第24話 外だ! 異世界だ!
「う、うおおおおおおおおおおおおおおお! 外だ! すごい! 臭いがある! 風を感じる! 世界が生きてる!」
私は叫んで走り回って、地面を転がり、太陽の光を身体いっぱいに浴びた。
異世界でも、外は同じだった。太陽の光も、空の青も、木々の緑も、雲の白さも。
気温もちょうど良い。ダンジョンから出てきた時間も、お昼すぎぐらいだったようだ。太陽はほぼ真上にある。
「フィオナ~~~~~~! 出れたね~! 街どこ? 近い? はやく、お肉食べいこ! 魚でもいいぞ! 新鮮な野菜も食べたいね~? わは、わははははは!」
「ちょちょちょちょ、そんな一気に言われても困るよ! でも、確かにお肉は食べたいかも。おにぎりも美味しかったけどね」
「お米は持って来てあるから、いつでも炊けるよ~~~~。あははははは! 新鮮なオカズでメシが食いたい!」
私は完全にテンションが振り切っていた。
だって、「転送碑使えない、ゴメン」からの、「やっぱり使えたッス」だからねぇ~。
一度落とされてからの、文字通りの急上昇だよ! 95階分の!
だから、こんなにうれしいことはないんだ。
なにより、なんたって、2人で揃って出れたんだから!
「あ~、でもよく考えたら私、市民権みたいなのがないんだよねぇ。街に行くのはさすがにまずい感じ?」
「え? なんで?」
「なんでって、
「あ、あ~。すっごい大きい街ならあるかもだけど、私のとこは大丈夫だよ」
「そうなの?」
ふーむ? こんなでっかいダンジョンがあるんだし、もうちょい発展してる感じを勝手に想像してたけど、違ったな。
まあ、フィオナも人気がないダンジョンって言ってたけど、「少なめ」とかそういうレベルじゃなくて、そもそも誰もいないし、ガチ不人気ってやつなのか。
「それにしても、誰1人いないとはねぇ」
周囲にはいくらかの建物があるが、わりと殺風景だ。周囲も静かで、人もいない。
迷宮は地面が盛り上がったところに、石積みで入り口ができていて、フィオナによると、これがいきなり何もないところに出現するものらしい。
「メルクォディア大迷宮は最近……といっても、もう5年も経つけどさ、急にできた迷宮なんだ。それで、久々の新規の迷宮だって最初はワーッと人が来てね。いろいろうちでも頑張ったんだけど……魔物も強いし難しいのがわかってからあんまり人気がないので……」
「ふぅん。ようするに旨みが少ないってわけか」
他にもっといいところがあるってことなんだろうな。
命を賭けるなら、わざわざ難しいとこ選ぶ必要ないもんな……。命かかってるんだし。
周辺になんもないなら尚更。
周囲を見渡すと、もう誰も使って居なそうな建物がそれなりの数あり、かつて屋台みたいなものがあったと思しき廃屋というか小屋があったりして、なんというか廃れた観光地っぽい。
メインの通りには石畳まで完備していて、頑張った感が逆にもの悲しい。
う~む。なんとも言えない侘しさだ。異世界もなかなか世知辛い。
「そもそも、フィオナはなんでこんな人気のないダンジョンに潜ってたの?」
「言ってなかったっけ? うちの領地にあるのはここだけだし、私、三女でやることもなかったし、お金……稼がなきゃだったから」
「ん? なんか情報量多い感じの単語がいろいろ出たんだけど? 領地?」
「あ~、そっか。ごめん。助かるかどうかわかんなかったし、言いそびれてた。うち、いちおう貴族っていうか……このへんの領主の家で」
「どええええええ!? そうだったの!? バッカ、フィオナ、どうしてそういう大事なことを言わないのよ!」
「だって、言っても仕方なくない? あの状況じゃ……。それに、探索者としての私はただのフィオナだし」
「んまぁ、言いたいことはわかるけどもね……」
私だって身の上話とか、フィオナにほとんどしてないもんな……。
まあ、生きるか死ぬかの状況で、家がどうのってこともないか。
「まあ、それじゃあお家に戻って生存報告しなきゃだね。私はどっかそのへんで待ってるよ」
「え? なんで? いっしょに来てよ! マホに助けてもらったんだし、お礼だってしたいんだから!」
「お礼なんていらないよ。2人で協力し合った結果、助かったんだから」
「2人じゃない! 私が助けてもらったの! 私……私がマホを喚んじゃったんだから」
まあ、それを言われたら確かにその通りなんだが、フィオナも別に私を名指しで喚んだわけでもなく、どちらかというと事故みたいなものだ。
でも、2人で助かったからお礼はなしと言えるほど割り切った考えもできないのだろう。
「じゃあ、お呼ばれしちゃおうかな。貴族ってお城かなんかに住んでるの?」
「あははは、お城になんか住まないよ。王様じゃないんだから」
「そういうもんか」
中世ファンタジー観が問われるなこれ。
「そいじゃ、フィオナは名字もあるってことじゃん。貴族は名字があるとか最初のころ言ってたよね?」
「あ、それも言ってなかったっけ。まあ名字というか、代々治めてる土地の名前なんだけどさ」
「へぇ、なんていうの?」
「ダーマ」
「ん? なんて?」
「私の名字でしょ? フルネームで『フィオナ・ルクス・ダーマ』っていうの」
フィオナの名字は、なんとあのホームセンターの名前と同じだった。
◇◆◆◆◇
「ふぉおおおお! 街だ! 人だ! 異世界だ!」
「ちょちょちょちょ、マホ、恥ずかしいから!」
「いや、あんた。これが興奮せずにいられますかって!」
これが異世界じゃなくて、地球だったとしても興奮してたと思う。
人の営みがある。それがこんなにも嬉しいなんてね!
