!」
私がチョップを繰り出すと、ようやくフィオナは再起動した。
「ま、まままま、魔物! 魔物がしゃべってる!!」
「魔物じゃないワン」「ニャン」「ガァ」
ふ~む? フィオナの反応からすると、この世界にはしゃべる動物というのはいないってことなのかな? 私は「まぁ、ファンタジー世界だからな」と受け入れちゃったが、意外とフィオナのほうが驚いてるまである。
「ドラゴンやらドッペルゲンガーまで出現する世界で、そんな驚くことある? ポチもタマもカイザーもちょっと姿は変わったけど、それだけのことよ」
「そ、それだけって……。マホの世界ではよくあることなの……?」
「いや、皆無だけど」
こんなデカいイヌネコトカゲがいてたまるか。
◇◆◆◆◇
「あ、ああー! ご主人様! 私です! 私です! アロゥです! ご主人様ァ!」
ザバァ! と水面から顔を出す黄金の魚。
アロワナのアロゥ(まもののすがた)だ。
しかし、デカい。例の水竜と同じくらいのサイズじゃない?
「アロゥもおっきくなったねぇ。君くらいのサイズのアロワナ、地球だったら末端価格10億は下るまいよ」
「まったんです?」
「いや、こっちの話。君は魚なのにしゃべれるんだね。カイザーはしゃべれないのに」
「しゃべれますガァ」
しゃべれるんかい! 寡黙なだけだったか。
「……っていうか、君たち食べ物大丈夫なの? ホームセンターに無限在庫があるからなんとかなるだろうけど」
フード……犬用とネコ用はまあまあ大きい袋で売ってるからいいけど、カイザーとアロゥはちょっと難しいかも。特にアロゥ。ブタ一頭を毎日食べるとか、そういうレベルじゃないのこれ。
「う~ん。そういえばお腹が減らないワン」
「みんなも?」
それぞれがコクコクと頷く。
どうやら食べなくてもいいらしい。食欲の権化と言ってもいい秋田犬のポチが空腹にならないというくらいだから、本当のことだろう。
なぜか。サイズも異常にでかいわけだし、魔物化したと考えるのが自然。そして、魔物たちは特になにかを食べているわけではない。
となると、「魔物は食事を必要としない」ということになる……のか? う~ん。
「フィオナ、どう思う? そのうちお腹が減ってくるのかな」
「わ、わかんない……。突然、心まで魔物になって食べられちゃったりしない……?」
「そうなったらホラーだねぇ」
どうにもフィオナはビビりだな。
ポチたちがちっさいサイズのころは、普通に接してたくせに。
日本だったらこんなデカい動物がいたら大人気で町おこしに使われるレベルだぞ。
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