第240話 魔導鎧っ!!


「これほど、かっ!!?」


「さっさと負けを認めてください!伯父上!!」



両手に持つ曲剣でこちらの剣を受けつつも逸らした伯父上。完全に逸らされたが……それだけで体勢を崩せた。


フリムちゃんラブなどこぞの従姉妹のお姉さん情報によると伯父上は電撃の魔法を防ぐ魔道具を身に着けている。それでも電撃は完全に防げるものではないそうで動きはかなり鈍い。


ローガ将軍の攻撃は激しい一撃だったはずだが、伯父上が持つ片刃の剣……見た目は刀のそれを離すこともなかった。



「なに……?――――がっ!?」



剣を持つ右手首の内側を伯父上に切り払われた。


しかし、この戦いの前に刃物は刃引きされている。切れ味のあまりない剣で切られたとしてもこの鎧には傷一つつけられないはず。


驚く伯父上を玩具のように左腕で弾き飛ばした。


吹っ飛んだ伯父上を追撃するべきかもしれないが……一応ダメージが無いか確認するべきだ。



ローガ将軍が『雷剣』からの電撃から無事だった理由は私が用意したゴム製の鎧でもある。……動きにくくて視界も悪かったことだろうから『天剣』に投げつけられた剣が直撃した理由でもあるかもだけど。


王都のリヴァイアスの屋敷に入り始めたときには謎セキュリティで人が死んでいた事もあって「一撃ぐらいは耐えてみせますフルアーマー」を使っていた。


なにせ「入ると死ぬかもしれないお屋敷」とか怖すぎる。だから安全のために分厚い金属製の鎧を使った。


全身を覆う金属鎧で……全く動けず、台座と車輪付きで敷地に入って安全を確認していた。



――――あれから私も色々考えた。



様々な危険があるこの世界。お金を使って安全を求めるのはありなのだ。


ただ、それが出来るだけの道具や装備は……お金を払ってもなかなか手に入れられない。


情報を得るための人員や警備の人数を増やすのにお金を使うのはまだ有効だとは思うのだが――――想定しているのは「警備を抜けて襲われた場合」や「警備をつけられない状況での強襲」だ。


それに人がいたとしても防ぎようのない火魔法や電撃、それに風の魔法なんてものもある。火や電撃が相手では……どんな対策をしたって無意味である。むしろ全てに対応できるようにした場合は筋力皆無の私は魔導具と鎧の重さで逃げにくくなることだろう。


リヴァイアスでは海での戦闘ということもあって鎧をつけることは出来なかった。



しかし、ゴムの開発によって水の腕の魔法でゴム手袋によるハンドくんが誕生した。



そこで思ったのだ。



あ、これ使えるんじゃないか?……と。



試しに作った試作ラバースーツでは密着して着ると私の筋力では動かせなくなった。ゴムは製造時に多重構造にして破れにくくもしているし。着るのも脱ぐのも大変なものになってしまった……電撃を防げても、動けなければ意味がない。


そこで鎧を大きくして水で動かすことにした。


巨大フリムちゃんとハンドくんのように、私がゴムの鎧の中に入って中から水で動かせば良いのだ。


最初は今までにも水の腕で自身の身体をクモのように持ち上げて移動はできていたのだしクモ型形状にしようかと設計した。お尻の部分は水を貯める場所で足は自分を支えるのに必要ではあるが便利だと考えたのだが……しかし、ゴムの素材のみでは全然体を支えられなくて駄目だったのでボツ。


結局は動かしやすい人型となった。というよりも開発によって形状がぜんぜん違うから動かす操作感が違って、皆が作る馬車型鎧やドラゴン型鎧はまともに動かせなかった。



ゴムも丈夫なゴムにするのに黒いから炭か何かを混ぜていると思っていたが違っていた。強度のあるゴムの研究は難航していたがフィレーが似たような素材の研究をしていたこともあって火山周辺から採れる臭い薬品とやらを混ぜ込むことで凄まじく強度は上がった。


お陰でゴムタイヤもこの鎧の強度も上がった。空気入りタイヤに一歩近づけたと思う。なにか頭に引っかかるような……前世の記憶に心当たりがあるような気もするが……まぁ強度が上がったなら良しとする。



これまでいろんなものを開発し、素材に環境……人に頼れる手段があった。



守護竜王の鱗と革、ゴムに針金、スプリング……これまで作ってきたあらゆるものを使って作ったのがこのフルアーマーフリムちゃんversionⅥだ。六号機はもはや全身金属鎧であった一号機の原型を残していない。


今では身長四メートルほどの全身を覆う人型魔導鎧だ。



ゴムだけでは関節がボヨボヨで必要な防御力は得られなかった。


だから守護竜王の革を各所に貼り、針金を使って鱗も配置。骨格は金属の骨組みを作ってなんとか安定した。足回りのスプリングで安定させるのも大変だった。




「伯父上ー!降参しませんか!!?」



鎧の各所にはガラスのレンズが付いていて周りも見れるし、細々した魔道具を使って外部とコミュニケーションもとれる。



「舐めるなァっ!!」



水の砲弾がいくつか来た。あの刀は杖の役割もあるようだ。


こちらも鎧の状況を確認しつつ、水の砲弾を水の壁で受け止める。



ゴムを溶かして布や針金に溶かして重ねるだけでも人の手で千切れない強度だったが今では最初期の開発ではありえなかった強度である。ゴムの部分だけであっても一般兵が普通の剣で頑張っても貫通すらできなかった。


