第28話

 案を練るために物を出し入れし、ガサツになった部屋でうなだれる、西井と一本杉以外の刑事。

「うーん。何も浮かばないよー。心の捜査って言っても、心の捜査、って何ー?」 

「今さら?ホシの裏まで尽くしてどんでん返しっちゅうことや!」 

「それ、合ってる?」 

「この時間が、健君にとって、何の助けにもならないものなのよね。でも、早く考えようとすれば余計に焦りが出てしまうわね。」 

薬丸が!

「アマノダ!」

天野、

「なんぞや?良い案か?」

薬丸が、

「ああ!ワガママボディの二人が挑む難事件、だ!」 

天野も

「わしゃと警部か!いいぞ。何をするのだ?」 

薬丸はテヘヘッ!

「ネーミング!だけ!」 

全員が口を揃えた。

「……真剣に、考えろーっ!」 


 遅くなった昼飯を手軽に食べ終えた西井と一本杉は颯爽と警視庁内図書室へ向かった。もう、夕日が架かっていた。 

 カチャっ。

「アッ!西井サン!一本杉警部!」 

「あかりちゃん!ここってどうして来るの?カバン持って。」 

「山積みの仕事終わらせたカラ、ココでオヤツのチョコ食べるの!誰も見られてないから!あと、私用のハッカーはココでスルんダ。」 

「なんでだ?パソコンまで持って来て。」 

「オウチだと私がハッカーだッて、他の悪いハッカーにもバレてるカラ、ハッキングされヤスイじゃナイ?警視庁のホワイトハッカー室ハ、記録ガ残るシ、監視カメラもツイテル。」 

「図書室だってそうでしょ?」 

「ウウン。図書室ダケは、全てが遮断されてイルノ。絶対言わナイでヨネー!監視カメラ壊レテ、ツケルの忘れてるミタイ。」 

「あかりちゃんの至福のひと時のために、黙っとくよ。」 

「約束ネ!」 

「わかったよ!約束!」 

「うん!約束する!」

「西井サンと一本杉警部は何しに来たノ?」 

「あかりちゃんの昔の事件の刑事研究の資料を探しにきたんだよ。」 

「私ノ事件の資料?キニナル!ゼッタイサガスー!」

「えーっと、どこにあったっけ?」

プルルルル。 

「一本杉警部、電話。」

「一課の捜査部からです。他に誰もいないし、ここで出ますね。」 

ピッ。 

「はい、一課長、一本杉です!はい、はい、はい、…………。わ、わかった。ありがとう。……。」 

「どうしたんですか?」

「湯上健に、逮捕状が出た。」 

「えっ……。」 

「ナンデ!」 

「曖昧なところもあり、強い否認であったため、留置所処置となっていたが。先程、鑑識で証拠が出揃って、状況証拠、アリバイ、情報提供者の証言が一致した。そして、健君は否認から黙秘、へ。湯上健に、逮捕状が出たということだ。」 

「まさかですね……。健君がやった、ってことになるのよね。私は信じられない。」 

「まだ決まった訳じゃない。捜査ではそうなった。だが、真実は、確実に存在する。俺らはそのために今、動いているだろう?湯上健の真実、そして心。あいつの心の全てを救う!薬丸ならきっとそう言うな!」 

「そうね!」 

「みんなに連絡します。ここでかけます。西井さんは例の本、その間に探してくれませんか?ちょっと興味があって。」 

「はーい。わかりました……。」 

プルルルル。 

「俺だ、薬丸。今どこだ?えっ?まだみんなで作戦会議?いい。わかった。996係部署だな。俺らも用事を済ませて向かう。」 

ピッ。

「あー、これこれ!こんな本は誰も読まないでしょ?でも、ここに置いていて、本当に必要なひとに届けばいいなーって。」

「ありました?あれ?何か挟まってるぞ?」

「はかないしんゆう宛 

僕は犯罪者。君と次に出会えた時は、ほら、あの信号であったことの話しを弾ませようじゃないか。僕はやっていない。君ならわかるさ。そのとき君は真犯人を知る。僕を助けてくれ。警察に知れるな。重い役目を、君ならこなせる。僕は君に生涯を託した。」 

