第27話

「それじゃあみんな集まったみたいだし、達哉くんはこっちに来てね」


 これから【魔神宮殿】を見て回ろうとしたところでクトネを腕を引かれた。玉座の前に立たされる。ミュルミやトークンたちが集まってきたのはどうやら彼女の仕業だったらしい。

 いつの間にかメイド服から黒いドレスに着替えていたクトネが集まったカードやトークン、杏奈の前で嬉々として爆弾発言を披露した。



「それじゃ今から私と達哉くんの結婚式を始めるね!」



 結婚式。

 クトネと……俺の?


「そんな話聞いていないんだが?」

「えー。達哉くん、私のこと愛しているでしょう? 私と結婚できて嬉しいよね?」


 クトネが抱き着いてくる。背は小さめなのに非常にたわわな胸が俺に押し当てられ、愛されて当然という傲慢さの浮かんだ顔で俺を見上げる。

 だが、愛しているか愛していないか、嬉しいか嬉しくないかというと……嬉しく感じている自分がいる。

 女神だからなのか、目の前のクトネを愛おしいと感じている自分がいるし、この体を自分のものにできると言われたらこのまま頷きたくなる。


「結婚したら私は達哉くんものだよ? い~っぱい、エッチなことしてもいいんだよ? キスの続き、しよ?」


 女神の甘い囁きが俺の思考を鈍らせていく。


「ちょっと待って!!!」


 だが、俺とクトネの会話に割って入る女がいた。


「達哉は私の恋人なの! 二人の子供だっているし、結婚するなら私よ!」


 杏奈がクトネの逆側から俺に抱き着いてきた。

 女神を相手に堂々と結婚するのは自分だと主張するとは思わなかった。あと一応言っておくがチカは俺たちの子供じゃない。

 だが、それでも俺と結婚したいと言ってくれることが嬉しい。杏奈は確かに気に入っていたし、見た目も抱き心地も良かったが……それだけではない暖かな感情を今は感じる。


「きゅ、きゅうせいしゅしゃま! わ、わたしもけっこんしたいれしゅ!!」


 そして三人目。アリーチェが声を上げた。クトネと杏奈の間に入る勇気はないみたいだが、それでも俺の手を取ってまっすぐな視線で見つめてくる。

 アリーチェもただの成り行きと打算で始めた関係だが、彼女の純粋な想いを今なら受け止められると思う。


「あ、わたくしは妾で構いませんので……アリーチェちゃん、がんばってください!」


 エリザはいつの間にかすぐ側に立っていて静かな笑みを浮かべて、アリーチェの背中を押していた。


「達哉くん、誰と結婚するの? 当然私だよね?」

「私が達哉の恋人……いいえ、妻よ! そうでしょ達哉?」

「きゅうせいしゅさま……わ、わたしと、けっこんしてくだしゃい!」


 俺の人生で三人の美少女から結婚を迫られる機会が来るとは思っていなかった。俺は彼女たちを両手で思い切り抱きしめた。


「全員と結婚する。みんな俺のものだ」


 クトネ、杏奈、アリーチェ。三人と口づけをする。誰か一人を選ぶなんてできないんだから、全員と結婚するしかない。


「もう、達哉くんってば気が多いんだから……それじゃ、そこの椅子に座ってくれる?」

「この玉座か? ……なんか大きくなっていないか?」


 先ほどからこれ見よがしに置かれていた玉座だが、いつの間にか横幅が広がっていて三人分の席ができていた。

 クトネに言われるまま、杏奈・アリーチェと一緒に椅子に座ると、俺の膝の上にクトネが腰かけた。


「これからずっとよろしくね、達哉くん」


 クトネからキスを受けた瞬間、空から大きな鐘の音が鳴り響き、夜空にいくつもの大輪の光の花が咲いた。

 そしてあの不思議な声が聞こえた。


“【魔神クトネ】と結婚しました。【魔神降臨の地】【王権神授】【王国の民】の条件を満たしました”

“【魔王】の称号を手に入れました”


「あっ」

「ふえっ!」


 隣に座っていた二人も同じタイミングで声を上げた。


「二人とも何か起きたか? 俺は【魔王】の称号を手に入れたと言われたんだが」

「私は【魔王妃】の称号を手に入れたみたい。【魔王達哉】と結婚したって言われたわ」

「わ、わたしも同じです! 救世主様と結婚して【魔王妃】の称号を手に入れました!」


 どうやら二人も一緒のタイミングで結婚したという扱いになったらしい。


「【魔王】に【魔王妃】……俺が結婚か」


 正直、まだ戸惑っている部分もあるし、結婚したという実感も湧かないのだが……。


「タツヤ。クトネ様。それにアンナとアリーチェ。結婚おめでとうございます」

「あ。ああ、ありがとう。ベアトリーチェ」


 一連の出来事を見ていたベアトリーチェに祝福の言葉をかけられると、それを皮切りに他のユニットたちからもお祝いを言われた。

 不思議なことにそうやって周りから祝われているうちに、やっと本当に結婚したのだという実感が追い付いてくる。


「みんなありがとー! じゃあ達哉くん、行こっか!」

「行くってどこに?」


 クトネに腕を引っ張られるのに合わせて俺たち三人も玉座から立ち上がった。


「それはもちろん……着いてからのお楽しみー」


 腕を引かれるのに素直についていくと、黒いサークルが置かれている部屋についた。それに乗って全員で移動する。俺たち四人だけではなく、エリザやベアトリーチェたちも含む、小悪魔とトークン以外の全員だ。


「ここは……あのホテルか」

「最上階の私たち専用フロアだよー。まあこのホテル全部が私たち専用だけどねー」


 最高級ホテルのスイートルームのような部屋に転移した。ここまで来ればもうわかる。

 大きな一室の全てがベッドで敷き詰められた部屋で、クトネが服を脱いでいく。一緒についてきたベアトリーチェたちも脱いでいくと、杏奈たちも察したようだ。


「達哉くん……結婚式の続きしよ? たくさん愛してね」

「達哉、私も……愛しているわ」

「わ、わたしも大好きでしゅ! が、がんばりましゅ!」


 ――三人の花嫁とたくさんの美姫に囲まれて、溢れるほどの愛を注がれる。

 こうして俺の一日目は終わりを迎えた。

 【魔王】の称号の効果に【夜の帝王】の効果が統合されていなかったら危なかったかもしれない……。


 ◇


 【6月2日 19:56】(24時間経過)


 第一章 魔王誕生  完


 ◇








 ――――――――


 後書き失礼します!

 第一章はこれで終わり、達哉の激動の24時間(6月1日19:56~6月2日19:56)で一区切りです。


 次回は他の使徒の様子などを少し入れてから第二章開始の予定です。

 

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