異世界のB級魔術師、現代に転生する~幼少から魔術研究に没頭してたら人外に囲まれていた~
水色の山葵/ズイ
第1話 一般魔術師の転生
僕の人生は、特別目立った事も無い平々凡々とした物だった。
幼い頃は、魔法使いに憧れた。
絵本に出て来るような伝説上の魔法使いになりたいと夢想もした。
けれど、そんな夢物語から醒めてしまうのに時間は掛からなかった。
6才くらいの時、村の司祭が開いていた塾で魔法使いとして適性があると知った。
けれど10才になる頃には、それは『適性』であって『才能』では無かったのだと理解していた。
自分よりも優れる何人もの人間を見てしまったからだ。
それでも魔術に齧りついたのは、きっと就職が有利になるとか、そんな理由だった気がする。
15になる頃には、魔術師の端くれとして冒険者をやっていた。
うだつの上がらない生活。
その日暮らしの日銭を稼ぐのが精一杯だった。
でも、18の時に国家お抱えの魔法師団にスカウトされた時は、かなり嬉しかった。
ただ、入った師団は理想とはかけ離れた真っ黒な場所だった。
労働環境は最低。
人間関係も最悪。
違法行為は当前。
貴族出身の先輩からの風当たりは強く、逆らえる訳もなかった。
そこでの僕の仕事は、殆どが師団のやっていた後ろ暗い事の事後処理だった。
そんな仕事をしていたからだろう。
「お前のせいで、妻と娘は死んだんだ!」
そう怒鳴り、酒に酔っているのが明らかな赤い顔で、男はナイフを振り上げ襲いかかって来た。
相手は戦闘用の魔術も使えない一般市民。
魔術を使えば、きっと避けられた。
でも。
何も、できなかった。
当然の報いだと思ってしまった。
これ以上生きていても意味はないと。
そう、一瞬でも思ってしまった。
圧倒的な天才も居る。
しかも、僕と同じ村に。
彼等は出世して、王宮貴族になっていたりもする。
勇者なんて呼ばれていたりもする。
比べて、僕はどうだろうか。
所詮、師団の末端で働くB級魔術師。
しかも、行っている仕事は法律に背く物。
この男を始め、多くの人を不幸にする事。
汚職の手伝いだ。
情けない。
あぁ、情けない。
「グフッ……」
血が口から溢れた。
身体の内側を抉るナイフの感触が、酷く気持ち悪い。
身体から熱が消えていくのが自覚できた。
男は振るったナイフを抜きもせず、叫びながら走り去っていく。
僕は治癒魔術も発動させず。
ただ、床に転がった。
冷たい地面は少しだけ心地いい。
これが、僕の人生の最期。
きっと、僕が死んでも他の誰かが僕と同じ事をする。
僕の死には何の意味もない。
でもさ。
生きている事にも、意味なんか何もなかったんだよ。
涙が溢れた。
走馬灯が走る。
最後に思い出したのは、僕と同じ村を出て御伽噺に出てくるような勇者と呼ばれた天才の可憐な表情。
実はさ。
僕は御伽噺に出てくるような賢者みたいに、君の隣に立ちたいとか夢見てた事もあったんだよ。
「もし、次の人生があるのなら。
君の隣に立てるような男になりたいな……」
あぁでも……
給料貰えなかったら生活できない、とか。
新しい働き口を探すのは大変だ、とか。
現実ってこんなもんだよね、とか。
無駄な言い訳を繰り返して、色んな理由にすがりついて、今すぐ何も始めない僕なんかに……
「次の生なんか、ある訳ないか……」
そう、思っていたのに。
◆
『
次に目が覚めた時、僕は見た事も無い部屋で、直観的に母親と分かる巨人に、スプーンを向けられていた。
使っている言語は意味不明。
部屋にある調度品は見た事も無い。
そもそも、作り方すら分からない。
あの黒い板なんて、趣味悪いだろ。
なんて思っていたら、母親が小さなステッキの様な物を触ると、黒い画面に映像が映し出された。
魔術……?
いや、魔力を一切感じなかった。
何なんだ、この世界は。
異世界の魔術師として26才。
この世界の赤子としては3才。
それが、転生した僕の始めての記憶だった。
いや、そもそもどうして、僕はこんな世界にいるのだろう。
どうして、赤子として生まれ変わっているのだろうか?
それはまだ、分からない。
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