第231話 食料っ!!


わちゃわちゃと迷宮を進む。観光地の洞窟探検コースのようで物珍しいなと思う程度だったのだが……暇だった。


魔物も魔獣も出てこない、罠もなければ怪我人もいない。ただ少し明るい洞窟を進むだけ。



「流石にこの人数ですからね。でもこの迷宮と同じ種類の迷宮は少ない人数であれば恐ろしいんですよ?あそこを見ていてください」


「……?」


「しばらく見ているとわかるかと」



ナーシュに言われて、遠くのなにもない壁を指さされて集中して見てみる。


罠でもあるのかと思ったのだが……よく見るとゆっくり迷宮が揺らいでいる?



「動いていますね」


「道筋が変わるほどではないのですが、初めての迷宮で来た道がわからなくなると方向がわからなくなりますし体力も消耗します。来た道と歩いた感触が違うだけでもおかしな感覚がするものです」


「ほー」



ナーシュ先輩はガイドとしても優秀なようだ。人がいる場所はほとんど変化しないが、人のいない区画はほんのり変化する。しかし、来た道と全く違って見えるのなら迷ってしまうかもしれない。


このダンジョンには子鬼と土人形、それと大きめの甲羅つきイノシシが出てくる。


事前に説明を受けていたが学生向きだな。子鬼は村を襲うし、土人形は倒すと魔石が取りやすい。イノシシは若干強敵ではあるが美味しいので人気。


通路の輪郭がゆったりと変化するためなのか、迷宮にはあってもおかしくない罠もない。地図の確認の大事さを学べるだろうし致命的に迷うこともない。学生の訓練用には丁度良いダンジョンなんじゃないかな。



「僅か1日ですが気を抜かないようにしましょう」


「「「はいっ」」」



水の魔法使いはダンジョンの中心で野営の準備だ。それと休むのが仕事の内らしい。


初参加の生徒は「団体行動」なども実地で教わるそうだ。大体の初参加の生徒は勝手に行動して少しは怒られるものらしい。私の場合は刺客がいるかもしれないしそんなことはしないが。


少しひらけた場所で土の魔法使いが小さな壁を作って私たちも……なんちゃって設営をしていく。


あくまで実地訓練のためか侍従たちが見守る授業参観のような気がする。平べったい場所を選んで絨毯とクッションを置くだけ、難易度が凄まじく低い。


ただ、絨毯の角度やクッションの置き方に美的感覚が必要らしい。



「これは……?」



事前に学んだ内容に「クッションや絨毯、シーツの並べ方」はなかったがなにか伝統と意味があるらしい。


私達のいる場所では円形にクッションを置いてお互いの顔が見れるようにしているが。別の区画では等間隔に並べたり、1メートルほどの高さのある台が作られたりしている。


ダンジョンなのに余裕な気もするが……露払いは終わっているし騎士科の生徒も外に向かって整列している。



「あれは治療の観点を考えて設営する方法です。火の魔法使いや風の魔法使い、土の魔法使い、水の魔法使い、侍従、護衛、一般兵、高位貴族、酒場、水場、食料保管地などに区分されます。ただいくつかの設営方法があるのですが今回はこの形となりました」


「なるほど……」



私には考えもなかったが好き勝手な場所にテントを建てるのは良くないと思う。この団体行動では設営術を学ぶ機会でもあるようだ。私達は休んでいるが周りは色々と忙しそうだ。


火や風の魔法使いの寝る位置、怪我人が運ばれるであろう石のベッド。侍従専門のエリア……区画がある程度決まっている。


土魔法使いが地面に線を引き、壁や天幕を設置している。地面には区画がわかりやすいように文字も書いていってくれている。


本来なら天候も考えてテントも張るなどするため、もっと大荷物になるようだがここはダンジョンで雨も風も心配がない。私たちがしたのは敷物とクッションを置いたのみである。先輩方によって美術的観点から微調整中。



後は土魔法使いによる水瓶が出来たら水を順番に入れていくらしい。



指導員の見ている横で土属性の学生が指示し、計画的に要塞化が進んでいるようだ。好き勝手に作ってしまうと駄目なんだろうな……もしもフリムちゃんが一般兵だとして自分のテントの前に王様のテントとかあったら怖い。


土の魔法使いは要塞化や設営では右に出るものはいない。クライグくんもなにか作っているようだ。


戦いたがりな生徒の中にも高位貴族の子弟はいて、彼らの世話はしなくともこのキャンプには何人も護衛や侍従がいる。授業参観のようである……水魔法の侍従だけではなかったか。


本来は魔法使いの比率がもっと少ないし一般の兵士が多くなるからこんなに早くは出来ないらしい。


従者の人たちは水魔法の侍従と違って基本的に戦闘にも設営にも参加しないが緊急時には彼らが壁となって戦ったり、何かしらの緊急時にはちゃんと戦うようで武装をしている。…………私からすれば皆刺客に見えて仕方がない。


