第7話 SSR集め

 十四歳の中学二年、古月悟は0時になるのを待っていた。


「今こそ我が伝説の幕開け! 来たれ、王の力よ!!」


 悟の部屋には様々な小説や漫画、オカルトグッズなどが溢れていて、今も通販で買ったパワーストーンを全身にジャラジャラ着けて、魔法使いのローブとアゾット剣(どちらもコスプレ用)を手に魔法陣の前で魔力を高めていた。ちなみに今まで魔法を使えたことは一度もない。


「3、2、1……今だ!!! うおおおおおおお!!!」


 これまでの経験から古月のバイオリズムが最も高まる瞬間、0時ちょうどにガチャを回す。古月は数多のガチャで最高レアを引き当ててきたのだ。この為にガチャポイントを使わず、ダンジョンに潜るのも我慢して待っていた。


「き、来たああああああああああ!!! 金色のカード! これは絶対レアカードだ!!」


 白、銅、白、白……と出てきた十枚のカードの中に、見事に金色のカードが一枚混ざっていた。

 レア度は当然SSR。素晴らしいカードを引けたに違いないと、手に取って詳細を読むと。


「ふざけんな!!!」


 思い切り床にカードを叩きつけた。


「くそくそくそっ! なんだよこのゴミカード! せっかくのSSRが何の意味もないじゃないか! 運営にクレーム入れてやる! 返品だ、金返せ!」


 何度もカードを踏みつけて荒れ狂う。ちなみにクレームを受け付ける機能はない。このガチャはノークレーム・ノーリターンだ。


「はぁはぁ……くそ……こうなったら残りのカードでやってやるよ! 俺の本当の力があればダンジョン程度楽勝なんだ……!」


 残りの九枚、NとRのカードを持って待合所に飛ぶ。メニュー操作で地球上のどこからでも待合所に転移できるが、戻ってくる時も同じ場所に出るので転移する場所は気をつけた方がいいだろう。

 古月の転移にあわせて床の上に落ちていたSSRカードもメニュー画面の中に戻る。基本的にカードを紛失することはなく、カードを傷つけたり汚したりすることもできない。


 ◇


 古月がさっそくダンジョンに入ろうとしたところで張り紙が増えていることに気がついた。


「なんだこれ『カードレンタル』と『カード買取』……SSRが100万円!? マジで!?」


 さっき当てたばかりの使えないガラクタカードが彼の中で札束に変わった瞬間だった。


「連絡先は……電話番号とメアドか。さっそく連絡を……って圏外じゃねえか! くそ、一度外に戻って……」

「そこの君。俺に何か用か? もしかしてレンタルか買取の希望者かな?」

「うわっ!?」


 古月がスマホを弄っているところに、高校生くらいの少年――御神達哉が声をかけた。


「あ、え、あのっ、ぼ、僕っ、そのっ」


 まったく心構えができていなかったせいでどもってしまう。元々人付き合いが苦手な上に、目の前の少年のようなコミュ強キャラは古月の天敵なのだ。なんでそんな簡単に知らない人に声を掛けられるのか理解できない。


「焦らなくていい。レンタルか買取か、どっちの希望かな?」

「かかかか買取、ええええSSRを、あの……」

「うん? SSRの買取であっているかな? それともSRだった?」

「い、いいいいええ! SSRです! あの、ひゃくまんえん、の!!」

「なるほど。SSRの買取か。それなら隣の部屋で話をしよう。こっちだ」

「は、はははいいいい!」


 こうして達哉に促されるままに隣の部屋についていき、お互いにフレンド登録した後、SSRカードの売却だけでなくR装備やRユニットのレンタル、達哉のダンジョンへの入場許可などいろいろな契約を交わした。


(ポイント半分取られるのは痛いけどユニットカードっていうのも貸して貰えたし、なにより百万円ゲットできたのが大きい! これで欲しかったあのグッズも買えるしゲームに課金もできる! 出てきてくれてありがとう、SSR!!)


 ウキウキ気分でダンジョンに向かった古月はRユニットの助けを借りながらなんとか最初のゴブリンを倒したところで家に帰った。


 ◇


「ありがとう。他にもあの張り紙を見ている人間がいたら教えてくれ」

「は、はい! わかりました!」


 見張りを一人残して小部屋の中に入った。六つある小部屋の半分を占領して俺たちの控室代わりに使っている。

 部屋の中には恭二の手下三人が待っていた。


「どうだった。SSRと宝箱は全部回収できたか?」

「はい! 凄いですねコイツ、達哉さんが言っていた通り隠しスイッチをあっさり見つけちゃいましたよ!」

「そうか、ならよかった。さっそくカードを出してくれ。報酬を渡そう」


 こいつらに貸したのはSRアイテム【無人小型偵察機】というカードだ。野球ボールくらいの大きさで宙に浮かび偵察を行うことができる。

 それだけなら普通のドローンなどと変わらないが、この偵察機は罠などを自動で解析してくれる機能もあり、隠しスイッチも見破る高性能偵察機だった。


(SRカードを使えばスイッチを発見できるなら、そのうち他の奴らも見つけるだろうな)


