第274話 嫌がらせ の 現場
試験は一時中断。人が溺れかけたことで事情聴取がされた。
貴族の嫌がらせかもしれないがまぁ人が一人溺れかけたことを不審に思ってのことだった。ゴム手袋ことハンド君、いや、ビッグハンド君の内部に頭を突っ込んだどこぞの令嬢がいたから仕方がない。被害者はビッグハンド君の方だと言うのに……。
しかし見ていた騎士もいたことで取り調べはすぐに終わった。
陸地でも水の魔法があることで「人が溺れる」こともあるだろうし王宮内の出来事だから確認は必要だろう。一応ラズリーさんは筆頭婚約者でもあることから筆頭婚約者同士の問題だ。私だけ杖持ってるしね。
説明するとラズリーさんの名前が出た時点で渋い顔をした取り調べの騎士たち見ていた騎士からの証言もあって世間話程度の取り調べで終わったが休憩時間がものすごい伸びた。
担当の騎士のターカーとハジンと何を話していたのかと人が寄ってきた。
「取り調べです」
「「「えっ」」」
「取り調べです」
「「「…………」」」
お見合い大会の参加者にとって参加者だけがお見合いの対象ではない。王宮で働いている人を狙っている人も多くいる。参加していなくても既婚者であってもだ。
ターカーは闇属性で顎髭の……青年からダンディになりつつある落ち着いたイケメン。ハジンは水属性の騎士で性格もよく、ニカっとした笑顔が魅力の爽やかなイケメン。シャルルの部下の中でも信頼されていて誠実で仕事熱心、更には二人共精霊の加護も得ている。
ターカーは婚約者が浮気して別の人間に嫁いで傷心中のためお見合いに不参加。ハジンの婚約者は政争によって家が敵対してしまったため遠距離で手紙のやり取りをしているが……どうやら破談も決まっているらしい。
二人はいつも一緒にいて一部では謎に高嶺の花扱いされていたのだがお見合い大会によって令嬢方に火がついた。……まぁ結婚のための会だし、若い人ばかりでもないから仕方ないか。
令嬢方による熱弁で知ったのだが、どうやら彼らにはそれなりにファンがいる。特にハジンは水属性であるため水属性の私の近くに来ると殺気立つ令嬢もいるのだとか……へーそうなのかーとしか思わん。名前もどこかで聞いたことがある気がするけど覚えてない。
休憩時間が長すぎて暇になってきた。どうせゴミ貴族が私を悪者にしたくてを騒ぎ立てているのだろう。国としても何が起きたかの問題確認は必要なのもわかるが……。
エール先生の膝で軽く睡眠して疲れも取れたのだが……体をほぐしたり、全部済ませた書類をチェックをしてもまだ試験続行の指示がない。
エール先生たちにはちょっと離れていてもらって庭園の様子を見に行くことにした。
令嬢や令息の中にはずっとこちらの気配を伺ってる人もいるしその輪から抜けてみたいというのもある。フリムちゃんは狙われる草食動物ではないのだ。
寝ていたり、休んでいる私の監視役らしきお見合い参加者の輪を抜けて別の場所を見に行く。私の取り巻き一行もできるだけ音を立てずにこっそりと……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
普段急に動かない私の動きに驚いていてどこかに小走りでいなくなった人もいたけどその前に視察しよう。
急に見回ったところで何も起きてないとは思うのだが……。
「――――色目使っちゃってさぁ」
「そ、そんなことしてないです!」
おっとぉー?……庭園の影でなにか声がした。
「じゃあ私が嘘言ってるってのかい?子爵であるこの私がぁ??」
「いえ……」
「ほんっと、どいつもこいつも見る目がないねぇそう思うでしょ?」
「「はい」」
何やら言い争いかいじめの現場のような気がする。
違うな。若い娘さんが年嵩の御婦人……じゃない、ご令嬢と取り巻きに詰められている。
「私のターカーに何してるのよ?ねぇ?土臭い騎士爵の娘程度が……まさか貴女、ターカー様と釣り合いが取れるとでも?」
「わ、私はそんなつもりじゃ……」
「だいたいねぇ、可愛くもない。爵位も貴族か疑わしい貴女みたいな人がここにいること自体おかしいのよ」
「そんな、私は国の人に呼ばれて」
