第210話 秘密っ!!
シャルルが素直に寝てくれたので書類の山からどんどん見ていく。
前世で考えると新入社員ほどの年齢だろうか?なのに重責のあるトップになった。……キツイだろうなぁ。
とにかくどんどん見ていく。数字と名目、場所に名前。――――見てメモをとるだけ。
全体の把握には時間がかかって当たり前だ。地道にデータ入力し、グラフ化して全体を見て……それでも「見つけたい不正データ」が見えないことなんてよくある。逆にわかりやすい不正はすぐ見て取れることもあるが。
そもそもこれ、見てすぐに把握できるものではない。山程書類はあるしこれだけの量があればそれだけで全体像の把握すら難しいはずだ。一国の書類がここにある分だけとは限らない。
こちらにはこちらの処理方法があるし、手元の紙にメモを残していく。
「<水よ。腕を形作れ>」
書類をめくってどんどんと見ていく。水の腕の発展形、ゴム手袋を使ったゴムハンド魔法……ただただ数をこなして行く。
ゴムの改良をしていくのに試しに手袋を作ってもらったのだが、そもそも使う需要や用途がなかった。この世界ではそもそもゴム手袋がなかったのだから当たり前といえば当たり前だ。
それに紙も植物紙のようだけど工業生産しているわけじゃない。紙同士で吸い付くようにめくれないわけでもないから指先に付ける必要もない。
強度実験で水を入れてみたりして……やっと薄くてもそれなりの強度が出せるようになって感動していた。しかし開発段階のゴム手袋は分厚くて動かしにくいし使い道がないと家臣に言われたが……触っているうちに「これ私なら使えるんじゃないか」と気がついた。
――――水を操ってゴム手袋の内部に水を満たして動かせる。
ゴムは水を通さず、私は水を操ることができる。簡単な調理器具ぐらいなら水でそのまま掴めるが、流石に紙や粉末にしたスパイスには触れられない。
しかしゴム製の手袋に水を入れれば、私は手のように操ることができるしなにより濡らさずに物を掴める。骨や関節がないから初めは奇怪な動きをするイソギンチャクのようなものだったが、練習して手の動きができるようになって事務作業にも使えるようになった。
書類を掴んで自分の前に見せていくのに使える。手元で作業できるのは勿論一枚だが。机の上で一枚ずつ見るよりも比較して見やすい。前世の仕事もモニターを複数で処理していたから慣れもあると思う。
どんどん見ていくが……酷いな。
これらは担当者の署名もあるが、ダブルチェックもされてないのか。なんで税務書類に「精霊輝く今日この頃~」とか「一昨日の肉は美味かった」とか書いてるんだ?しかも書類の形式がバラけている。紙も全く同じ項目なのに差があって書き方が違う。いくつかはインクが汚れて読めない。インクをこぼしたようだ。食材、魔導具、鎧の購入費用。小遣い代金?…………小遣い代金!!?なんだこれ。意味不明なものも大量にある。
10枚ごとに付箋を挟むようにメモを挟んで作業を進める。原本に数字を書いて管理したかったがその確認のためにシャルルを起こすのは忍びないし、白紙の紙なら山程あった。書類の山ごとにまとめたメモを載せてとにかく数をこなす。
気になった人物、怪しい数字、おかしな項目……わからないなりにどんどんと書き出していくだけ。
私の知らない「前提の必要な知識」もあるだろう。無駄になってる処理もたくさんしているはずだ。もしかしたら私のしている全部の処理が無駄かもしれない。しかし、それでもこれは後でシャルルの役に立つかも知れない。
帰れば私の仕事もあるのだが……やはり頑張る青年がいれば少しぐらい手伝ってあげようという気にもなる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いつ寝たのだろうか?それまで何をやっていたのだったか……執務室か、誰か、いや、なにかいる。横をゆっくり見ると…………変なものがいた。
水の腕が10本ほど、座っている子供、フリムの後ろを浮く杖から伸びている。水の先には手らしきものがあって……書類をフリムに見せている。杖に触れずとも魔法を杖から使っている?いや、そこじゃない。水の魔法で書類仕事?いや、水の、腕??
……新たな魔法を使えるようになったのか。とてもめでたい。
新しい魔法が使えるようになれば、親や家長が祝ってやるものと聞く。親のいないフリムの代わりに俺が祝ってやるべきだろうか?
