第16話

ガチャっ。

バタン。

「黙秘するのは、あんたの勝手や。でも、昔自分がやられたことをし返す、っちゅうならあたしの仕返しの3カ条、教えといたる!」

「……。」

「その1 心から仕返ししたいんやったら自分でも誰かでも止めん。でも、仕返しして、その結果が自分が苦しんでも、全部、自分の責任なんやで。

その2 社会に仕返しはしん。自分を傷つけたのと関係ないひとを無差別に苦しみに巻き込むだけや!

その3 でもな、嫌なことされたら、自分までで不幸の連鎖を止めよう、ってまず思うんや。それでも仕返しが必要、って自分が思うんやったら、自分も周りも幸せ、って道はどっちか、よう考えて動き! 早とちりは損、損! 仕返しにもな!」

「……。」

「これくらいしか、あたしには言えん。じゃあ、また来るわ。」


「小林ー!お前、意外と考えてるんだなー!」

「そうよー!馬鹿にしんといてー!」

「私も行くわよ。男は甘やかしていたらダメになるわ。」

「中口?」

ガチャっ。

「こんにちは。」

「……。」

「あなたねぇ、やってることがくだらないわよ。ひとを叩いたこともない、傷つけたこともない私にはわからなくってよ。」

「……お前に何がわかる!」

「ひと様の娘にお前って言わないの!あなたの娘がお前って呼ばれたらどうよ! 」

「中口!キレた!それはダメだって……!」

「俺の娘か?心の病気があって犯罪を犯したさ。俺自身が一課長の頃、もみ消して、当時の悪徳警視総監に見つかり、俺はこうなっちまった!」

「総監、乗った!意外に良かったぞ、中口!行け!」

「あのねぇ。あなたのやってること、やっていいことだと思ってるの?」

「だからー。」

「だからもクソもねぇわ!理由で逃げんじゃねぇ!」

「もう出て行ってくれ!」

「そうね。そうするわ。じゃあね、さよなら。」


「あー。頭きちゃったわ。」

「でも、ちょっと総監、心動いたんじゃない?口を開いたし。でもキレるだけで、話し合いはできなさそうです。」

「やっぱり総監も被害者だった。少し、気持ちわかるかもな。」

「このまま、総監を落とすにはどうしたらいいのか、だ。」

「そうね。総監もひとりの人間よ。孤独な身で、ひとり抱え込んで悪事に手を染める苦しさは、果てしなかったと思うわ。」

「確実な証拠を集めて、その上で総監の心に寄り添い、味方だと伝えるのはどうっすか?」

「そうやな、いけそうやん!」

「そうだわ。徹夜した時、総監の悪事をみんなで調べたでしょ?あれ私まとめてたの。でもどこかにデータのUSB無くしちゃって。一課長が撃たれて、急いでゴミ箱にゴミ入れたときに、たぶん。ごめんなさい。」

「大丈夫ですよ!」

「薬丸サン、柿の種?でも何か違う。」

「あかり!今日の柿の種、亀田じゃないんだよ。そういうことか?すげぇ。」

「せんべい好きナノ?」

「ああ。他のも好きだけど、この前、巣川という一課の刑事に『薬丸警部って、いつもせんべいの香りがしますね。』って言われたんだ。いつもせんべいの香りがするやつ、って人間的にどうなんだ?って思った。」