 俺たちが最初に隠し通路を発見した時は偶然ベアトリーチェがいて【黄金の魔眼】で隠蔽を見破ってくれたが、たまたま発見したベアトリーチェがSSRだっただけで、SRカードやRカードでもスイッチを見つけることが出来るのではないか?

 そう考えた俺は隠しスイッチを発見できそうなSRとRカードを持たせて、もしも発見したら宝箱の中身を回収してくるように命令して三人チームを四班送り出した。

 残念ながらRカードを持たせたチームからの発見報告はなかったが、SRカードならこうして隠しスイッチを発見できるようだ。


 それとダンジョン内の戦闘だが、さすがに喧嘩慣れている奴らだけあり、しっかり装備を整えた上で三対一ならゴブリン程度は簡単に蹴散らすことが可能だった。誰も音を上げる奴がいなかったのは恭二の手柄だろうな。


 そんなわけで今回彼らが持ち帰ってきたカードは次の通り。

 ダンジョン一階には通常宝箱が十個あり、Nポーション三枚とそれ以外のNアイテムが三枚、R武器が二枚とRの消費カードが二枚。消費カードは一度使うとなくなてしまうカードのことで、攻撃魔法や回復魔法などがある。ポーションも消費カードの一種だな。


 そして宝箱から出てきたSSRだがこれがまた変わったアイテムだった。


 SSRアイテム【折れた聖剣】

・二つに折れた聖剣の手元側の部分

・折れてしまったせいで聖なる力の大部分が失われてしまったが、それでも名剣に劣らない頑丈さと切れ味を誇る

・剣先は行方不明


 刀身の中頃から折れてしまった聖剣の片割れらしい。元の刀身の長さは不明だがそれでも短剣くらいの長さは残っていた。


(見たところ、ヒビも入っていないしこのままでも十分使えそうだな)


 カードのテキストにも『名剣に劣らない頑丈さと切れ味を誇る』と書いてある。使っているうちに折れてしまうということもないだろう。


(とりあえず確保だな)


「これが報酬だ。基本報酬の五万にポーション三枚分のボーナス。一人十万だ。確認してくれ」

「あ、ありがとうございます!」


 ダンジョンの探索時間そのものは一時間くらいだろう。それで十万なのだから割りの良いバイトだと思う。ゴブリンを相手にしないといけない危険はあるが、それだって棍棒で多少小突かれるくらいで命の危機というほどでもない。


「それでどうする? 次のダンジョンに進むか?」

「はい! お願いします!」

「わかった。それじゃあお前たちには――」


 俺が入場許可を手に入れたダンジョンは俺と杏奈の分を抜いて現在三十三。

 【契約】を結んだ青木や古月のダンジョンは後回しでいいが、最初に入場許可を得た加茂野たち二十九人とは【契約】を結んでいない。

 今のところ入場許可の取り消しはされていないが、一晩明ければ向こうの気がわかる可能性もある。今のうちになるべく多くのダンジョンを回ってSSRを確保しておきたかった。

 杏奈とベアトリーチェのペア、それにSRカードを持たせたチームを使って急いで回収していく。

 二十九枚のSSRカードが無事に俺の手元に集まった頃にはすでに夜明けが近づいていた。



 ――――――――


獲得SSR一覧

初期ガチャ

・【夜の帝王】【悪鬼羅刹の魔剣】【黄金の魔女ベアトリーチェ・ウェルギリウス】

トレード

・【?】

宝箱

・【聖なる地】【淫気の壺】【折れた聖剣】


追加:宝箱 28個分

・消費

【軍神の号令】【結界領域】【一日限りの幸運】【SSR昇格チケット】【ユニット選択交換チケット】

・スキル

【創造の才】【絆の力】【守護者召喚】【徴兵令】【性魔術】【淫魔の魔眼】

・アイテム

【雷霆の欠片】【壊れた機械】【従僕の杖】【奴隷の首輪】【悪魔の魂】【魔王の冠】

・ベース

【未来研究所】【無人クエスト発行所】【呪術台】【天国のベッド】【訓練道場】

・ユニット

【試作人型兵器】【蟲の女王】【英雄の卵】【見習い呪い師】【はじまりの錬金術師】【人類の守護神】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る