ここで異世界転生をする……ってのが普通じゃん?

ちびまるフォイ

異世界かくあるべき

12人の生贄が魔法陣の中に立たされる。

たちまち12人が炎に包まれると、中央の司祭が呪文を唱えた。


「いでよ!! 我が世界を変える転生者よ!!」


雷鳴が鳴り響き、神殿の中心に稲妻が落ちる。

その爆心地に別世界から呼び寄せられた男が現れた。


「やった……成功だ! ついに異世界召喚魔法の成功だーー!!」


「こ、ここは……」


「ここは君たちの世界でいう異世界。

 君にはすでに強力なチート魔法があるはずだ。

 その力でもってこの世界を……」


「嫌だ」


「えっ。な、なにが不満なんだ……?

 チート能力で好き勝手できるだけの力を与えたのに」


「ちがうちがう!

 異世界転生といえば最初は神様の手違いだろう!?」


「て、手違い……?」


手違いどころか、明確な意思をもって転生させてしまっていた。


「こういうのって、現実世界で絶望して

 その矢先になんらかの方法で死んじゃったけど

 神様の手違いだったからチートを得るってのが普通じゃん!!」


「手違いが普通になると、それは手違いといえるのか……?」


「はぁ~~……萎えるわぁーー。

 なんかもう世界救う気なくなってきた……」


「ええ!? それは困る!」


なにせ生贄をはたいたうえ、召喚失敗する可能性もあった。

やっとこさSSRを引き当てたというのに、やる気を無くされては意味がない。


「そ、そう! 実は私たちはその神から天啓をうけ

 その手違いの謝罪も含めてチートを与え転生させたんだ!」


「そうなの? ディティールはちがうけど、それならいっか」


「ほっ……よかった……」


へそ曲げていた転生者もなんとか使えるようになって一安心。

村の人達はこっそりお互いに耳打ちした。


「あの転生者、けっこうカタチから入るタイプっぽいな……」


そんなことを話していると、木々をへし折りながら魔物がやってきた。


「キ、キングオークだ!? どうして!?」

「転生時の強力な魔力を感じ取ったんだ! みんな逃げろ!」


災害にもひとしい凶悪な魔物のキングオーク。

村人たちは死を覚悟していたが司祭はちがった。


「大丈夫! この程度の魔物なら、転生者さまで圧倒できる!」


司祭は転生者にめくばせした。


「転生者さま! さあ、お力をみせてください!!」




「え、ヤダ」



「ん?」


「やだ。使わない」


「なんで!?」



「だって、転生した最初は不良に絡まれている美女を

 俺が圧倒的な力で倒す……ってのが普通じゃん?」


「知らんがな!」


「いきなり魔物に対して使うのはちがうじゃん。

 なんか俺の求めている異世界冒険じゃないわけ」


「こいつめんどくせえな!!」


あまたの犠牲を出しつつ、辛くもキングオークから逃げおおせた。

街についた頃には転生者と司祭しか残らなかった。


司祭はローブを着ているとは思えない、

陸上の完璧なフォームで猛ダッシュしてきたので疲れ切っていた。


「はぁ……はぁ。あの……ですね、なにが普通かは知りませんが。

 あなたにすべてがかかってるんです……。

 頼むからもうちょっと……我々の希望に答えてください」


「ちっ。わかったよ。それじゃ案内してくれ」


「案内?」


「街の冒険者ギルドだよ。あるんだろ?」


「……?」


「異世界ときたら、最初の街で冒険者ギルドに行き冒険者として登録する。

 ……それが普通だろ?」



「……そもそも、どうして我々があなたを転生させたと思います?」


「さびしかったから?」


「魔物や危機が多すぎて、強大な力が必要だったためですよ。

 冒険者ギルドがあり冒険者がいるようなら、

 わざわざあなたのような存在を召喚しません」


「ふうん。でも冒険者ギルドあるんだろ? はやく案内してくれよ」


「コイツ、まじで自分の求める展開しか興味ねぇな!!!」


冒険者ギルドがないと一歩も進めないとばかりに、

ギルドギルドと繰り返す転生者にうんざりした矢先。


空に暗雲がたちこめ、その切れ間から巨大なドラゴンがやってきた。


「ああ……ついに来てしまった……!」


世界に災厄をもたらし、人間の歴史に終止符を打つ伝承。

その執行者たるT・ドラゴンがやってきたのだった。


「お願いです転生者さま。ここだけは力を使ってください!」


「へえ、T・ドラゴンね。これは俺のチート能力を試すにちょうどいい!!」


かっこよさげな呪文を唱えようとした転生者だったが、

T・ドラゴンの炎により秒でケシズミにされてしまった。無惨。


「よっわ!!」


これには司祭も立場を忘れて汚いことばを屍に浴びせてしまった。


けれど事態は変わらない。


チート転生者をもってしても勝てないT・ドラゴンに

もう現生人類が勝てる手段など残されていなかった。


司祭は地面にひざまずき、体の前で手を組んだ。


「受け入れましょう。私達の死を……」


司祭の言葉に街のひとたちは同調した。

逃げるでも隠れるでもなく、ただ穏やかな死を求めてひざまづいた。


街の人すべてが祈りを捧げるような状態になったのを見て、T・ドラゴンは言った。




「みんな恐怖にかられて逃げるところを滅す。

 ……ってのが、普通じゃん?

 

 こういう展開は求めてないんだよなぁ……。

 あーーあ。なんか萎えたわぁ~~……」



求めていた形式美にハマってないとへそを曲げ、

テンプレドラゴンはどこかへ飛び去ってしまった。

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