ヒビモノガタル
外清内ダク
醜男世界一
昔々あるところに、世界一の
彼の顔ときたら全く酷いありさまで、眼は泥のよう、鼻は茄子の実のよう、口はおぞましい毛虫のようで、顔立ちはイボだらけのヒキガエルに似ており、頭が砂漠のように禿げてさえいた。世に比類なき
彼は、独りぼっちだった。
あるとき
少女は
「お困りですか。何かお手伝いして進ぜようか」
その声を聞くや、少女は不安に満ちていた顔をぱっとほころばせて、
「まあ! 親切なおかた、ありがとう。教会に行きたかったのですが、野良犬に追われ、がむしゃらに逃げるうちに、自分がどこにいるのかも分からなくなってしまいました」
「教会かね。それはまた、ずいぶん見当違いの方へ来たものだ」
「ああ、困りましたわ。お願いです、私の手を引いて、案内してくださいませんか……」
手を!
誰よりも愛に飢えていた彼である。教会についたときにはもう手遅れだった。つまり……恋に落ちたのだ。
それからというもの、
「君はどうして毎日教会に通うの?」
あるとき男が訊くと、少女は屈託ない微笑みを返した。
「きっと神様が願いを叶えてくれるから」
「ほう。どんな願いだい?」
「私の目が治りますようにって……
そうしたら素敵よ。だって、あなたの顔を見ることができるもの」
ああ、なんたる残酷。無邪気がゆえの。
いや、たとえ嫌われてもいい。彼女の目を治してやりたい。
そう考えた
「お邪魔します……」
と
「言うに事欠いて『お邪魔します』だと!?
バカめ! わざわざ邪魔をすると宣言するなど無礼千万! ひとの家に上がり込むときは『お邪魔しません』と言うべきなのだ。『お邪魔しません、決してお邪魔になどなりませんから、ちょびっとばかし入れてください』とな。そんなことも知らんのか! これだから教養のない奴は」
「じゃあ、お邪魔しません」
「なに!? 邪魔しないだと!?」
魔女が近づいてきて、
「ふーむ……確かに邪魔しそうにない顔だ。ハッハァ! こりゃとんでもない。グペペビルゴルにそっくりだよ!」
『グペペビルゴルとは何だ?』と尋ねたいところだったが、どうせろくでもない物に決まっているから、訊くのはやめた。
「あなたが魔女様で?」
「ふざけるな! あたしゃ親切な魔女だよ!」
「ある人の目を治したいのです。方法を教えてくれませんか」
「教えろだと! 教えるなどというのは、この世でもっともくだらない仕事だ。教えてることが本当かどうか分からんし、教わったことを分かったのかどうかも分からんし、分かっとらんことが分かってるかどうかも分からんからだ。くだらない! 目を治す薬草は東の山頂にあるが、それを教えてやる気はさらさらないね!」
それはそれは険しい旅路だった。東にはまず深い森があり、次に砂漠があり、最後に切り立った岩山があった。森には人食いの獣が何匹もいて、
彼は何度も自問した。どうしてわざわざ、こんな苦労をしてるのだろう。何度も何度もやめたくなった。それでも彼は止まらなかった。なぜなら彼は愛していたのだ、
執念が彼の身体を突き動かした。幾多の苦難を乗り越えた末、彼は山頂にたどり着き、青い薬草が岩の隙間から葉を伸ばしているのを発見したのだった。
街に戻った
するとどうだろう! 薬草を塗られたところが淡く光を放ち、その光が収まると、今度は少女のまぶたがゆっくりと開き始めたではないか!
「ああ……ああ! 目を突き刺すような熱い刺激! これが光なのね。これが見えるということなのね!」
少女は感動にむせび泣き、
その手を、そっと少女が掴む。
「行かないで。私をおいて、どこへ行こうというの?」
「だって……僕の顔を見ただろう? 僕はこんなにも醜く、気色の悪い存在だったんだ。僕は君の目が見えないのをいいことに、君を騙して今まで付き合っていた……でもそれももう終わりだ」
「ばかなひと。生まれてはじめてこの目で見た愛しい人の顔を、醜いだなんて思うはずがあって?」
「えっ……」
「私にとっては見るもの全てが感動よ。とりわけ、私のためにこんなにも傷ついてくれた、あなたの姿は」
「じゃあ……じゃあ、これからもそばにいていいのかい?」
「ハッ! くだらない! くだらない!」
その時突然、魔女がふたりの間に乱入してきた。面食らうふたりの前で、魔女は踊り狂ってわめき散らした。
「美醜はひとの心が見せるもの! 愛していれば路傍の石ころも
「グペペビルゴルって何だね?」
「古代帝国の英雄の名だ! 恋人のために命を賭け、最高の伴侶を得て幸せに暮らした、世界一の果報者だよ。その人相を持つ者は同じ運命を歩むと昔から決まってるんだ。そんなことも知らんのか! まったく、これだから教養のないやつは!!」
THE END.
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