陰湿だなぁ。
いじめの現場なんて見たくないものなのだが……しかも原因もわからないし、もしかしたら被害者っぽい娘さんのほうがなにかしてしまった可能性だってある。首を突っ込んだとしても問題が更に悪化するなんてことも充分にありえる。
しかし、後ろについて来てくれてる人もいるし、狭めの通路で引き返すのもなぁ。一番後ろのジュリアンなんて騒いでる側の彼女らに見えているかもしれない。
「辞退するべきじゃなくて?あーあ、貴女の家とのお付き合い……やめようかしら?」
「っ!――――ごめんなさい。私が謝りますから」
「うちの領地から流れる川も、勿体ないと思うのよね。貴女のところじゃ川でなにか作ってるみたいじゃない?」
「はい、しかしそれは何代も前にお互いの領主が決めた約定で」
「だからぁ?今は私が当主なのよ?愚図で恥知らずな貴族が隣の領地にいるなんてこまるわぁ」
「…………」
ちょっと見回ってこんなのに出くわすなんて……。
庭園は広いし、どこにいるかわからないがエルストラさんがストレスが溜まった令嬢になにかされてないかという心配もあったんだけど……どうしたものか。
「だいたい貴女がいると派閥の私まで恥ずかしいのよ」
「……なぜでしょうか?」
「土臭いし、いつも流行遅れの装いでしょ。そんなのが近くにいると私まで流行遅れに見られちゃうじゃない」
「そっ……その、ごめんなさい」
「この試験用の服があってよかったわね?今ならまだいつもよりもマシよ?ふふふ」
「あらみっともない。こんな場で泣いちゃうの?」
「やーね。これだから若さしか取り柄のない恥知らずは」
「さっさと田舎に帰りなさいよ」
うわぁ……娘さん泣いちゃったよ。
でも派閥の事っぽいし、首を突っ込むと余計に拗れそうな気もする。
「だいたい何よその髪。色気づいちゃって」
「ターカー様に気があるのはわかってるのよ」
「恥知らず」
「さっさと辞退しなさいよ」
「……ごめんなさい」
「謝罪が足りないわね」
「……うっ」
取り巻きの一人には髪を掴まれ、他の取り巻きに無理やり頭を下げさせられている。
更には後ろから蹴られて地面に倒れてしまった娘さん。
「あらあら、汚れてるわぁ。きったなぁい」
「雑草にはお似合いよ」
「こんなゴミいらないわ。貴女の顔を見るだけでも反吐が出るのよ。二度と私に顔を見せないで頂戴」
「はははは惨めね!」
「調子に乗ってるからそうなるのよ!」
「ほらもっと頭を下げなさいよ!」
見てられないし――――……行くか。
「何をしてるんですか?」
「邪魔しないでもらえます?」
「躾してるだけなの……で!?」
「まずいって!」
「派閥のものを躾けておりました。お目汚し申し訳ありません」
こちらを見ずに邪魔しないでって言われたが、私に気がついてすぐに子爵のおばさんが謝罪してきた。
「何をしていたのかって聞いたんですが」
「躾けですよ。こんなに汚れた娘が派閥にいるなんて恥ずかしくて」
「あぁ恥ずかしいですね」
「でしょう?」
「本当に汚い。腐った臭いまでします」
「でしょう!リヴァイアス侯爵にはわかっていただけて嬉しいですわぁ!ディリグジア・ウェック・ハーム・グレジッグ子爵です。以後お見知りおきを――――この出会いを精霊に感謝します」
「貴女のことですよ。通行の邪魔です。<退きなさい>」
「は?…………は?」
何が起きたかわからない様子のグレなんとか子爵。
呆然としながらも私の威圧で道を譲ってくれた。慌てた取り巻きも一緒に。
「あぁジュリオン、そこの綺麗な花も摘んできてもらえますか?どうやら見る目のない人に捨てられたみたいですし」
さっさと横切って……無理だな。
気分を害したであろうおばさんたちが私がいなくなってから何をするかわからない。
「…………はいっ!」
「え、あ?ひゃあっ?!」
肩に一気に担がれた娘さん。結構な声が出た。3m超えの視界はさぞよかろう。
「活きの良い花だな。まぁフレーミス様も活きの良い花の方が喜ばれるだろう」
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