第5話

「嫌です、もし僕が撃たずに小林さんが撃たれて死んだら、僕、絶対後悔します!」 

「俺を、わかってくれるひとも、後悔するやつもいない。勇気とかもういらねぇ。お前らのせいで死んでやるからな!」 

「頭から銃を離してください。あなたは何を求めているのですか!」 

「も、もういやだ泣くぞー!杉浦が困るまで、泣いたるぞー!杉浦も撃っていいんだったら、撃ってやる!」 

「兒玉が壊れた……!」 

「もう知らねーよ!じゃあな!」 

「杉浦ー!」 

カチッ。

「ん?」 

カチッ、カチッ。 

「弾が入ってねぇじゃん!くそっ!」 

「あっ…、弾入れるの忘れてたわ!」 

「いつもそれ持ってお前、現場出動してたのか。銃の意味がないな。」 

「いやー、でも終わりよければ全てよし、って言うやん?」 

「掴まったのが小林だったからよかったのか?いや、小林だから掴まったのか?」 

「あれ?ところで杉浦は?」 

「これは。に、逃げられましたね……、いつの間にですか?」 

ガチャッ。

「あいたた。エレベーターに乗るひとが、すごい勢いで走ってきて。取り調べはどう?」

「ち……智恵ちゃん。たぶんそれ杉浦だよ!」

「たしかに、今思えば間違いないわ!」

「それで?上か、下か?」

「下よ、一階を押していたわ。」

「だろうな。玄関から逃走。途中停止で下りていることを願って追うぞ!お前らは階段でダッシュだ!下で落ち合おう。」

「はいっ!」

「小林、腰が抜けとるぞ。俺の背中に早く乗れ!エレベーターコースで行くぞ。階段で行くと……哀れな殉職だ。」

「ほんまに、馬鹿な笑い者よ!ごめんな、よろしく!」


チーン。

「いました!あっ、あそこ!住民から車を奪って逃走!」

「全員乗れるな!お前らは先回りして追え!俺らは後ろから追う!やつを挟むぞ!」 

「はいっ!」 

「乗ったか。シートベルトをしろ、小林。」 

「ありがと。言ってみたかった言葉、言っていい?」 

「な、なんだ?」 

「前のセダンを追ってくれーぃ!」 

「……セダンやけど。飛ばすぞー!掴まれ!」


ブーン、ウゥー! 

「そこのセダン、止まりなさい!止まりなさい!……聞かんなあ、そらそうか。」 

「また突っ込んだらどうするん?やばい!」 

「スマホで地図開け!……ところで、先回りってどっちに行ったんだ?」 

「知らんわ!もっとやばいって!」 

「おっ!車を止めたぞ。そして車を降りて、フェンスを閉めて、ダッシュで逃げた!追うぞ!……ってフェンスの向こうから鍵が!こんな手アリ?」 

チリンチリン!

「どうしたっすかー?」 

「やつに逃げられた!あそこに走っていったあいつに……。」 

「うっす、任せてください!自分、追いかけてくるっす!」 

「脇谷?ってフェンス登って……早っ!その運動神経怖っ!猿か、チーターか!」 


ウゥー。キィーッ。 

「警部、逃げられましたね。」 

「どこから来たんや?」 

「ああ、でも今脇谷が追ってる……走って。」 

「走って?車が……、相手も走って?」 

「そうだ、これは一刻も早く行かなければならない。どこに行ったかが問題だ。」 

「目的があるなら、走れる距離。また車で突っ込むでもない……もしかして!」 

「どうした?」 

「杉浦は車で突っ込んだことをよくは思っていなかった。そして本当はしたくなかった。高木と同じでひとを傷つけたくない、それがわかってもらえない怒り。」 

「そんな話だったな。で?」 

「今度は自分が渋谷スクランブル交差点で死んで償うとか。」 

スマホをもう一度起動させた小林。

「ここから、渋谷スクランブル交差点。めっちゃ近いやん?」 

「またもや計画的、突っ込んでくる車なんてないとわかっている、となると。」 

「今度は走って突っ込む気か。先回りだ!」


ブーン。ブーン。 

「着きましたね、どこに来ますかね。」 

「こういう場合、自分が突っ込んだ場所に行きたくなると思う。」 

「そうやな。あたしもそう思う。」 

「脇谷に電話するか、いや気が散るか。」 

「あそこの影、杉浦っぽい気がするわ。」 

「ああ、脇谷もいる!行くぞ!」 

「もう突っ込みかけてるわ!脇谷巡査、止めてくれるかしら!」 

「脇谷ー!」 

キキーッ! 

