第20話 お宝発見!
結局、水抜きにやたら時間がかかるので、私たちはホームセンターに戻ってダラダラと時間を過ごした。
我ながら緊張感がないが、さすがにもうこの状況にも慣れてしまった。
少なくとも転送碑とかいうのにまで辿り着けばいいわけだし、厄介な階層が続いているわけし、たぶんそろそろだろう。
……というか、私たちはホームセンターがあるからクリアできてるけど、これ普通の冒険者パーティーがクリアできるとは到底思えないんだけど、どういう設計なんだか。
それとも、強くなった冒険者って、水や闇や毒や竜をパワーで粉砕できるくらい強いのかな。人間やめてるだろ。
半日ごとに確認に行ったが、ホースからはバシャバシャと水が出続けていた。
24時間ポンプは稼働しっぱなし。
かなりの水量だが、無限ピットはまったく問題なく水を飲み込んでいった。
これ、本当に無限に繋がってるとしたら、最強のゴミ処理場になりそうだ。現代日本だったら、すごいお金を稼げるだろうな。ホームセンターなんかより、よっぽどチートだよ。
まあ、これの価値を異世界人がわかるようになるのは、あと何百年も先なんだろうけど。
結局、ホースから水が出なくなった……つまり、排水が終わったのは、作戦開始から5日後の午後だった。
すごい量の水を捨ててしまったな……。
「うわぁ。すごい! めっちゃ深いね、フィオナ! やっぱりドン深だったか!」
「ふわぁああああ。あれだけあった水、全部抜けちゃったってこと?」
「そうだよ。5日間もかかったけどね」
水がすっかり抜けた水溜まり階層は、風景が一変していた。
他の部屋と同じように石造りの階層であり、水があった場所はようするに深い穴になっている。深さは20メートルほど。
ところどころに横穴が開いていて、ちょろちょろと水が出ている。どうやら、水が補給されてくる仕様らしい。あの水がどこから来ているかは不明だが、地下水とかなんだろうか。ホームセンターって水質検査キットみたいの売ってたっけ?
「あ! あそこ、なんかいる! わ、でっか」
「でっか! なんだあいつ。魚?」
水がなくなった底に、ドデカい魚みたいな蛇みたいなやつがビッタンビッタンと跳ねていた。
他に魔物らしき姿はない。
どうやら、この階層も魔物が一匹だけいるパターンだったようだ。
「マホ……あれ、たぶん、水竜だよ。角あるし」
「竜? ドラゴンなの? あいつ」
「たぶん」
双眼鏡を持って来て確認してみると、たしかに魚というよりは蛇っぽくある。
なるほど、ドラゴンか。
底のほうでビッタンビッタン跳ねているところを見るに、どうやら水がなければほとんど無力な存在らしい。
少なくとも蛇みたいに壁を上ってくることはなさそうだ。
「あのまま放っておけば死ぬかなぁ。一応攻撃してみる?」
「どうするの?」
「そりゃ、この状況なら位置エネルギー攻撃しかないっしょ」
なにせ、何メートルも下にいるのだ。こっちの攻撃だけが一方的に届くというのは大きい。
火も付けて焼き魚にして、ついでに酸欠も食らわしてやろう。
ドラゴンだっていうんなら耐久性高いだろうし、やりすぎるくらいでちょうど良い。
私はフィオナと協力して、ホームセンターから鉄筋やら鉄アレイやら斧やらを持ってきた。
さらに灯油をぶっ掛けて火をつける。
我ながらやりたい放題だが、時間もあまり余裕がないのだ。なにせ、ちょろちょろとだけど地下水が入り続けているわけだし。
また、何日も掛けて水を抜くのはしんどい。
「フィオナ選手、思いっきりいっちゃって!」
「はい! それぇええええ!」
フィオナが槍投げよろしく投げた鉄筋が、水竜の身体に突き刺さる。
意外と防御力は高くないらしい。たぶん、環境特化型だから、素の能力はそこまで高くないのだろう。
水の中からすさまじい速度で襲いかかる系の魔物なんだろうし。
私も鉄アレイとか、斧とかを投げる。
あんまり上手く刺さらないが、質より量でいくしかない。
火炎攻撃もまあまあ効いてるぽい。やはり水属性には火なんだろうか。ゲームだと雷属性がよく効くけど、魚は人間が触るとその皮膚の温度だけでヤケドするという話も聞いたことあるし、実際には温度変化に弱いんだろう。エラとか弱点丸出しみたいなもんだし。
そうやって攻撃を続けていると、だんだん水竜の動きが鈍っていき、パァンと弾けた。
レッドドラゴンほどではないが、それなりの量の魔石がバラまかれる。
「よっしゃぁ! やったね、フィオナ!」
「ああ~~~~! 魔石! 拾わないと!」
「フィオナって、意外とセコイとこあるよね……」
いやまあ、お金は大事なのはわかるけどね。
今、私たちって生きるか死ぬかのサバイバルの最中なのだよ?
