第229話 前世っ!!


フリムの話はあまりに聞き馴染みのないからか……聞いた側から精霊が持っていっている気がする。


……1億人以上の人間が住む小さな島国で、その世界には魔法はないが「かがく」がある。政治も学園のように選挙をして貴族のような代表者を選び、国政を任せる。医療が充実していて3割負担が当たり前。……もうほとんどわからない。全く別の国の話のようだ。異世界だったか。


とにかく話を聞いて、たまに質問をしてみるが……フリムの妄想などではなくしっかりした答えがあるようだ。フリムは説明がうまく、こちらにもわかりやすく説明してくれているようだが……こちらにはない言葉がどうしても出てくるからわからない部分も多い。1億もの人がいる小さな島国ってどういうことだろうか?


結婚も30ではしないことも珍しいことではなく「しょうしこうれいか」となっている。どこの建物にも「じゃぐち」があって、水を飲むこともできたし「せんたっき」で誰しも服が洗える。毎日お風呂に入っていて、奴隷という階級がなかった。


これだけの知識人であれば奴隷でなくとも侍従が多くいてもおかしくはないし、貴族だったのかもしれないな。いや、貴族はいない国だったか?


こちらのものとは違うが可愛い服もたくさんあって服に困ることもなかった。「わふく」という自国の民族衣装も美しいものが多かったが余り着る機会はなかった。


彼女の仕事は経済を調べることで、経済は調べると様々なものを見ることが出来て面白かった。一応「しゅにん」という役職を持つ部下を持つ管理職で、結婚はしていなかったがそれなりに楽しい日々を過ごしていた。家族とは仲が良く、歳の離れた弟と妹がいた。


何を言ってるのかわからない部分も多いし話したいことも服やら経済やらでバラバラだが…………とにかく溜め込んでいたようだし聞いていく。


美味しい「ちょこ」というものがあり、それは全世界から愛される定番のお菓子だった。誰もが食べ物に困ることはなく、捨てられる食材は多くあって「ふーどろす」が行われていた。お酒も自分から飲む方ではないが数え切れないほどたくさんあった。「しょうゆ」や「みそ」が…………話していくうちに日本とやらの国の言語が増えてきて理解が追いつけなくなった。


しかし、この小さなフリムだが、ここまで多くの知識があり、多くの経験をしているのなら。言葉の端々に気になる部分が出てきた――――


「待ってくれ」


「なんでしょう?」


「いや、悪いことではないのだが……まさか、フリムは」


「…………はい」


「――――そこそこの歳の女性だったり、したのか?」



言葉の端々に何やら高齢な印象を感じたから聞いてみた。


幽霊は大人で、子供もいるかも知れないという考えはあったが。死ぬ前も子供だったわけじゃないのか……確認のために聞いてみた。



「っ!!??そ、そこは気が付かないでくださいよ!!?」



いきなりうつ伏せになったフリムは小さく「ぐはー」と鳴いて、すぐに飛び上がった。延々と異世界について教わっていたが、この質問にフリムは大きく動揺したようだ。


以前からエールには「女性の扱いがなってない。喋らないほうが良い」と言われていたが、酷いことを聞いてしまったようだ。しかし俺だって驚いたのだ。まさか――――


「す、すまん。まさか年上だったとは?!」


「か、体が若いからか、今は多分精神も若いんで若いはずです!若いんです!?」


「ま、孫とかいたのか?いや、子供とか」



話に出てきた「ようちえん」とやらが学園に相当するのだとすればそこを15で入学したとして、そこから18年学べば33歳。更に仕事で役職を得るのなら下積みを含めて……いや身分が高かったのなら3年ほどでつけるか?優秀そうだし2年として35歳だったのではないかと推測できる。もしかしたらもっと上の可能性も――――


「いませんよ!男の人と付き合ったこともなかったのに!――――………なんですかその顔!行き遅れとでも言いたそうですね??!」


「そ、そうだな?あ、い、いや、そんなことは……あ、そうだ。なにか恨みとか残していたりするのか?」


「露骨に話をそらしましたね?私のいる国では晩婚化が進んでいたし私は役職もあって……いや、まぁ良いでしょう。恨みなんかはありません。子供を助けようとして、エスカレーター……自動で動く階段に落ちて亡くなりました。恨みなんかはほんとにありません」