エルストラさんが私を守るように指示を出してくれてるからか、先輩方に囲まれていて問題は無さそうだが……手持ち無沙汰だ。暇なので料理する。



「ニャールル、ワー。準備はできていますね?」


「にゃー!」

「わーの自信さーく!」



事前に申告しておいた通り、料理を作る。



かまどを作ってもらい、ニャールルとワーとうちの関係者の持ってきた大鍋から材料を取り出し、一度鍋を水で洗う。


カレーは香辛料も使うし結構な香りがするから駄目かもと思ったのだが事前に許可はとった。


強い香りに反応する魔物が出る場合もあるが、ダンジョンの入口から結構奥の方まで魔物は駆逐されるから問題はないようだ。


同時にご飯も炊く。既に焼いたパンも持ってきているしちょっとした実験もする。



外で作る食事を考えれば既に調理された携帯食料でも良い。だけど調理できる環境であれば……水の魔法って結構便利なんじゃないかな。


食料を運ぶとなった場合に水は大事だ。人は1日に1.5Lから3Lほど飲む生き物だと習った。年齢と体重に、食べ物から取れる水分もあるから一概には言えないが。


水は1リットルが1キロほど、活動量も考えて飲む水の量も増えるとして2リットルから4Lと考えてみる。間を取って3Lで計算するとしても1日の行動に3キロの水を持ち運ぶのは結構な運動になるはずだ。


水の魔法があればその運ぶ水の重さはなくなる。しかし、食材や携帯食料はどうしても持ち運ぶ必要がある。


ならその食材も何が効率がいいのか調べてみようと思ったのだ。


日本人には馴染み深いが米は水分で大きくかさを増す。自分で計測すると炊く前と炊いた後では2倍も重さが変わった。そして腹持ちも良い。


カレーもある程度ルゥさえあればある程度の味にできる。誰が調理し……仮に少しぐらい失敗しても濃い味がある程度美味しくしてくれる。


だからカレーとパン、カレーと白米、それと――――



「フリム様、この細いのも美味しいね!」


「カレーうどんです。どれが一番美味しいですか?」



出した全ての種類をたくさん食べているミリー。


顔にカレーが付いているが相変わらずよく食べている。



「えぇ……一番この白いのとカレーは合うし、味気ないパンもカレーでいくらでも食べられそうだし……慣れないけどこのうどんがカレーと絡んで一番……一番…………一番、わ、わかんないや」


「なるほどどれも美味しいってことですね?」


「うん、どれも美味しい!私の田舎じゃこんなに美味しいもの無いっ!!」


「ありがとうございます。好きなだけ食べてくださいね」


「うんっ!」



今回は持ってくる食材は厳選した。うどん以外にもいくつかの食材を粉末にして麺にしてみたのだが……そばのように強いアレルギーが出たら毒と言われかねないのでパンと同じ麦から作ったうどんを持ってきた。


パンは焼いた後にそのまま持ってきていたが、パンは焼いた後に場所も取るし湿気に弱いため保存に気を使う必要がある。


白米は粒の状態で運べるから効率が良い。うどんはまだまだ開発不足もあって割れも多いし味と食感もそこそこだ。だけど、米が炊きあがれば元の米の2倍ほどの重さになるのに対して、乾麺のうどんは茹で上がった後に3倍ほどの重さになった。それだけ水分を吸っているのだ。


――――『水を出せる』という水魔法の利点を考えると白米や乾麺は結構ありな選択肢なはず。パスタでも良かった……ただ、今回はカレールゥの使用も考えて相性の良いうどんだが…………もう少し腰が欲しくなる。茹ですぎたかな?



「とても美味ですわ」「この一杯にどれだけ香辛料が使われてるんだろう」「辛いのが良い」「食べにくいな……鎧に飛び散るぞこのうどんとやら?!」「私リヴァイアスに嫁ぎたいかも」「肉がうまい。何だこれ?!」「そこの肉を入れてくれ。そこの大きいやつ、そうそれだ」「美味いなこれ!!?これはどこの料理だ!作ったやつを領地に連れ帰るぞ!」「おかわりしてくる」「激辛も言えば作ってもらえるぞ」「甘いのが最高に美味いのに何言ってるんだ」「そっちの食わせてくれよ」「土みてぇな色だな」「激辛食ってみろよ」「王宮で流行りの味ってこれかな?」「お前の肉デケェ?!」



どれも好評のようで良かった。カレーは子供に人気である。いや、大人にも人気だな。騒ぐように食べている。


甘口が多めで、中辛と辛口のカレーもある。ある程度辛さも調整できるが、なんか激辛とか言う私の知らないメニューもあるようだ。


意外と中辛が人気、動いて汗をかくからかな?香辛料が王宮で流行っているからかな?パンが一番減っているが白米もうどんも凄い勢いで減っている。


子供は子供でもよく動く子供はよく食べるようだ。一応よく食べる人の存在はミリーで知っていたし、2宰相分ぐらいは残るぐらいの材料を持ってきている。余らせるぐらいじゃないと貧乏とか吝嗇って思われそうだしね。


ワーにはカレーを作るのに貢献した開発者であるし後でボーナスを上げよう。


何人かは敵対派閥である私の食べ物は食べないという人もいるようで……リーズが私を睨んでいた。テルギシアも横で携帯食料を食べているようである。エルストラさんは食べてくれるがブレーリグスは食べないようだ。


テルギシアはどっち側かわからないが、リーズが説得してくれることになっている。……できれば敵対したくないんだけどなぁ。

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