アメジストは夢の中で

蒼(あおい)

アメジストは夢の中で

『あなたに、幸多からんことを…。』







いつも貴女は、ここで皆の幸せを祈っている。


美しく、優しい心に惹かれるように、私は彼女を見守るようになっていた。


笑顔を常に絶やさず、決して他人には弱さを見せない。


穏やかな時間が、流れていく…。





だけど、彼女もまた、一人の人間なのだ。


一人になると、涙を流す事もあった。


きっと、その涙にも色んな理由があるのだろう…。


苦痛に耐えきれず、溢れてしまったのかもしれない。


皆の幸せを想うばかりに、彼女自身の心の中までは傾聴する事が出来なかったのかもしれない。


こうなってしまった時に、私はいつも、彼女の元へ訪れる。





サピルスの心の苦痛を取り除く為、


心配事を取り去る為、彼女が寝静まった夜に、私は彼女の中の悪夢を食べる。


崇高な思いに、歪みが生まれないように、


聖職者として、彼女がこれからも歩んでいけるように…。


そっと見守り、支えている。





本当は、姿を現して彼女を助けてあげたいけれど、きっと彼女は驚くでしょう。


宙に浮いた存在を、受け入れるのには、時間がかかってしまうもの。


強い存在という訳ではないけれど、


私自身、彼女に姿を見せる事に抵抗感を抱いてしまっているの。


とても臆病なのよね。私って…。





何度か、彼女の悪夢を食べていたある時、彼女が目を覚ましてしまった。


逃げる事も、姿を隠す事も出来ないでいる私は、


視界が真っ白になるような、まるで抜け殻になったかのような感覚に陥ってしまった。


眠りから覚めた、彼女の手が、私の方へと


伸びてきた…。







『早くあなたに逢いたいと思っていたの。』







陽だまりのような温かい言葉に、私は驚きを隠せないでいた。







『不安な事があった日の夜に、何故かいつも、幸せな夢を見ていたの。』







返答が返せないままの私に、彼女は続けて話していく…。







『本当に感謝しているわ。ありがとう。…あなたが良ければ、これから、私と一緒に過ごしませんか…?』







まっすぐな瞳に見つめられて、私の中の何かが、ストン…と、落ちたような気がした。


難しく考えてしまっていたのは、私の方なのかもしれない。





「…メシィ。私は、バクのメシィ…。よろしくね、サピルス。」





これからは、二人で助けを求めている人達へ、救いの手を差し伸べてゆきましょう。





闇を追い払い、悪い夢にうなされた時は、


素敵な夢を見られる様に、悪夢を食べ、幸せの種を蒔く。


弱くても、護ってくれる誰かが必ずいますから。


安心して下さい。むらさき色の輝きが、あなたの心の平和を護ってくれます。





理性を失ってしまわない様に、


瑠璃色の輝きが、あなたを支えてくれます。


冷静な判断が出来る様に、


ロザリオに祈りましょう…。





私は、バクのメシィ。


サピルスと共に、私達は、みんなの幸せを…。


みんなの心の平和を…今日も祈り続けるわ。



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アメジストは夢の中で 蒼(あおい) @aoi_voice

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