「さっきはコーヒー?」

「ああ。甘いカフェオレだ。」

「薬丸警部、この顔して、ブラック飲めないのよね。」

「そうそう、この顔してお酒も飲めないし。」

「それに、この顔して強い炭酸もダメだよねー。」

「そやそや。この顔でチョコ大好きやもんな。」

「おい、この顔って、何だ?」

「その怖そうなヤクザ顔ですよ!」

「失礼な!でも、昔、被疑者が寝てて起きた時に側にいたら、『ヤ、ヤ、ヤ、ヤクザがいるー!』って言われた。」

あかり「タバコ吸いすぎは身体に良くないヨ。さっきも行ったデショー。」

薬丸「そういやあかり、匂いに敏感だったよな。だからかー。」

「私たち、どんな香りするー?例えて!」

「例えるのは苦手ダケド。」

「薬丸警部は?」

「たばこか、おやつの香り。」

「確かに、すぐたばこ行くし、仕事中に

おやつ食べてるしね。」

「悪かったな!智恵ちゃんは?」

「上品なおばあちゃん家の香り。」

「私、あかりちゃんのママと歳あまり変わらないんだけどな……。お香をよく焚いてるからかしら?」

「西井は?」

「友達の家みたいな香り。」

「ああ、ザ・他の家の香りみたいな?なんかわかる。あたしは?」

「小林さんは、洗剤と、家の香りが混ざってる感じ。」

「へー。兒玉は?」

「たまに、運動会の香り?」

「それ、汗臭いってことだろ!アカリー!」

「例えるとそうなるんですね。僕は?」

「尾野さんは清潔な男のひとの香り。」

「確かにそうですね。清潔には気をつけてます。」

「僕もだけど?」

「中口サンはホルモン焼いてる?」

「……。それ、もしかしてフェロモンが出てる、ってこと?」

「よくわかるな、西井……。」

「脇谷サンは、イケてる兄ちゃんの香り。小名呂サンは、私の昔の知り合いと一緒の洗剤だネ。一本杉サンは、んー、例えられナイ!」

「難しかったなー!それと、あかりは少し離れてても、あかりスメルがするよな。」

「えー、わからないー。」

「あたしもー。」

「でも、あかりちゃんって、なんかいい香りしますね。改めて。」

「くんくん、確かにー!」

「ハズカシイ!」

「あっ!寺つや子裁判官と能見ミネ弁護士じゃない?お久しぶりです!」

「おー、寺やん、能見ちゃん!どうしてここにきたんだ?」

「あかりに呼ばれたんよ。今、昔の私のように心を救ってほしいひとがいる、複雑な悲しい香りがする、ぜひ任せたい、と。」

「まさか警視総監とはねー。そりゃさらに難しいわよ。私たちの腕が立つわね!」

「香り、って、気の香りもある。雰囲気とかじゃないのよ。あかり、不思議ね。」

「脇谷!警視庁案内しようか?小名呂は中口に連れてってもらえ!説明に俺ら出番なさそうだしな。いいか?薬丸。」

「おう!」

「じゃあ、事件を詳しく。」

「おう、任せとけ。」


「なるほどね。大体わかったわ。」

「取り調べも、難航しててな。」

後ろで。

「あら〜!小名呂巡査置いてちょっと冷やかしに来たわ。そうそう。私はね〜刑事として尊敬できるひとはたくさんいるけど、ひととして尊敬できるのは、尾野さんだけよ〜。ええ。」

「へー。」

「私は、兒玉君の人間性は認めるわよ?でもね〜みんな、……そうなのよ。」

「そういうことか。」

「そういうことよ。」

「どういうことや?」

「そうそう。オジイの枕臭いのよ〜。」

「交通課長か?枕替えたら?」

「あのオジイ、その枕がいいんだって。もう、困った子だわ!」

「拘リ?」

「兒玉君はいいやつだから、臭いとか言えないのよ〜。悪いやつなら、あんた臭い、とか言えるのにね〜。」

「兒玉サン!臭いって。」

「もうあかり〜言わないでよ。」

「ひーっ。ひんひん。」

「泣いてんのか、笑ってんのか、どっちやねん!」

「アカリー。くっそー、覚えてろよっ。」

「あかりが言ったことになってる〜!よかったわ!仕事サボってるのバレたら怒られるかしら〜。パソコンがあいたら真剣にやってる目してたら誰も話しかけてこないじゃない?仕事って、やってるふりも大事よ〜。それはそうと、一本杉警部にサボりがバレるわ!じゃあね〜!」

「お前ら、楽しそうだな!」

「中口婦警、世間話をして帰っていきましたね。」

「突然やけどあかりちゃん、そのいつものカバンよ。一体何が入ってるんや?」

あかりのカバンから取り出す。

「何これ?」

「私の好きなモノ。」

「公募ガイド?」

「愛読書。」

「いないいないばあの塗り絵?」

「毎日見るヨ。サンタさんに貰った。」

「確か次に好きな番組は、おかあさんといっしょ?」

「よく覚えてるネ!」

「アンパンマングミ?」

「アカリー、アンパンマン好きだもんな。」

「好きなキャラは?」

「だだんだん。」

「マニアックー!」

「ロールパンナちゃんも好き。」

「そうなんだー、これ河童?」

「オリジナルグッズ。河童が好きなモノデ。」

「これは?ゴミ?」

「違うヨ。名前書いてもらったお菓子の袋。大切ダヨ。」

「あっ!これ!この袋にUSB!どうして?」

「ゴミ箱にコノ袋入れテ、名前書いてアッタコト思い出してゴミ箱から取り出したトキカナ?」

「アカリー、よくやった!」

「でかした!あかり!」

「じゃあ、西井さんのまとめたデータUSB、見ますか。」

「そうだな!」

「ただいまですー。」

「おう!今からいいところだぞ!」

「みんなの調べた成果をまとめたの。」

「そういや、日記とか、色々情報ありましたよね。」


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