「脇谷、ありがとな、大丈夫か!杉浦……。」 

「あっ、やっとついたっすか。」 

「うーん、チクショー!」 

「よしっ、周りも無事だな。」

「すいませーん、ご迷惑を。」 

「杉浦!お前に言いたいことがある。署まで戻れ。」 

「は、はい。」 


ギーッ。

「まあ座れ。」 

「はい。」 

「あのお前の予想はお前を引っ張りだすためにわざと言った。」

「そうよ、あなたと会うための手段。」 

「えっ……。はい。」

「そして俺の思いとして、犯人、終わり。としたくない部分がある。それでは根本的に何も解決しないし、俺らの役割ではない。俺らの役割はお前の心を少しでも救うことだ。それは俺自身の喜びでもある。」

「そやで、嬉しいもんよ!」

「精神鑑定をしてお前の未来がどう変わるとか、刑が軽くなるとか、そんなのはお前の心を救いなんかしない。ごめん。さあ、お前の思いを俺にぶつけろ。」 

「あなたともっと早く出会いたかったです。俺は必要とされたかった。でも頑張っても出来なかった。忘れられたくなかった。」

「そうか。でもやっていいことではない。それが世間の目であり、常識だ。」  

「はい。すみませんでした。俺のせいで命が失われた、わかっています。」 

「お前の反省と、あの時のお前の心の異常。俺は精神鑑定の余地を伝えておく。命を奪いながら刑を軽くすることに、世間は反論するかもしれない。だが、お前にも未来がある。」 

「はい、ありがとうございます。」 

「そして、戻らない命を決して忘れるな。」 

「はい。わかりました。本当に、す、すみませんでした!」 



「終わったな。」

「終わりましたね。でもまだこれからですね。」 

「警察とは在るがままの正義であるべき場所。こんな威圧だらけの警察社会を、ちょっとずつ未来を望めるような明るい人間社会へと繋げていけたなら、素晴らしいことだろうなと俺は思う。そして俺らから、変わらない世界を変えていこうじゃないか。」

「薬丸警部、ありがとうございます。」 

「智恵ちゃーん、ありがとー!」 

「あっ、一課長が呼んでいるわ。抜けるわね。」 

「はーい!」 


「一課長、この度はお疲れ様です。」 

「木内、お前もすっかり落ちぶれたな。楽しそうにしやがって。警察社会の闇から転落したお前らが羨ましいよ。さあ、この皮肉の意味がそんなお前にわかるかな。」 

「か、課長……。」 

「お褒め頂きありがとうございます。」 

「ただ、……あの電話の件はわかっているだろうな。」

「……ええ、もちろんですとも。」

「水野、行くぞ。俺らは俺らの道を進む。」 

「はい。」 



「普段の光景に戻りましたね。」 

「仕事やめたい。もう僕無理です。」 

「兒玉、私はあなたと一緒に仕事がしたいです。」 

「あんな後やからな。わかる。兒玉はいつもやけど?ん?薬丸警部、どうしたん?」 

「うん、ここで一曲。俺は、全ての命を愛している。私からあなたたちに『あなた』いきものがかり。ゴホン。あなたと〜ただあなたと〜」 

「さすが浮気もの!」 

「よっ!音痴!」 

「ひどい言いようだなー!もういいぞ!やーめたっ!ちょっち、一服〜!」 

「あら、みんな何してるの?」

「あっ、課長!なぁ、薬丸警部の歌おうとしたのってどんな歌なんやろ?」 

「気になるー!」 

「こっそり聞いちゃおー。」 

「いいですね。よしっ、検索しますね。あった!」

ピッ!

〜エンディングテーマ「あなた」いきものがかり〜 05:58


03:48〜

「ザザザ、こちら警視庁捜査一課水野、捜査課996係、応答せよ……聞こえているのか……」 

「あっ!はーいあゆたん、こちら薬丸だよ。もしかして……また起こっちゃった系?」 

「相変わらずなこと。また応援にきてちょうだい、場所は……」 

「わかったよ!行くぞお前ら!」 

ブチっ、ザザザ、ザザザザ 

「もう、いつものことね。」 

〜04:10


05:25〜

「場所どこだっけ?聞き忘れた。あっ、智恵ちゃーん!あのねー!」 

今日もまた警視庁捜査課996係は奮闘中。 

日々、真っ直ぐ寄り道をしながら。


05:36

「いくぞ!お前ら!」

05:38

「はーい!」


〜♪



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