「……。謎ですね。警察に知れるな、って書いてあるのに、警視庁の図書館に置いてあるということは、警察が動くと真犯人が見張っているから、内密に単独で動け、と?差し出し人も誰か書いていないのに?」 

「その宛主が警視庁内部にいるのかしら。昔の親友?なら、これを見て、単独で捜査してくれるかな、って?ずっとあったなら、古い付き合いなのかしら?語り方や使う言葉では、年代は不明ね。紙は新しい?古い?」 

「劣化具合が微妙だな。紙は古くも見えるが、筆跡は新しいものに見える。でも、いつ書かれたとか、あえて鑑識に回さない方がいい気がしますね。」 

「そうね。公に知れたらこのひとの命、危ないかもしれないわね。私たちで止めておいて、元の場所に戻しましょうか?知ってしまえば、救うべきだとも思う。でもこのひとが頼りたいのは、本気で私たちでもなさそう。実は、警察の誰か助けて、でもない文面。どうします?」 

「謎ですね。なぜ、この場所に置かれていたか。なぜ、この本なのか。おかしなもの、拾いましたね。」 

あかり、立ったまま放心して固まっている。 

西井は気づいた。

「おーい、あかりちゃん。大丈夫?」 

「エーーッ!謎、解きタクないノー?ねぇ、もうチョット持ってイヨウヨ。私、キニナル!」 

一本杉は笑う。

「あかりちゃん、なぞなぞもとけないくせに(笑)」 

「私、モウチョットここデ考えてミル!コノ変な紙のことは、私が貰ったカラ。報告はしナイでイイヨ!アトでチャント元のトコロに返しテおくカラ!ナイショにシヨウネ!だって命が危ない、ヒトなんデショ?。」 

「そうだな。じゃあ、気が済んだら返しておけよ!」

「ハーイ!イッテラッシャーイ!」 


 警視庁996係部署は、夜に纏われた。音を立てて激しく椅子から立ち上がる薬丸。

「いいや、あいつはそんなやつじゃない。」 

「薬丸、気持ちはわかる。俺もそう思う。健君が強行凶悪犯には見えない。だが、証拠がガチガチにあるんだ。」 

「そうね。」 

「何も成果が得られないまま、逮捕に至ってしまったね。無駄な時間ってわかっていたけど、手がかりが全く探れなかった。」 

「とりあえず、俺は一課に戻る。いいな?薬丸。俺も一応、一課長だから、指揮を取らなければいけない。」 

「ああ。ぽんくん、ありがとな。」 

「そうだ、あかりに出会ったぞ。図書室で、オヤツ食べながら私用のハッカーとか言ってたけど。」

西井はそっと荒立つ

「一本杉警部、内緒にする約束でしょ?」 

一本杉は笑う。

「仲間には言っても問題ないと判断した。上が怒ることを心配してるんじゃないか?思いません?」 

水野が答えた。

「そうですね。そこまで怒られやしないでしょうし。そうなれば私たちがかばいましょう。」 

「薬丸。健君の真実、まだ俺も諦めていない。もう、こうなったら徹底的に徹夜だ!」 

「ぽんくん、頼もしいよ。ありがとうな。」 

「一課の今、ここにいるやつは残れ。996係、心のプロ係と共に、捜査にあたれ!996係も、頼んだぞ!刑事の世界を変えよう!心を救う!俺たちみんなの使命だ!」 

「はっ!」 


 警視庁996係部署の朝。鳥の囁く鳴き声が聞こえる。 

「あー徹夜したー!」 

「ふわぁー。そーですねぇ、むにゃむにゃ。」 

「兒玉、お前もちょっとは夜も起きられるようになったな!寝ぼけとるけど。」 

「まず、一課の洗いざらい調べた証拠、って何?からでしたよね。」 


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