第275話 イリア の 女子会
僕を含む数人もリヴァイアスから呼び出された。
クーリディアスの王子、いや、姫として、オベイロス王と婚儀が成ればリヴァイアスからクーリディアスを取り上げられるというのが貴族院の考えである。そうエール様は教えてくれた。
クーリディアスはオベイロスに比べれば小国だ。しかし一国を侯爵が持つのはふさわしくない。
それは、理解できる。
僕の主となったフリム殿は僕とアモス殿との仲を知った上で話を持ってきた。形だけ参加しておくことは決まってしまったそうだ。ただシャルトルに嫁ぐのは絶対ではない。しかし、僕にその気があればそうしてもいいと言ってくれた。
クーリディアスがオベイロス中央と繋がることをオベイロス国の臣下である彼女は止められない。それどころか応援までしてくれる。クーリディアスの人間として、一家臣の領土よりも王の直轄領になったほうが待遇は保証される。
クーリディアスの王家の人間だった身からすれば……民のことを考えれば嫁いだほうが良いのかもしれない。しかし、リヴァイアス家の家臣としてそれはどうなのだろうか?
父上に聞くと良い縁談ではないかと喜んでいた。ムカついた。
アモス殿には目をそらされて応援された、鱗を叩き割った。
「その、悪かった。ただフレーミス様には味方が少ない」
「……わかってるよ。フリム殿がリヴァイアスほど慕われてない。王宮はほぼ敵地だってね」
アモス殿が僕の求婚を避けようとしているのがわかる。種族差や身分差もある。それに婚儀は主が相手が見繕うもの。
アモス殿には槍の訓練を習うかわりに部下の統率方法を教えている。その間、意識されているのはわかるし、それとなく手助けをしてくれる。態度で好意は理解できる。
竜人族は元々数が少ないがそれでも以前よりは見かけるようになった。商人が奴隷を連れてきてくれる。そのため彼にも竜人族の女性の部下もできていて……やきもきもした。
「わかっている。わかっているから」
「何が、わかってるっていうんだい?」
「お、俺への気持ちもそうだが――――イリアがどう選択しても、それがイリアの幸せになるってわかっているから」
「――――……っ!!?ふんっ!!!」
この男、人の気持がわかっていない。
昔の部下で同じ年頃の男と一緒にいただけだったのにくっつけようとしてくる。種族や年齢を気にして、僕の幸せを願って身を引こうとしている。
全魔力を使って肘を腹に入れてやった。
「良いだろう!僕は僕の幸せのために動くからな!」
幼き主を守って、さっさとここに帰ってくる!家臣としてなっ!!
ただ……ここまで遠ざけられれば不安にもなる。アモス殿も同族の方が良いのかもしれない。まぁ誰を愛そうとも構わん。帰ってきたらその末席には僕が座ろう――――アモス殿に嫁はいくらいてもいいからな!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これが…………これが侯爵に、国のためを想って働く侯爵に対する貴族のあり方なのか?」
「クーリディアスにはありませんでしたか?」
「あったさ。だけど、こんなにも酷くはなかったよ!」
身体を大きくして寝込んでしまったフリム殿。
悪役をやっているという意味不明な立場、それを指示したオベイロス国王との婚約を聞かされた。ダグリムたちに王都に護送されて……リヴァイアスを出てフリム殿の危うさを知った。
大国の侯爵。なのに扱いが悪い。
王位継承の争いによって主立った貴族は散り、不良貴族が多くなったという情報はあった。
国は二分されていて、クーリディアスはこの国を狙った。だから知っている
荒れた国で、だからこそフリム殿は路上で生活することになった。そして生き抜いた彼女は商家の下働きをして……王を助けた。計略もあるだろうがその血筋を持って伯爵として擁立された。初めは領地を持たぬ貴族であったが血統の中でも領主のいないリヴァイアスに出向き、大領地を有する侯爵となった。
クーリディアスの軍が敗れたのは複雑な気分だが……貴族も民もどこにも売らず、その地をリヴァイアスの大精霊が守護してくれる。
攻め込んだはずで、そんなことをすれば恨まれるのが当たり前なのに……以前よりも生活が豊かになったクーリディアス。
竜は国難に対して絶大な力を発揮したけど海賊のような小物は相手にしなかった。おかげでどれほどの被害が出て、どれほど軍に被害が出たことか……しかしリヴァイアスは違う。海から来る敵を洗濯物のようにもみくちゃにしてから人のいる場に運んできてくれる。
海から襲撃者が来ない。それだけでどれほど民が活発になったことだろうか?
しかし別の懸念が生まれた。統治者への不安だ。もしもフリム殿が倒れればその後はどうなる?今のように襲撃に怯えることのない生活は?リヴァイアスに攻め込んで帰ってきた隷属状態のままの兵や貴族は?無作為に搾り取られてはいない鉱山は?民は?貴族はどうなる?
