第27話 安全第一でいこう! 

「では、お世話になりました! 私は一度ダンジョンに戻って、今後の作戦を立てるので」

「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「ん? フィオナも来るの?」

「え? そりゃそうでしょ?」


 そうかな? そうかも?

 いや、すっごい久しぶりに家に戻れたのだし、家でゆっくりしてくれてていいのよ?

 また、あの薄暗いとこに戻る必要なくない?


「マホ、ダンジョンの運営手伝ってくれるんでしょ? 私もいっしょにやるから。っていうか、本当は私たちがやらなきゃならないことだし」

「そう? まあ、いろいろ見てまわったりもしたいし、フィオナがいっしょなら心強いけどね」


 自分なりに勝算もあって、ああ言ったけども、いくつかの懸念はある。

 一番悪いのは無限在庫のホームセンターの存在を知られることだろう。今のところ地下101階に簡単に行けるのは私とフィオナだけだが、高レベルな冒険者パーティーなら到達できる可能性はある。いや、できると考えたほうがいいだろうか?

 私はこの世界の冒険者の強さをよく知らない。ただ、レベルが上がってもそこまで超人的になれるわけではなさそうだし(私もフィオナも、大人の男くらいの力はあるかなって程度)、レッドドラゴンをガチンコで殺せるほど強くなれるとも思えない。


(……でもなぁ。実質95階から下は無害だから素通りできちゃうんだよねぇ)


「ねえ、フィオナ。ダンジョンで儲かってる街ってけっこうある感じなの?」

「あるよ? このあたりで有名なのは、北にあるメイザーズ迷宮街とか、西のメリージェン大迷宮とか。どっちもダンジョンを中心に街が広がってて、冒険者たちと、冒険者を支える人たちで街がまわってるんだ」

「ダンジョンで得られる資源は? 魔石だけ?」

「魔石が一番だけど、死体を残す魔物から素材が取れたりとか。あとは、宝箱。メイザーズの魔物は素材が人気だし、メリージェンは宝箱が浅層でもよく見つかるって聞いたことあるわね」

「探索者はそういうのを換金して生活してるって認識でいいんだよね?」

「うん。素材とか宝箱の中身なんかは売らずに自分で使ったりすることもあるけどね。あ、魔石だけは絶対に売らなきゃならない決まりなんだ」


 魔石の買取価格は重さあたりいくらという風にダンジョンごとに決まっていて、我らがメルクォディア大迷宮は、どこよりも高く買い取る設定。それでも、探索者がいないのだから、やはりそれ以外の要素が必要なのだろう。


「魔石は買い取ってどうするの?」

「国王様が全部買い上げてくださるの。だから、差額がこっちの儲けになる感じかな」

「王様が?」

「うん。外国に流れないようにってことらしいけど」

「なるほど、戦略物資ってやつか」


 一口で言えば、魔石はエネルギーそのもの。ダンジョンは危険で稼げる炭鉱みたいなものなのだろう。例えば、火を起こすのに使えるというだけでも、まさしく石炭だし、なんならエネルギー比で言ったら灯油みたいな使い方もできる……のかもしれない。

 水を発生させたりもできるらしいし、魔石は万能のエネルギー源というわけだ。


「軍事的にも重要なんだろうねぇ。ビーム兵器とか」

「びーむってのが何かはわからないけど、大魔法に使ったりはするみたいね。私は詳しく知らないけど」

「ふむふむ……」


 じゃあ、ダンジョンに人を集めるってのは、総合的には国も富むというわけだな。

 厳密には国はどうでもよくて、フィオナの領地が良くなってくれればそれでいいんだが、ここが富めば、周囲も必然的に富を甘受することになる。

 ……まあ、その前に借金返済なわけだけれども。


 フィオナと2人でダンジョンまでの道を歩く。

 街を抜けて、点在する村を抜けて。まあまあ距離はあるが、馬車なんかを整備したら良い感じかもしれない。

 それにしても、運営……運営か……。


「なんで国は自前か委託か選ばせるんだろうね? 別に、国の決まりってことにして、強引に管理局を入れるようにしても良さそうなのに。フィオナは理由、知ってる?」

「う~ん? 考えたことなかったけど……封土のことには王様でも簡単には口出しできない決まりだからじゃないかな」

「口出しできないの? 王様の権力って、そんなにない感じ?」

「権力というより、わざわざ配下の封土にまで手間を掛けられないんだと思う。国王様は1人しかいなくてお忙しいわけだし。いよいよ管理能力が欠如してるとなれば、口出ししてくるはずだけど、今のところダンジョン以外は普通に運営できてるから、その心配はないし」