私はホームセンターが好きだし、あのダンジョンの最下層で、そこまで絶望していたわけじゃないが、それでも、人間はこうして太陽の下で、土の上で生きるのが当たり前なのだ。
その当たり前を目の当たりにして、私の脳が! 細胞が喜んでいる!
「で、どーする? フィオナん家、こっから近いの?」
「うん。すぐそこ」
「ってことは、ここが領地の中で一番栄えた街ってことか」
「そ。田舎でしょ?」
「ん、まあ……否定はしない」
つっても、他の異世界の街を見たわけじゃないから、どうしても地球ベースの話になるのだけどもね。でも店らしきものはそれほどないし、民家が多く、街と農地の境界線も曖昧な感じ。
川の周りにできた集落が、そのまま街になったといった風情。
ただ、ゴミゴミしてなくて綺麗な街ではある。私は好きだな。
「先に冒険者ギルドみたいなとこで、生存報告しなくていいの?」
「え? ギルドのことなんか話したっけ?」
あ、やっぱあるんだ。
「聞いてはないけど、そういうものかな~って」
「うちで運営してる買取所だけね。ギルドって普通は国営の管理局のことを言うけど、うちはまだ入れてないの。まあ、そのあたりは話すと長くなるんだけど」
「へぇ、聞きたい聞きたい」
ギルド周辺の話とか、ちょっと興味ある。
やっぱりギルドが仕事を斡旋したりするのかな?
「迷宮が生まれたら、国王様に報告しなきゃならない決まりなんだけど、その時に『運営方法』を選ばされるんだ。自分たちで運営して国に規定量の魔石を収めるか、国に運営を委託するか」
「へぇ、そんなシステムになってたのか。それで、フィオナのとこは、自分たちで運営してみようってことになったってことか」
「そう……なんだけどね、これが思ってたよりずっと難しくて。探索者も集まらないし、探索者が集まらなければ国に収めなきゃならない魔石だって手に入らないし」
「な~るほど、なんだか話が見えてきたわね。それで、フィオナが探索者やって少しでも足しにしようとしていたってわけか」
「平たく言えばそうなるかな」
フィオナのとこの国がどれくらい迷宮に関してのノウハウを持っているのかは不明だけど、自領だけでなんとかしようとするのは、存外難しいということなのだろう。
実際、閑古鳥鳴いてるわけだしね。
「国に運営を委託するんじゃだめなの?」
「だめ……ではないけど、こっちにはほとんどうまみがないから。運営委託料と、ダンジョン使用料でトントンってとこ。あがりはほとんど国が持ってっちゃう」
「そっかぁ。なら、とりあえず自分たちで頑張ってみようってことになるよねぇ」
フィオナによると、国に委託すると『迷宮管理局』と『ルクヌヴィス寺院』がやってきて、管理局が自前の超強力な探索者パーティーを使っていけるところまで探索して、どういう迷宮なのかをある程度解明し、運営を始めるらしい。
さらに、魔石の買い取りやら冒険者の管理育成なんかもやり、外から探索者を呼び込むことなんかもしてくれたりして、領地の発展という意味では、まったく旨味がないというわけでもないようだ。
ただ、自分たちでやればそれが丸儲けになるというだけで。
「ルクヌヴィス寺院ってのはなんなの? 神様にお祈りでもするわけ?」
「高位の司祭様がいらっしゃって、呪いの解呪とか、毒や麻痺の回復、あともの凄く高いけど、蘇生なんかもしてもらえるのよ」
「蘇生。……蘇生? は? 死んだ人が蘇ったりする、あの蘇生?」
「そうだよ?」
「OH……異世界……」
いやぁ、外に出て「ほとんど地球と同じじゃん!」なんて浮かれてのがバカみたいだ。
死んだ人が生き還っちゃうとかね……。いや、いいよ? これで私とかフィオナがうっかり死んだとしても、生き返り放題じゃん? 最高! ほんとか?
「……なんかデメリットがあるんじゃないの? 大丈夫? 蘇生なんて……」
「失敗したら灰になるだけだから。灰からの蘇生にも失敗すると、魂ごと消滅しちゃうけど」
「灰って……」
なんだそりゃ。やっぱり上手い話はなかったか。
やっぱり死なないように気を付けて生きましょう。当たり前だわな。
「あ、寺院はこの街にもあるんだよ? 前に言ったと思うけど、迷宮順化がどれくらい進んでるか調べてくれたりするんだ。でも蘇生術まで扱えるような高位の司祭様はいらっしゃらないから……国を介さずダンジョン運営をやる時に、実はここが一番問題になるの。魔物にやられて死んだらそれっきりで蘇生できないってことだから」
ダンジョン探索と死はセットみたいなもの。
その保険があるかないかは、確かに大きいだろう。
フィオナによると、多額の寄付金を収めて、さらに立派な寺院の建立までやれば、高位の司祭が来てくれるらしい。これは、国に運営委託をした場合もそのお金を国が支払っているだけらしいので、いずれにせよ必要な出費ということになるらしい。
どこの世界も世知辛いね。
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