……オベイロスの貴族からすれば、フリム殿のもつ財は何としてでも欲しいのだろう。強い貴族であるにも関わらず、中央と繋がりもないフリム殿は狙われている。
子供だからと皆で脅せば差し出すとでも思っていたのだろうか?後ろ盾は王だが、その王は貴族がいなければ国を動かせない。だから処罰も甘い。
かといってやり過ぎればどうなるか?『無敵宰相』が潰しに行く。
やりすぎない程度であっても圧をかけられれば……普通の貴族は少しぐらい譲歩してしまう。なぜなら貴族の不和は、なにか起きればそのまま敵に回ることにもなりかねないからだ。
仲間のはずなのに援軍が届かない。仲間のはずなのに物資が届かない。仲間のはずなのに……後ろから攻撃魔法が飛んでくる。家臣の誰かが死んでしまう。――――――どこの国でもよくある話だ。
同じ国の仲間のはずなのに、敵と通じて攻撃、当主が死ねば敵に物資を与えないためなどと名目をたて、混乱の中に領地を切り取ってしまったりもする。
恐ろしい話だが貴族ともなればよくあるのだ。軽い嫌がらせで何かしらの譲歩を誘うのもよくある手口。だとしてもやりすぎに感じる。この国ならではなのだろうか?
「なんにせよ、危うい」
「そうだ」
「BUMO」
自分たちの主の立場が、危ういのだ。ならば働こう。敵を打ち払おう。ジュリオン殿がフリム殿を守り、僕とダグリム殿で突き刺し踏み潰す。
ジュリオン殿もダグリム殿も武人の気質もあってなんだか気が合う。主のためならためらいなく盾にも剣にも牙にもなろうと話し合ったほどだ。
ダグリム殿はリヴァイアスの恩寵で鈴のように可愛らしい声で話せるのに、恥ずかしがって相槌はこのように返してくる。ちょっとおかしくなる。
流石にお見合いが大規模に行われているということもあって色恋の話となった。
ジュリオン殿には色恋の話はなし、他所の貴族から勧誘はひっきりなしで来るそうだ。ダグリム殿はレージリア宰相狙い、だからこそわざわざ王都とリヴァイアスの商圏の護衛の仕事よりも僕を迎えに来たほどである…………おい?
僕はといえば……アモス殿の話をするとダグリム殿はやれやれといった雰囲気だったがジュリオン殿は火を吹いて怒ってくれた。そろそろ酒も回っているのかもしれない。
「あんの愚弟がっ!!グォルルルル!!!」
「まぁまぁ……僕はアモス殿が幸せならそれで良いのさ。異種族だから子どももできにくいだろうしね」
「それでもあの子が態度をはっきりさせるべきです!昔からいつもそう!!」
「良いって」
「しかし!」
「これはこれで楽しんでいるからさ。本当に嫌がられてるなら身を引くよ……まぁ僕の諦めは悪いほうだけどね。それよりもアモス殿の若い頃の話を聞きたいな」
たまには女同士、家臣同士でこうやって酒を飲み交わすのも悪くはない。
エール殿やニャールル殿も一緒に飲んでくれれば嬉しいが主の身の回りに誰かいなければならないのはわかっている。
しかし、流石にあれだけの力を持って威圧したのだから、この王宮で侮る人間は減るだろう。これからは少し楽になるはず……そう思っていた僕は甘かった。
まさか治療の大魔法が何十人にも使えて王宮が半ば戦場のような有り様になるなんて思っても見なかった。
情報収集を皆で行ってできるだけ事前に阻止しているが……男衆もワーも忙しそうである。土の家のリーザリーちゃんと火の家のテルギシアちゃんも手伝ってくれている。
悪意はどれだけいるのかはっきりはしないが戦えないわけじゃない。味方してくれる人だっている。カレーで騒いでる貴族とかきっとカレーの供給のためなら派閥当主の首を取ってくる。
もう少しフリム殿にはもっと僕らを頼っていただきたいが……誰かに頼ればその誰かが傷つくことも考えられるし、裏切りが当たり前のこの国では――――難しいんだろうなぁ。
しかし、シャルトル王のために悪役令嬢をすると張り切ってるようだけどあれは悪役なんだろうか?人のために頑張ってる姿やウンウン唸ってる姿を知っているからかとても「悪女」が出来ているようには見えない。
見てもわからないような歪みのある菓子を出したとか若い娘相手にムキになってるおばさんをへこませてやったと自信満々だが、いや、うん、きっと彼女なりの悪役のつもりなんだろう。報告後には悪いことをしてしまったと少し落ち込んでいるあたり、やはり誠実で優しい。
「せんす」という顔を隠したり風を送る道具を使って『悪役に見える立ち振舞いの練習です!』なんてやっているようだが……ちょっとよくわからない。
なんにせよ優しすぎる、仕えがいのある主だ。家臣である僕らもしっかり敵を打ち払っていかないとな。
「言うことを聞かない怪我人が運ばれてきました!貴族様なので対応お願いします!」
「はいはい……っと」
まだまだ休める日が来ることはなさそうだ。
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