 なるほど。ダンジョンでは魔石なんかが採れるわけで、つまり鉱山みたいなもの。

 重要な財産ではあるだろうが、だからって「いいもん出たじゃんか。じゃあそれは国が貰うね」なんてのは通るわけがないというわけだ。

 それだったら最初から自前で管理しとけという話になるのだし。

 別に鉱山やらダンジョンやらでなくても、畑でも漁場でも同じだ。

 どれも資源でしかないのだから。

 ダンジョンと聞くと、それ以上の何かだと思ってしまうのは、地球から来た非ファンタジー人間のバイアスなのかも。


「ただ、どっちか選ばせるけど生まれたダンジョンを『放置する』という選択肢はないの。それをするなら運営委託に出すのが決まり。ダンジョンはちゃんと管理しなきゃダメだから」

「放置だとまずいってこと? 山賊がアジトとして使ったりとか?」

「違う違う。魔禍濃度が高まりすぎて過負荷オーバーロード状態になると、魔物が外に溢れ出てくるんだ。もしそうなったら大災害だからね。まあ、うちのダンジョンは最下層の魔物もマホが倒しちゃったし、その心配はもうほとんどないと思うけど」

「魔物が外に? そういえば、外には魔物っていないの?」

「いるけど、ダンジョンみたいにたくさんはいないよ」


 通常のモンスターは、地元民に狩られたり、職業戦士に狩られたりと、一応は共存している関係らしい。ダンジョンから溢れ出てくる魔物は数が一度にドバッと出てくるとかで、対策していてもまあまあ被害が出るのだとか。


「……なんか思ったより面倒臭い性質なんだねぇ。ダンジョンって」

「上手く運営できれば、利益も大きいんだけどね。うちのは規模もかなり大きいし」

「ほんとに鉱山みたいなもんなんだな」


 日本も昔は炭鉱やら銀山やら金山やらで潜りまくっていたというし、その類だな。

 とすると、それを運営するってことは――


「フィオナ。ダンジョンの運営方針が決まったよ」

「え? 今の話で!?」


 国が運営している迷宮管理局がどういうダンジョン運営をしてるのかは知らないが、私には私のやり方があるはず。そして、現代日本から来た私がやるなら方針は一つだ。


「安全第一! これを徹底して魔石を掘ります!」

「あ……あんぜん……? ダンジョンに潜るのに……?」

「いや、そりゃ100%安全ってことはないだろうけど、やれることは多いと思うんだよ。というか、人が死にまくったり、難しくて割に合わないダンジョンなんて今みたいに寂れるだけじゃん? それより、楽勝で稼げるほうがいいんだよ。それを実現できれば、人だって確実に集まるだろうし」

「そ、そりゃそうできるに越したことないけど……。どうやって?」

「まー、やりかたはこれからまとめるけど、どうにでもなるでしょ。なんたって、うちにはホームセンター様があるんだから」


 ただ人を集めるだけなら物量作戦でどうにでもなる。なってしまう。

 なにせほとんど無限に炊き出しが出来て、ほぼ無限に酒を提供できてしまうわけで。

 だが、そんなことをしても誰も幸せにはならない。あくまで探索者を集めることが主目的でなきゃダメなのだ。人をダメにするホームセンターになったら意味がない。


 やり過ぎない程度に、自然に、当たり前の手段で。

 地味で、確実で、安定していて、怪しくないラインを見極める必要があるのだ。


「あ、フィオナ。ホームセンターの存在は当然として、私たちが最下層をクリアしちゃったこととか、その周辺のことは全部秘密だからね。クリア済のダンジョンなんて魅力ガタ落ちだから」

「それはわかってるけど、マホのことはどうしよう?」

「遠い親戚ってことにでもしといて。それか、公に出来ない子どもって設定にするとか?」

「私の姉妹ってことにする……ってこと?」


 貴族の家だし、非嫡出子の1人や2人……ってさすがにそれは問題あるか?

 でも、私が「誰」か。というのはある程度は設定を詰めておいたほうがいいと思う。ホームセンターの中のものを把握してるのは私だけだし、フィオナは助手的な立ち位置にならざるを得ないだろうから、嫌でも目立つような気がするし。

 

「う~ん、さすがにそれはお父様とお母様に聞いてみないと……かな? あ、でも、そうするとマホが私の妹になるんだよね。妹かぁ」

「え? 私のほうがお姉さんじゃない?」

「まさかぁ。マホのほうが全然ちっさいし」

「サイズ関係ある? この場合」


 つーか、今、どこ見て言った?

 日本人は平均が小さめなんだよ! 私は平均! 平均です!

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