先程まで肯定したり話を聞くばかりで「そうだな」なんて口に出してしまった。フリムの魔力が一瞬跳ね上がったが……すぐに持ち直したようだ。


しかし、なんとも恐ろしい階段があるようにも聞こえたが……とにかく誰かに恨みがあったわけでは無さそうだ。



「フレーミス、さんは」


「フリムでいいですよ?シャルル。いつも通りにしてほしいです」


「色々聞きたいこともあるが、とにかく俺は悩むフリムの力になろうと思ったのだ。それだけはわかって欲しい」



真剣に向かい合って伝える。大事なことはちゃんと伝えねばならない。



「ありがとうございます。まだエール先生には内緒にして下さい。聞かれているならそれでいいですが……ジュリオンは聞こえてますよね?」




「私はどんなフレーミス様にもついていきますから大丈夫です!」



扉が開けられ外にいたジュリオンが一言言った。この部屋の声は他に聞こえにくい作りなのだが……さすがは竜人族だな。言いたいことを言ってジュリオンはまた扉を閉めた。ん?あれ?……この部屋は特別製で、俺が開けない場合には爺が本気で開けないと騎士団総出でも開かなかったはずなんだが………………まぁ良い。


以前から俺はジュリオンに信用されていないが……もしもフリムが本気で悲鳴を上げたら俺は殺されるだろうなぁ。



「何故だ?」



エールなら仕事が終わって戻ってきているのならおそらく隣の部屋で話を聞いているはずだが……隠す必要があるのだろうか?



「私は大人の精神もありますが、たしかに子供として生まれ変わりました。自分でも子供らしい部分が出ているかもしれません……いや、違いますね。異質な存在であると自分でわかってるのに、それを自分で誰かに伝えるのは……やっぱり怖いです」



エールならフリムがどんな存在であれ受け入れると思うのだが……。


フリムも前世の話をして少し揺らいでいるようだ。話す内容も政治だけではなく食べ物や家族。身の回りのことまで幅広かった。



「そうか……俺は今まで通りでいいか?対応を変えると周りも驚くだろうが」



聞き出したのは俺だし、彼女には心の準備なんて出来なかったはずだ。


……いや、何歳になっても話さなくても良いような内容だ。賢いフリムなら話さずにすむのならできる限り話さないという選択肢をとったはずだ。俺に打ち明けても良いと思われているぐらいには信頼されているのだと思えばその点は喜ばしい。


ただ、まだ……迷いがあるのか、フリムはどこか苦しそうだ。エールがいる場で話したほうが良かっただろうか……?



「はい、今まで通りに接してくれると嬉しいです」


「わかった」



エールには聞かれているならそれでも良いが、できれば顔を合わせて話す気でいるようだ。


そうして、また異世界の話に戻った。


不正防止策は様々だが「ぼき」というものが経理では凄まじく使えるらしい。オベイロスにその計算方法が使えるかは不明だが、良い部分は取り入れたいと思う。まずは俺が学んでみることにしよう。


特に3割負担と薬師の免許制度という制度は良い。国民からとる税をどのように使うか、その中でも治療費や薬代の内3割を怪我や病気をした人が負担する。医師も薬師も国が認めた免許を持ったものが行う。


なぜ全て負担しないのか聞くと小さな怪我でも何度でも通いに来る可能性なども加味して『制度は悪用されることを前提』でやらないといけない。


医師と薬師は架空の怪我人や病人を作り出し、税金から好き放題に使われてしまう。しかし、民が少し払えば証拠が残る。


民が健康であれば国力は上がるし、これは必要な税の使い方であると主張された。それと『こせき』と言う国にどれだけの人がいるのかの詳細を把握する制度とやらだ。どこに誰が何人住んでいるのかがわかれば「計算」ができる。


何の計算かよくわからなかったがフリムによると「来年の収穫量」や「被災した時にどれほどの援助が必要か」など、それに「各領地の人数や年齢なんかもわかれば何が出来るのかを算出できるのではないか?」などとも言われた。


「そういうのは貴族が把握すれば良いのではないか?」と聞くと「国がそれを知らないと税金をごまかす領地貴族やこの間の税務官のように不正がしやすい状況になりますね」と返されてしまった。……胸を槍で突き刺された気分だ。


戸の数、つまり家の数とに住む人数などを調べて国が把握する。この『戸籍』によってある程度の領地の戦力もわかるというのも素晴らしい。貴族共は税を減らすために数を減らして申告してくるか?いや、自領を過剰に見せるものもいるし多く申告してくるか?わからんが、国全体の数字が見れれば魔法使い抜きではあるが計算がしやすくなる……はず。


リヴァイアスでは吸収したクリータとクーリディアスを含めて戸籍を調査中らしい。異世界のやり方を全て取り入れることは出来ないだろうが、フリムは便利だと確信して取り入れているようだ。



後日、何度もフリムは異世界の叡智を教えに来てくれていたが……そのせいで王宮では俺が「幼女趣味で間違いがない」と囁かれていた。噂したやつはリヴァイアスに喰われてしまえばいいのに……。

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