まあ、いいんだけど。私もお金は好きです!
「ふぉおおおお! キタキタ! レベルアップ!」
「私も!」
あのトカゲと同じくらいの経験値が貰えたに違いない。
感覚的なものだからわからないけど。数字で出ろ。
ホームセンターから縄梯子を持って来て、下へ降りる。
はやく拾わないと、確かにすぐ水で埋まってしまいそうだ。
「ん? あそこになんかない?」
「え?」
「ほらほら、あれだよ。箱みたいな」
「あ、わわわわ! マホ、あれ宝箱だよっ!」
「宝箱?」
そんなもん実在するんかい。
いつ、だれが、どんな目的で置くんだ? ダンジョンは謎がいっぱいだな。
「じゃあ、さっそく開くかぁ」
「ダメダメダメダメダメ! マホ、私がなんで最下層に1人でいたのか忘れたの?」
「ン? なんだっけ?」
「罠だよ! 転移の罠にひっかかったんだって言ったじゃん!」
「お、おー! じゃあ、あれも?」
「たぶん……。罠が掛かってないこともあるけど、こんなとこにあるやつだし」
困ったね。罠を解除する技術なんてないよ。
フィオナのほうを見ても、首を振るばかり。
どうも、罠の解除は専門のスキルを持つ者の仕事らしい。
「じゃあ、諦めますか!」
「え!? ヤダヤダ! こんな最下層にある宝箱だよ⁉ 魔導具が入ってるかもしれないじゃん! あとは魔法の武器とか」
「そんなのあるんだ。う~ん。罠ってどういうのがあるの? 作動する条件は?」
「普通は開けた時に作動するけど……」
なんでも、爆発とか毒針とか転移とか麻痺毒とかいろいろあるらしい。
なかなかイヤらしいが、とりあえず箱そのものを移動させられればなんとかなるんじゃないだろうか。
下から、玉掛け用のベルトスリングと、ロープホイストを持って来た。
3脚をセットして、上から引っ張り上げる。
ぶっちゃけた話、迷宮順化が進んだ私たちにとって、宝箱の一つや二つ、引っ張り上げるのなんて軽い物だ。
ただ、衝撃で罠が作動して爆発とかされても困るんで、作業は慎重を期した。
衝撃を与えないように毛布やらマットやらも用意して、ゆっくりと、音が立たないくらい静かに降ろす。
「よしよし。あとは開くだけだね。とはいえ、この階層はよくないな……」
爆発して中身がぶっ飛び、水の中にポチャンと落ちたら笑えない。
ヤモリ階はもっとダメ。畑階も避けたいし、やはりドラゴン階か。
あそこは完全に遊んでるだけの部屋だし。
「どっか運ぶの?」
「う~ん。運ぶならドラゴンがいた階なんだけど、2人で落っことさずに階段降りてくことできそう?」
「わかんないけど、できるんじゃない?」
「どうかな……。階段……階段か……あ」
せや! いいこと思いついた!
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