第15話

「すみません。起こすか迷ったんですけど、一課長が起こすな、と言われまして。今私は総監「秘書」ですので、権限は一課長の方が上で。従いました。」

「で、なんでミッチーが映像中継係?」

「そもそも、何があったの?」

「はい。朝、出勤して勤務していた一課長補佐の水野警部補から一課長に連絡が入りまして。」

「うん。」

「また、連続刑事殺傷事件に、狙われていそうな刑事がいる、と。その刑事は、病気の妻がいる刑事で、一課長が自分のことのように可愛がっている部下だと。」

「そういや、一課長も病気の妻のために、横領をして総監に見つかったんだったよな。」

「その刑事が、連続刑事殺傷事件に狙われ命の危機。そして水野警部補は、総監も黒服を着たある刑事と出かけていった、と。」

「それで、この状況、って訳か。」

「直接対決はヤバいって。」

「一課長はあかりちゃんにカメラをつけて、一緒に出ていきました。あかりは俺が命をかけて守る、と言って。」

「ミッチーが映像を流してること、総監は知っているのか?」

「カメラがついていることも、まだ一課長もあかりちゃんも口にしていません。私が協力していることも、まだ言っていません。」

「バレたらミッチーも危ないぞ。」

「そうですね。現場。何より私より危ないじゃないですか。どうしましょう。」

「あっ、何か言ってるわよ。」

「あなたが下りれば済むことです!」

「あなたが悪いノ!」

「あかり!俺の後ろにいろ。」

「ダイジョウブ。」

「俺だって、下りたかった!悪いことだってしたくなかった!お前らに何がわかるんだ!お前はあかりというのか。あかり、悪く思うなよ。ハッキングなんぞで闇を明るみにしようとした……全てお前こそが悪いんだぞ!」

「銃はあかんって!」

「あかりー!」

パン!

キャー!

映像を見ていた警視庁の多くの職員たちは悲鳴をあげた。

「えっ……。一課長!」

「あかりちゃん庇って……一課長、撃たれたわよ!」

「おいおいおい!何をやってるんだ?」

「総監の味方の幹部たちです……。」

「ミッチー、俺らがやったことにする。それで通せ。いいな。」

「は、はい。ありがとうございます。」

「ミッチー、場所わかるか?」

「はい。カメラにGPSがついてます。これ、モニターです。」

「近いな。走って現場、行くぞ。総監を現行犯逮捕だ!抑えろ!」


現場。

「一課長!大丈夫ですか?」

「……死亡、確認です。」

「えっ……。」

「一課長!一課長……。」

「あゆたん、泣くな……。」

「私が止めタラ、こんなコトにならなかっタ……。」

「アカリー泣くなよ。お前は悪くないよ。」

「総監、追うぞ!」

「プルルルル。はい、グスン。一課長補佐の水野です……。」

「総監、確保です!水野警部補。襲われそうになっていた刑事が、こっそり総監の後をつけて、場所を一課に連絡してくれて。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「ピッ。総監、身柄確保です。」

「そうか、よかった。」

ピーポーピーポー。

「私、呼んデタ……。」

「救急車でも身体は引き取ってもらえるだろう。よし、一課長。俺らで総監を裁く。任せてくれよ……。」

「は〜い!大変なことになったわね。」

「中口!お前も捜査、手伝ってくれるのか?」

「ええ。私も、県警とかより警視庁でやってみたくて、希望して配属されたのよ。交通課婦警には収まってられないわよ!もちろん、オジイの許可も得てるわ。」

「交通課長も公認か。」

「聞きつけました!自分たちも、捜査に加えさせてください!」

「脇谷、小名呂!大歓迎だ。」

「俺もいるぞ!」

「一本杉警部!」

「ぽんくーん!よしっ、警視庁戻るぞ。」

「はいっ。」



警視庁への帰り道で。

「そういや、みんなの経歴、ってあまり知らないですね。」

「そうか。尾野君は元公安で、こっちじゃなかったからな。総監の権力でこっちに呼ばれて。」

「薬丸警部は、元一課の警部補でしたっけ?」

「ああ。そして智恵ちゃんは、一課長補佐。だから一課長とはそこそこ長い付き合いだ。」

「そうだったんですか。」

「西井は元一課勤務。西井自身、波乱のある人生を歩んできたやつだ。訳あって中途で刑事になった。それまでは、別のことをしていた。並大抵のことでは屈しない。そして、みんなの幸せを願える、深い者となった。」