まだまだ分厚いし、品質には満足していない。重量は相当なものになったし内部や外部の形状で動かしやすさはもっと追求できるはず。外骨格と内部の骨組みのバランスもまだイマイチな部分もある……それでも電撃を軽く防ぐほどの耐性は得られたので採用した。



この魔導鎧は自身が操る水で動かしているが、もしも穴が空けられればそこから伯父上の水が侵入しかねない。


見にくい視界ではあるが手首はやはりノーダメージと確認できたし、追撃する。



「「<水よっ!>」」



お互いの水の砲弾で打ち合う。


伯父上までの距離は15メートルほど。普段なら完全に私が操れる範囲なのに、操れるのは伯父上との中間地点までである。


守護竜王との戦いでも竜の近くの水は操れなかったが伯父上もそうだった。



「ぬぅっ!!?」



こちらの水の弾丸は結構な質量を連射しているが、水だけあって伯父上に当たっても決定打になっていない。


伯父上の水のほうが速く、固い気がするが……自身を中心に7,8メートルほどの距離であれば私の水の領域である。


コントロールをできるだけ奪えば威力は大きく減衰できるし逸らすか飛んできた水をそのまま反撃に使うことも出来る。伯父上の水の砲弾が直撃することもあるが魔導鎧の表面の守護竜王の鱗は水の魔法を大きく防ぐ効果があるようだ。


伯父上は生身で、限界はあるのだろうが……私よりも水の扱いが上手い。



「良い、鎧、だのぉ!!」


「ありがとうございます!」



この1ヶ月、本気で準備した。


お金も、材料も、人員も湯水のごとく使って……あーだこーだと防御力を増やしたり動きやすい重量を考えたり、関節部のゴムと、前面部のゴムを別にして強度を上げたり……うん、元の原型はあんまりないね。


リヴァイアスの領地のように海があったり広大な範囲に魔法を使えるわけじゃない。


だけど身体に近いほど水は操りやすく、近い範囲であれば水は自在に操れる。だからこの魔導鎧を動かすことが出来るし、これであれば私の戦闘能力は大きく増すはずだ。



まぁ、うん。安全が第一だ。それは確実である。うん。学園での学びというものは「その人の人生をより豊かにするもののためにある」わけであって……その場でやる勉学以上に大切なものがあればそちらを優先するべきだ。冠婚葬祭やスポーツ、病院での療養などなど…………だから―――――単”位”を”犠”牲”に”し”た”の”は”ま”ち”が”っ”て”な”い”は”ず”だ”。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




後は私が仕留めて終わりのはずだったのだが、伯父上が予想以上に粘って膠着状態が続いている。


動きの鈍い伯父上だがお互いの水魔法によって前に進めない。


私も前に出て攻撃したいが水の砲弾を撃ち合い奪い合うという作業はしたことがないし、水の砲弾の数がドンドン増えてきた。


コロシアム状のこの修練場は嵐のようになってしまっている。審判も何人か流れ弾で倒れていたし……もはや「何処かの出入り口か出て勝利」という競技ではなくなっている。


数百発の水のコントロールを奪い合って打ち合っている。視覚外でも自分の領域に入ってくる水の砲弾をそらすかそのまま再利用して打ち返す……集中すればなんとかなる。


私の水の砲弾も大の大人を吹っ飛ばせるほどのはずなのにたまに被弾している伯父上はなんと頑丈なことか。


しかも、伯父上は水の砲弾を奪い合いをして打ち合う中で私の領域をじわりじわりと奪ってくる。


ここで別の手段を取れば「この戦い方では負けた」と言うようなものなので氷結も熱湯も使えない。



出力と技量は同格。耐久力は段違いのはずだが……やはり一日の長があるということだろう。



電撃で弱っていなければもっと強かったのかもしれないと考えると恐ろしい存在だ。



「良い攻撃だ!だが甘いぞ!」


「ぐぅ……」



私の視界には確認できていたが、エルストラさんが伯父上の後ろから奇襲をかけたが失敗した。エルストラさんはお腹に水の砲弾を受けてしまった。


エルストラさんは雷剣が護衛についているだけあって伯父上と同じく電撃防御用魔導具を持っている。


雷剣殿とヴェルダース伯父さんには「電撃用の魔導具は奥の手であるため今日は装備していない」と嘘をついた上で装備して競技に参加した。その分、手加減があったはずだ。


娘が「防御用の魔導具を持っている」とわかれば出力を上げてくる可能性もあったからね。まだ痺れていたのか出入り口でこっそり待機していて、奇襲をかけたようだ。


本当はその魔導具を人数分手に入れたかったがとても希少なものだし、その魔導具は使用者が死ぬまで変えられないらしい。



「しかし、本当に驚いたぞ。『雷親父』を連れてくるとはな」


「あら?準備していてよかったですね。でなければ終わっていたでしょう」


「ははは!言いよるなぁ!エルストラは甘かったな!」



まずいな。膠着状態とはいってもかなり消耗させたはずだが……伯父上はエルストラさんの奇襲を防いだ上に余裕が生まれている気がする。



「……こんなにも強かっただなんて」


「…………これまで、お前には見せていなかったからな。すまんな」



高揚していたように見える伯父上だったが苦々しい顔になって……エルストラさんの杖を奪った。

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