エメラルド・ヒーリング
蒼(あおい)
エメラルド・ヒーリング
あれは、いつの事だっただろうか。もう、だいぶ昔の事のように感じる。
今となっては、もしかしたら、あれは必然だったのではとも思ってしまう。
薄紅色の花が散りゆく頃、街灯のしたで必死に訴える、二つの命に出会った。
絵に描いたように綺麗なその瞳は、純粋な緑色をしていた。
俺は、その二つの命に「ジェダイト」と「ネフライト」という名を付けた。
顔を摺り寄せ、甘える姿は、なんとも愛おしく、
緊張していた俺の心を癒してくれた。
クスッと思わず漏れた声に、俺自身が驚いてしまう。
結局、どんなに憤り(いきどおり)を覚えても、赦せない出来事があっても、
この子達はそれを知らない。知らない方がいい。俺はこの子達の幸せを今は願っている…。
最近は、俺の周りを元気に駆け回るようになった。
尻尾を絡ませながら、じゃれ合ったり、俺にすり寄ってきたり。
好きという感情をぶつけてくれている。
背中にジェダイトとネフライトを乗せ、
空の色が変わるまで、新緑の中を走り続けた。
太陽が沈み、一層静けさが感じられる頃。
力尽きたのか、気持ちよさそうに眠る二つの寝顔。
疲れているはずなのに、その寝顔を見ているだけで、自然と笑みがこぼれる。
…天はあまりにも残酷だ。こんなにも可愛い命を、あんな形で捨ててしまうだなんて…。
とても、尊い命なんだ。…俺が、護ってやらねば…。
鳴く声がしなければ、俺は気がつかなかったかもしれない。
人間に拾われていたら、それはそれで良かったのかもしれない。
布をそっと掛けながら、俺自身の行動に自問自答を繰り返す…。
…猫又だって知ったら、この子達は、どんな反応をしてしまうんだろう。
濃霧とともに、俺の心も霞んでいってしまうようだった…。
早いもので、この生活も、一年が過ぎようとしていた。
一回りまた大きく成長した、ジェダイトとネフライト。
ふと、何かに気づいたのか、俺の尻尾と自分の尻尾を見比べている。
変だと感じたのだろうか。不気味だと感じたのだろうか。そう思うと、急に恐怖が襲ってくる。
本当の俺は、臆病者だ。強そうに見えても、中身は弱く、傷つきやすい…。
また、稀有な眼で見られてしまうのか。そう思っていた。
見つめるその瞳は…初めて出会った時と変わらぬ、純粋な瞳だった。
無邪気に、凄いと言わんばかりの眼で俺の尻尾にじゃれてきた。
眼を丸くした俺は、しばらく状況が呑み込めないでいた。どうやら、この子達には、どうでもいい事のようらしい。
もう、怯えなくてもいいんだろうか。この子達に出会えて、本当に良かった。…そう思う。
優しさに包まれて、温かさを知った。
ゆっくりと、これからも、俺達の時間は流れてゆく。
弱い部分は、まだあるけれど、
来年も、再来年も、いつまでも…
理由なき旅を、この子達と一緒に歩んでゆこう。
類似する種族とも、垣根を越えて、
歴代へと、この癒しを伝えていこう…。
論争など、この世界には不要だ。
笑っていられるこの瞬間を、この幸せ
を、大切にしていきたい。
…俺は、猫又の「ラルド」。
…さぁ、今日も素敵なじかんを過ごしてゆこうか…。
エメラルド・ヒーリング 蒼(あおい) @aoi_voice
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