「小林さんは?」

「小林は、996係に来るまでは、交番巡査だった。あかりの事件の担当区域でな。ちなみに、ぽんくんと小林は同期で、新人の頃同じ交番で長く勤務していた。実は深い顔なじみなのさ。その頃、小林はヤンキー。」

「へー!」

「その後、ぽんくんは一課に。一課長の右腕となっていった。兒玉も一課の新人刑事だったな。脇谷も元一課。あゆたんは今までも一課の刑事。」

「そうなんですね。」

「中口は高校の後働いてなかったから、その後警察学校に通って交通課婦警になり、今に至る。小名呂は一課。ミッチーはキャリア組からの出向で当時一課に。このみんなの過去の経歴は、およそ4年前。あかりが高校生の時、不法ハッカーで捕まった時期の話だ。」

「それで、総監の悪事をハッキングで調べていたあかりちゃんが姿を消して、ハッキングで連絡を取るかもしれない、親しかったメンバーを集め、総監はあかりちゃんを消すために、996係が発足した訳ですね。」

「ビンゴ!」

「ところで、中口さんは結婚はしないんですかね。あれだけ女子力が高いと望むのでは?」

「いや、尾野。できないんだよ……。」

「あら、私、こうみえて実は男がダメなのよ〜。」

「聞いてた!」

「えっ、その成りで?」

「ねっ、あかり〜!ちゅちゅちゅちゅっ!そうなのよ〜。」

「あっ、風が。あかりちゃん、スカート大丈夫?めくれへんの?」

「大丈夫よ〜!あかり、下に半ズボンもはいてるのよ〜。」

「へー!そうなんですかー!」

ペラッ。

「尾野さん!いくらはいててもめくって確認するのは……。」

「す、すみません。」

「尾野君はデリカシーがないなー!」

「もう〜。尾野さんは悪気が全くないのが面白いわよね〜!」

「そういえば、僕が公安にいた時、総監の過去を聞いたことがあります。」

「なになに?」

「尾野、話題を変えた。」

「総監も過去に、元総監や警視庁に同じことをされていたんだ、と。」

「どういうこと?」

「総監は自分も同じことをされていたから、だけでなく、自分の今と同じ境遇にあってきた。手口もそうだろ?と上司が噂していました。」

「そうだな。手口にこそ、病んでいるポイントがある。いや、そいつの心が現れるのが、手口という形なんだ。だからこそ、否定してはならないんだ。」

「同じ境遇にあっていた、ということは今までの仕返しや、上手くいかない不甲斐さで今回の事件が起こったのですかね。」

「いや、起こさないといけなかった。それは自分や周りの身を守るために、かな。何もなくただ仕返しだけに犯罪に動くとは、やっぱり考えられない気がする。」

「そうやな。まとめると自分や周りを守るために、今までされていた手口で今回の事件を起こしたっちゅうことか。その中に、不都合で秘密が何かバレるとか、仕返ししたい、とかもあったんやろな。」

「それを正義で裁こうとした、一課長やアカリーが、邪魔だったんだね。」

「着きました。」

「そういや、昨日徹夜したな。今日は濃い一日だったな……。」

「昨日まで、一課長は隣で笑ってましたね……。」

「そんなこと言わないでください……。悲しいじゃないですか……。」

「総監の悪事を暴くっすよ。それが一課長のせめてもの仇っす。」

「そうだな。」




「取り調べ、黙秘だな。何人もトライしたが、口を開きもしない。」

「あたし、行ってみたい。」

「小林!どうしたー。」

「別に口開かんでも、伝えるだけ伝える。聞いてるんやし。」

「そうか!行ってこい。」


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