第32話 繋がる線
「なるほど。例の薬とやらは本物だったのか」
秘書の持ってきた資料を壮年の男性が確認していく。
医療関係と政財界のどちらにも顔が効く名家の出身であり、梟がもたらしたポーションの情報をいち早く耳にすることのできる立場にいる男だった。
「はい。ですが効果は本物ですが入手方法が限られており【使徒】が【ダンジョン】から持ち帰った分しか手に入らないとのことです」
「まるで漫画か小説のような話だな」
「やはり欺瞞情報でしょうか?」
「そうとも言い切れん。何しろ薬の効果が効果だからな。今までの常識で計り知れないことだけは確かだ」
これがただの“ダンジョンから手に入れた怪しげな薬”というだけなら一蹴していただろう。あるいは製法を隠すための欺瞞工作と考えるのが普通だ。
だが、今回持ち込まれたポーションはまず“カード”の状態で持ち込まれ、それが瓶の状態に変化し、更に中身の液体を振りかければ傷口が一瞬で塞がるというふざけた性能をしている。
それこそ魔法で生み出しただの、ダンジョンに潜って手に入れただの、ガチャを回して手に入れただのという眉唾な情報でも納得してしまうほどの有無を言わさぬ説得力があった。
「では、一年後に訪れる『モンスター』による『人類滅亡』は……」
「そこまで起こるとは限らん。が、もし起こった場合のことを考えて情報収集を進めなければならんな。国内の他の使徒や他国の使徒の情報は集まったか?」
「申し訳ありません。それらも現在調査中です」
いち早くポーションを入手し一万人の使徒の存在を知った男だったが、全国規模、世界規模の調査となると当然時間がかかる。
期限はたったの一年しかないが、焦ったからと言ってすぐに情報が集まるわけではない。
「仕方ない。それでは件の使徒に――む?」
秘書に次の指示を出そうとした男の胸元でスマホが着信を知らせる。男の政務室には普通の電話を設置してあるのに、そちらではなくスマホの方に直接連絡が来た。
発信者は男の妻から。嫌な予感が急激に膨れていく。
「……私だ。何があった」
「あ、あなた……あの子が……あの子が……」
狼狽した妻が男に告げた。
「あの子が――杏奈が、行方不明になったと、学校から連絡が……」
「なんだと……杏奈が行方不明……?」
こうして、男――高宮弦一郎の元に愛する娘・高宮杏奈が行方不明になったという凶報が届いたのだった。
◇
6月2日、夜。
高宮杏奈が暮らす寮の管理人の女性が部屋まで様子を確認しに行った。
具合が悪いというので今日は一日部屋で休んでいたのだが、夕食の時間になっても食堂に顔を見せなかったので管理人が出向いたのだ。
もしも体調が悪化して自力でベッドから出れないようなら救急車を呼ぶ必要もある。それぞれの個室に鍵はかかるが、最悪の場合を考えてマスターキーを持ちだしていた。
「高宮さん。具合はどうですか? 御夕飯は食べられそうですか?」
ノックをして呼びかけるが返事はない。二度、三度と繰り返すが物音一つしない。
まさか、本当に……と戦々恐々になりながら、持ってきたマスターキーで扉を開けた。
「高宮さん……? 高宮さん、どこにいるの? 高宮さん?!」
いない。体調不良で部屋で休んでいたはずの高宮杏奈の姿がどこにもない。
そのことに気がついた管理人は慌てて管理人室に駆け戻った。生徒が一人行方不明。すぐに他の職員たちに連絡を取ったが、誰も高宮杏奈の姿を見た者はいなかった。学校の敷地内にある女子寮から誰の目にも触れられないまま、高宮杏奈は忽然と消えてしまった。
そしてすぐに学校から両親に連絡が行き、杏奈の知らないところで事態はどんどん大ごとになっていくのだった。
◇
魔神宮殿・後宮エリア。魔神クトネと魔王達哉、そして魔王の女たちのみが立ち入りを許されている場所。恭二たちのいる広場からだと城の影に隠れているので存在すら知ることはできない。
その一室で杏奈と達哉が睦み合っていた。外の状況など一切気にもかけず絡み合う。
そんな二人に一人の少女が混ざっている。杏奈によく似た容姿のチカだ。
「達哉、チカも可愛がってあげて」
「パパぁ……」
母子というよりは姉妹。好いた男に妹を差し出す淫靡な姉のよう。
【雪の娘チカ】。淫気の壺に貯まった杏奈の淫気によって変化した彼女は“雪女”の如き性質を獲得していた。時として雪女が男の精気を吸い取り殺してしまう淫魔に例えられるのと同様に、杏奈と達哉の淫気を吸収して成長を果たす。
親子水入らずというにはあまりにも淫らな交わりだが、チカが今後もダンジョンで活躍する為には必要不可欠な儀式である。
杏奈と達哉が一緒にチカを可愛がり、次いで杏奈とチカが二人がかりで達哉に挑み……あっさりと果ててベッドの上で眠りにつく。
【夜の帝王】の効果を引き継いだ【魔王】達哉は二人を寝かせると他の女たちの元へ向かう。
夜はまだ始まったばかり。杏奈があちらへ戻るのはもうしばらく先だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます