第34話 決闘エリア/交流エリア

 6月8日。世界中で使徒が選ばれてから一週間が経過した。

 インドでは宗教対立が激化していて使徒と思われる人間たちが旗印となって他の宗教に攻撃を加える姿が各地で見られた。

 ランクが上昇している使徒に対して通常兵器では効果が薄く、カードで武装した集団の戦闘力は脅威であった。

 やがて使徒と使徒との戦闘が始まり、自らを“神に選ばれた使徒”だと称する者たち同士が殺し合いを始めた。ダンジョンの存在もモンスターの脅威も人間たちの愚行を止めることはできなかったのだ。


 当然、待合所内での勢力争いが起こる。ダンジョンに入れなければガチャポイントも手に入らないし、ランク上昇も行えない。自勢力の人間だけがダンジョンを使えるように封鎖してしまえば後はガチャの暴力で一方的に虐殺できる。

 それを理解した人間たちがお互いに待合所内部に人員を送り込んでダンジョン入り口を確保しようとし、いざ戦闘が開始しようという時に想定外の事態が発生した。


“待合所内部での戦闘行為を確認。【決闘エリア】への転送を行います”


 【決闘エリア】。

 待合所内での戦闘行為によってダンジョン攻略の妨げにならないよう設定された、使徒同士が決闘するためのエリアである。

 広大な荒れ地に放り出された両者がこの決闘エリアで争いを開始したが、特徴は以下の通りである。


 ①決闘エリア内部での“死亡”や各“状態異常”を含むあらゆる変化は、決闘終了後に全て元に戻る。

 ②決闘の敗者は勝者にカードを奪われる。どのカードを奪われるかは両者の決闘内容によって変化し、大差をつけられた場合や決闘を仕掛けた側が敗れた場合は高いレア度のカードまで奪われてしまう。

 ③決闘に参加し敗北した使徒は一週間、決闘を拒否することが可能になる。ただし他者へ攻撃を行った場合この制限は解除される。


 決闘エリアの存在によって待合所内部での死者が出なくなった。

 これを使徒に加護を与え、ダンジョンを用意した存在のメッセージと考えた場合『使徒同士で争い合うのはいいけれど殺し合いは禁止』という意思表示とも受け取れる。

 だが、もし仮に本当にメッセージだったとしてもそれに従うかどうかは別の話だ。

 殺してもすぐに復活してしまう決闘エリアでの戦闘を埒が明かないと判断し、結局地上での殺し合いを始めてた姿を見て、この場所を用意した“神”はどう思ったのだろうか。


 ◇


 国内の対立が深まったことで大量の人間の移動が起こった。

 各地の人間たちが一か所に集い、同じ宗教、同じ宗派の使徒たちもまた徒党を組んだ。

 そして、インド国内はとても広く複数のエリアが存在していたのだが、この人員の移動によって“他エリアの使徒”とフレンド登録をする機会が増大した。

 その結果、遂に【交流エリア】を発見した使徒が現れた。


「あれは何だ……あの存在は……何なのだ……?!」


 交流エリアを垣間見た彼らは恐れおののき、一斉に口を噤み、やがて争い合うことをやめてダンジョン探索に専念するようになっていった。


 ――交流エリアに“カミ”がいた――


 各宗教の指導者にだけ、使徒たちはそう伝えたのだった。

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