第238話 開幕の一撃っ!!
「おそらく、出ても痛い思いをして終わると思いますが大丈夫ですか?ミリーも」
「……うん」
「やれるだけやってみるよ!出ても出なくてもいいみたいだけど出れるなら私も頑張るよ!」
テルギシアとミリーの意思確認はできた。……本来なら命のやり取りとか無いはずの模擬戦闘。
なのに、誰もがこの訓練に命がかかっているとわかっている。
「まぁこれがあれば、むしろヴェルのほうが痛い目を見ると思うのじゃが……」
「頑張って準備しました!ユース老先生も手助けありがとうございます」
「なぁに、生きていればこんなこともある。……儂らは杖を掲げてこの競技を見定めるからの。何かあればすぐに言うがええ」
ユース老には事前に数度言われていた。何かあれば介入すると。
学園としても生徒が虐殺されるような事があってはならないと考えているのがわかる。
「はいっ!」
私は持てる全ての力を使って『考えられる限りの準備』はした。
――――後は、なるようにしかならない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お互い死傷者が出ないようにしてください。特にルカリム侯爵。わかっていますね」
「わかっとる」
「彼女は既に『賢者』としての地位を得て!学園でも大きな功績を残しておりますから!」
ジロッと厳しくヴェルダース伯父上に伝えるフィレー。
「では、フィレーネ・シヴァイン・エンカテイナーが学園の長として審判を執り行います。ルカリム侯爵は襲撃者の役として所定の位置に!では開始!」
会場入りしていない自分たちにも声が聞こえる。
修練場の中央に伯父上が待ち構えている。私たちは何処かの出入り口から入り、また別の出入り口から出られれば勝利となる。
超魔力水を飲ませてフィレーが復活した。審判としてフィレーが主審、会場は広いことから数人の副審が修練場に配置されている。
開幕は『雷剣』ブレーリグス殿の電撃が来ると予想している。
きっとエルストラさんが死なない程度に、全員が倒れる威力で。……それが成功すれば「リヴァイアス侯爵はなすすべもなくルカリム侯爵に敗北した」という噂が流れるだろう。
そして、仕切り直し。こちらの陣営は電撃で体を痛めた状態で二度目三度目と私を痛めつけたりもできて…………最悪、殺しに来るかもしれない。
何回やるかは指導役の気分次第だ。
――――だが、そんな事させてたまるものか。
ここで勝って……エルストラさんにやりたくないことをしなくてもいいように、私に刺客が向けられないように、シャルルもこれ以上悩まなくてもいいようにしたい。
ライアーム派閥の中核を担うヴェルダース伯父上が少女である私に大敗すれば、水属性のみならず多くの人間が派閥替えを願い出てくるかもしれない。そうすれば、内戦も起こらない……かもしれない。
情報の伝達が酷いこの世界だ。勝者と敗者が入れ替わって伝わるなんてこともあるが……この一戦の結果によって、オベイロス全体の貴族の行く末が、未来が変わるかもしれない。
国のためというよりも「自分」と「自分の大切な仲間のため」だけど――――やると決めた。
周囲を仲間に取り囲まれた状態で出入り口の一つから修練場に入る。
「グッ?!」
「つぁっ?!」
「っ!!?」
修練場に入る直前の通路だと言うのに電撃の光が見えたと思ったが……競技参加者は私ともう一人以外、倒れた。
「すまんの。一瞬遅れた」
……こちらからも雷撃を放つ人間がいるのだから当然の結果だ。
倒れたヴェルダース伯父さんも驚いたことだろう。こちらにも雷属性を使う人物がいるのだから。
会場内の審判も数人巻き込んでしまっているの申し訳なく思う。
「政治嫌いな『自由将軍』がリヴァイアス侯爵の護衛として出ているだと!!?」
「我が孫娘を政治に使った愚息を懲らしめようと思っての!」
護衛役に連れてきたのはジュリオンでもアモスでもなく、自由将軍ケディ・ローガだ。
倒れ伏せる伯父上たちだが…………一人足りない?
お互いの電撃の射線上にいなかった『天剣』殿が空から強襲してきた。
雷がローガ将軍から舞ったものの、先に『天剣』から投げられた訓練用の剣がローガ将軍に直撃した。
「ぐぁっ!?」
「ローガ将軍!大丈夫ですか?」
「あぁ、だが儂も動けん!」
「一旦そこまで!動けないものは回収する!」
審判の一人であるインフー先生によって電撃で動けなくなっている人間を戦闘不能として回収されていく。相手は手加減ありの電撃だったようだが、ローガ将軍のほうが見るからに一段と強い電撃だった。絶対倒すべき『雷剣』殿も倒れている。
現在立てているのは自分のみ。これで試合終了であればいいのだが……事前情報によるとそうもいかないはず。
ド派手かつレアな雷属性同士の攻防に観客の生徒は盛り上がっているが、まだまだ油断はできない。
「……すまん、動けん。良いのをもらってしまった」
「ゆっくり休んでください」
「この鎧は動きにくくて仕方ないの……武運を祈る」
刃引きされていても金属の塊を猛烈な勢いで受けたローガ将軍は倒れたままだ。意識はあるようで少し安心したが……想定済みである。
ローガ将軍は「弟を連れてくれば何でも願いを叶える」と言うのは有名な話だった。
生きてるかどうかはわからなかったが弟さんの姿を探しに王宮の謎の絵の部屋を調べに行った。オベイロスが始まってから全ての貴族の血縁者がそこで見れる。
最近レージリア宰相が思い出して使われるようになった部屋であるし、侯爵以上でなければ使えない。ほとんどの貴族にも知られていない部屋であり……当然ローガ将軍も知らなかった。
ローガ将軍の弟さんは自分の家の継承権の問題で行方不明となった。
ローガ将軍は歳の離れた自分の弟が可愛くて仕方なかった。弟はかなり年齢差があり、自分と同じく雷の属性が使えて……その母親の身分が低かった。
何があったか詳しくはわからないが、自分の家の人間が自分の可愛がっている弟を……追放、もしくは殺害してしまった。
この事件をきっかけに政治が嫌いになったローガ将軍は実家を出て国内外に゙軍を率いて弟を探し回った。
とは言え何十年も前の出来事である。そもそも弟さんが生きている可能性はほとんどない。何処かに追放するぐらいなら殺して土の下に埋めるなりしたほうが確実で手っ取り早く、生存の可能性は限りなく低い。
王宮にある謎の部屋の絵もカラーかモノクロかで生死はわかるがネームプレートがあるわけではない。並べられた順番でどこの家の誰かを推察していくしか無かった。
一応ローガ将軍の弟は絵に残っていた。その姿は「紫の髪の毛が可愛い天使のような男の子。フリフリのレースで小柄な少年」……ひと目見てモデルのようなすごく可愛い子だと印象深かった。死んでいればその姿でモノクロの絵が残っているはずで……その確認ができればそれだけでもローガ将軍にあきらめが付くだろうし、そうでないのなら可能性はあると知らせることも出来る。
私が自分の姿絵を見かけたときには「その日の服装」で絵が描かれていたし、生きているなら何らかの情報を得られるかもしれない。商人をしているのなら商人の服で、冒険者をしているのなら冒険者の服。外国にいるならガニューラのように外国の服を着ているかもしれない。
死んでいれば人の死を利用して、ローガ将軍に何らかの譲歩を求めてる気がして嫌だなと頭をよぎったが……「生きていればローガ将軍は喜ぶ」と自分を納得させて絵の照合を進めていた。
この人かこの人かと調べていくと――――見たことのある顔の人物がいた。
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