Feeling Groovy

桑鶴七緒

第1話

僕はあごが外れたがために開いた口が閉じなくなってしまった。


なぜ校庭の真ん中に隕石ほどの大きな穴ができて陥没してしまっているのかが謎だ。そして学校の建物を飲み込むのではないかというくらいに巨大なオレンジがそびえ立っている。

校内にいた先生や生徒たち以外に近所に住んでいる人たちが次々と集まってきてはそのオレンジを見上げては動揺しながらスマートフォンで写真や動画を撮っている。

やがて消防車が来て消防士の人たちが僕らに向かってオレンジを撤去する解体作業を行うので、ここから離れた場所へと避難するように誘導してきた。

先生や近所の大人たちは電車が通常通りに運行しているので、それに乗って反対側に位置する市街地に移動してくれと言ってきたので、ひとまず僕は友達と一緒に駅へと向かった。


「なぁ。口、閉じないのか?」

「んああ」

「これ何だっけ?がく、かんせつしょうっていうやつだよね」

「避難することも大事だけど、先に病院に行って診てもらったら?」

「んああ」


友達は僕の家に電話をしてお母さんが出ると、落下したオレンジよりも顎が大事だと話し、待ち合わせ場所を打ち合わせた後に友達と病院へ向かった。

三十分ほど経ち病院の正面玄関口の前で待っていると、お母さんが駆けつけて顎の外れた僕をみては半笑いしながら友達に避難所に行くように伝えて、みんなとはぐれた後に受付の窓口ですぐに診てもらえるようにお母さんは係の人に相談していた。


一階の口腔外科の待合席で待っていると名前を呼ばれたので、診察室の中に入るとお医者さんはあれあれと言って早速レントゲンを取り再び診察室へ入りお母さんに治療法など説明すると、しばらくは顎が自然に閉じるまで学校を休んだ方がいいと告げていた。

病院を出た後に避難所のまちの中にある別の学校の体育館へ着くと、妹とばあちゃんが先に着いていて僕を見るなり痛そうだと心配をしてくれていた。


「それにしてもどうして学校にオレンジやらあの巨大な物体が落ちてきたんだい?」

「テレビを見ようとしたらブレーカーが落ちて電気がつかなくなったの。あーあ、冷蔵庫のものがもったいなくなってしまったな……」

「さっきね、スマホで見たんだけどオレンジが何で落ちたかまだ不明ですって言ってたよ」

「一体誰の仕業?今日は本当なら世話人会の人らと会う約束していたのに、楽しみがなくなってしまったねぇ」

「んああ、んああ……」

「お兄ちゃんどうしたの?」

「お昼まだだったよね。配給係の人が向こうにいるから飲み物かゼリーもらってきなさい」


僕は妹と一緒に食料や日用品などを提供している係の人の所へ行き、妹が僕が話せないから何か食べ物をくれないかと代わりに伝えくれると、スポーツドリンクとカップゼリーを渡してくれた。僕はもらったゼリーをスプーンでかき回して飲み込むように食べていった。

しばらくして待っているとパーテーションの向こうにいるある家族があのオレンジについて話をしているのを聞こえてきた。どうやらあのオレンジは宇宙の中にある聞いたことのない惑星から飛んできたものらしく星と衝突しながら地球の大気圏を突き抜けて地上に落下したものだと言っていた。だとすればそれはきっと神様の仕業に過ぎないと僕は考えた。


夜ご飯の配給が始まると体育館の中にいる人たちが一斉に列を並び僕たち家族も靴を履いて向かおうとした時、お父さんが僕らのところへ帰ってきた。今日はカレーライスだった。

野菜が砕けないのでお母さんに箸で刻んでもらって飲み込みように食べていくと隣に座るお父さんは早く良くなるといいなと言っていた。次の日になり、避難所の役員の人が落下したオレンジの解体作業が終わったと告げてきて、帰宅してもいいと話すと体育館の出入り口がうじゃうじゃと人のかたまりで溢れかえっていてまるでアリが一列になって歩くようにその列ができていた。

電車から降りて家に帰ろうとしていると何かの香りが充満しているのに気づいて妹が道路のコンクリートの匂いを嗅ぎだした。


「あ、オレンジの匂いだ」


そして家に着き、中に入るとそこにもオレンジの匂いが漂っていて、まるでオレンジの絞った液体が家じゅうを丸呑みされたかのように染みついている感じがした。電気のブレーカーを上げると明かりがついたのでそれに安心したお父さんとお母さんは車で買い物へ出かけて、その間にばあちゃんと一緒にベランダや僕たちの寝室の窓を開けて空気の入れ替えをした。

テレビをつけてみると各放送局の情報番組では例の巨大オレンジの事で特集を組みコメンテーターや専門家の人たちが議論を話し合っていた。


「……と、なると、今回の落下したオレンジは意図的に落ちてきたものではなく、自然現象としてきたものだという事ですね?」

「まだ調査中なので詳しい分析もできかねないのですが、実は百年ほど前のアメリカのとある州でも似たようにオレンジのような隕石が落下したという報告がありまして。その時には人的被害はほとんど見受けられなかったのですが、野生動物の被害が相次いで起きたという結果があるのです……」


今回ばかりは世界の中でも平和だと言われている日本のこの僕らが住む町のド真ん中に落下したのでやはりそこはただ事ではないといえばそういえるのだ。充電したスマートフォンに友達に電話をかけてみると、ある友達の家の蛇口からオレンジジュースが出てきたと話していたので、冗談を言うのをやめて欲しいと言ったがどうやら彼は本気でジュースの真実を訴えたいということで、僕の家から数百メートル離れたその彼の家に行くことにした。


家に着いて台所へ行きコップを持って待っていると、ひねった蛇口からオレンジジュースが流れ出てきた。僕は声を出して興奮しコップに注いで飲んでみると確かにオレンジジュースだった。

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