フリムには負担をかけすぎている。本当ならもっと自由にさせてやれるのかもしれない。争いなどとは無縁の状態にしてやって……いや、無理だな。政治がそれを許さない。俺が王となったときよりも幼いのに俺以上の負担をかけてしまっている。この小さな体に。
――――そもそも彼女を祝う資格など俺にあるのだろうか?
政治的な理由があったとはいっても半ば強制的に彼女を苦難に追い込んでいるのは俺だ。
恨まれてもおかしくはない。
なのにこうやって助けてもらえる。体もあの水を飲んだからか驚くほど軽い。今なら10日ぐらい起きられそうだ。
外を見るにかなりの時間が経ったようだな。書類も……恐ろしいほど動かされている!?俺よりも何倍も処理が早いな。
エールもいない、か。今なら話すこともできるか。
「おはようフリム」
「あ、おはようございます」
「どうしている?」
「仕分けとメモを残しています。それと計算の仕訳項目について少し聞きたいです」
「どれどれ……」
書類の山をどう仕分けたのか、書類の束に挟まれた紙見てみると書類1枚分の概要が数行で書かれている。こういうのでいいんだ……こういうので…………!!計算も「ぼき」という計算方法があると項目ごとに分けたものがあり、書類の束であればこうなるのではないかという計算がされている。書類も挨拶とか「毎日どう過ごしているか」という項目は余計だからいらないからと削った形式のものを作ってくれている。――――本当に、こういうのでいいんだ。
「――フリム。大事な話がある」
「はい?やはりこの交友費の高額申請の承諾についてでしょうか?」
「……それもある。でもそうじゃない落ち着いて聞いてほしい」
「はい」
落ち着いてくれと言いつつ、俺のほうが慌ててしまっている気がする。
――――この話をしても本当に良いのだろうか?
しかし、いつかは聞かなきゃいけなくて、今なら、何かしらの手助けができるかもしれない。
「まず、俺はフリムの味方だ。それは信じてほしい」
「?はい」
不思議そうに俺を見てくるフリム。
……わかっていなさそうだ。当然だが。
「俺は、お前が俺にどんな無礼を働こうと許す気でいる。反逆したって良い。オルダースとフラーナには命をかけて助けられた。その娘であるフリムには何もしてやれないどころか苦難を強いている。恨まれていてもおかしくはないと自覚している」
「恨んでなんていませんよ?」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。俺は絶対にお前の味方だ。裏切ることはない」
不思議そうなフリムに、覚悟を決めて聞く。
「だから聞かせてほしい……フリム。この計算方法もそうだが、どこでこんな知識を覚えた?」
「っ!!?」
驚いた顔をしているフリム。傷つけたいわけでも、追求したいわけでもない。
ただ、フリムの隠し事を知った上で味方としてあると言いたかったのだ。
「わ、私は」
「聞かせてほしい。俺はどんな秘密でも、フリムの味方だ」
「……ぁ……そ、その………………」
無理に聞き出すのも良くないかも知れない。
ただ、隠し事をするのを苦しそうにしているともエールから聞いている。……できればフリムの良いように寄り添ってやりたい。
「言いにくそうだが……見当はついている。俺とルーラ、それぞれの闇の加護魔法がきっと原因だろう」
「…………」
目を伏せてしまったフリム。…………やめるべきか?
いや、ここまで話してやめれば、きっともう聞く機会はなくなってしまう。
「フリムの知識と魔法力、精霊からの愛され方はどう考えても普通ではない」
「ぁ……」
「王家の人間が使う加護の魔法は健康になる他、何かしらの特殊な現象も起こす。それを俺とルーラの両方が行った。賢者の霊がついているのならそれも納得だ。もしも誰かに恨みがあるのならそれも手伝うことができるかもしれない。なにか辛いことがあるなら何でも言ってほしい。どんなことだって、とにかく俺は味方だ。なにか俺に手助けできることはないか?聞かせてほしい」
「私、は……」
どんな答えが出てきても良い。ついている霊が誰かに復讐したいのならすれば良い。もしも何処かに大切な人がいるのなら会えるように手配しよう。
あまりに異質だし言いにくいだろう。誰かに言おうものなら……悪魔憑きとでも思われて殺されるかもしれない。賢いフリムのことだから今まで誰にも言えなかったはずだ。
どんな秘密だろうと、それがたとえ恨み言であっても受け止めると決めた。まぁ俺への恨み言だとすれば少しは傷つくかもしれないが……さて何を言われるか。
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